第11話 2学期が始まりました

今日からいよいよ2学期が始まる。ちなみに貴族学院は、2学期制だ。久しぶりに制服に身を包み、お兄様が待つ馬車へと乗り込んだ。


「アメリア、もしかしたらお前とオスカーの婚約解消の事が、話題になっているかもしれない。でも噂なんてすぐに落ち着くから、あまり気にするなよ」


「お兄様、心配してくれてありがとう。でも、ファビアナもいるし、きっと大丈夫よ」


どうやらお兄様も、私の事を気に掛けてくれている様だ。


しばらく進むと、貴族学院が見えて来た。約2ヶ月ぶりの貴族学院。馬車から降りると、なぜかオスカー様が待っていた。


「やあ、アメリア。おはよう!一緒に教室まで行こう」


そう言って手を差し伸べて来るオスカー様。


「オスカー、どういうつもりだ。アメリアと君は正式に婚約を解消したのだよ。ただでさえ今回の婚約解消で噂の的にされているのに、こんな事をしたら余計噂が酷くなる。とにかく、しばらくはアメリアに近づかないでくれ。ほら、行くぞ。アメリア」


お兄様に手を引かれ、教室へと向かう。さすが過保護なお兄様だ。私が言うまでもなく、はっきりとオスカー様に告げてくれた。


「それじゃあ、俺は自分の教室に戻るから」


そう言って3年生の教室へと向かったお兄様。その瞬間、なぜか令息たちに囲まれた。


「アメリア嬢、オスカーと婚約を解消したんだって。色々と大変だったね」


「あんな浮気男と別れて正解だよ。そうだ、もう婚約者も居なくなった事だし、今度王都に出来た新しいスウィーツのお店に行かないかい?とってもうまいって評判なんだ」


「お前抜け駆けはずるいぞ!アメリア嬢、ファビアナ嬢と商船で旅をして来たのだろう?どうだった?」


なぜか物凄い勢いで令息たちに話しかけられる。どうしよう…


その時だった。


「アメリアから離れろ!」


令息たちの輪をかき分けやって来たのはオスカー様だ。すかさず私を腕の中に閉じ込めた。さすがにもう婚約者じゃないのだから、これはマズいわ。腕から抜け出そうとするが、力が強すぎてビクともしない。


「オスカー様、何度も申し上げている様に、私たちはもう婚約者同士ではないのです。軽々しく触れるのはお止めください」


抗議の声を上げたのだが…


「うるさい!君は僕のものだ。そもそも僕は、婚約解消なんてしたくなかったんだ!それを父上と君の父親が無理やり手続きをしたのだろう。僕が承諾していないのだから、婚約解消は無効だ!お前たちもよく聞けよ。アメリアは僕のものだ!」


オスカー様はどこかで頭をぶつけたのかしら?あまりにも支離滅裂な事を言っているから、周りもすっかり引いてしまっている。


そこに割り込んできたのは、ファビアナだ。


「朝から何を騒いでるの?おはよう、アメリア。あら?オスカー様とまた婚約し直したの?そんな話は聞いていないけれど」


そう言うと、にっこり笑ったファビアナ。


「いいえ、結び直していないわ」


「それなら、どうしてオスカー様はアメリアを抱きしめているの?」


こてんと首を傾げるファビアナ。


「ファビアナ嬢、僕はアメリアを愛しているんだ!父上たちに無理やり婚約解消をさせられたんだよ!だから…」


「だからアメリアは自分のものだって言いたいの?ふざけないでよ!これでもアメリアはあなたの行いのせいで傷ついたのよ。あなたとの婚約解消の連絡を受けた際も、1人で泣いていたのだから!散々今までアメリアを傷つけておいて、よく抜け抜けと愛しているなんて言えるわね!とにかく、アメリアが婚約を結び直すと言っていない以上、あなたのものでも何でもないわ!気安く令嬢に触れるのはマナー違反よ!」


ファビアナの迫力に、一瞬ひるむオスカー様。その隙に、私を解放してくれたファビアナ。さすがだわ!


「さあ、もうすぐ先生が来るわ。席に着きましょう」


何食わぬ顔で、席に着いたファビアナ。私も急いで自分の席に着いた。何だかんだでやっぱりファビアナは頼りになるわ。



この日は2学期初日という事もあり、午前中で終わりだ。帰ろうとした時、すかさずオスカー様がやって来たが、ファビアナがしっかりガードしてくれた。そのおかげで、無事伯爵家に帰る事が出来た。


そして翌日も、オスカー様は何かと絡んでくるが、ファビアナがシャットアウトしてくれている。オスカー様が私に話しかけようとすると、すかさずファビアナが現れて、私を連れ出してくれるのだ。


そんな日々が1週間程度続いたある日。


「さすがにちょっとやりすぎたかしら?最近のオスカー様、すっかり元気が無くなっちゃったわね。アメリア、話すぐらいならいいんじゃない?」


ずっと私をオスカー様から遠ざけてくれていたファビアナ。さすがにオスカー様が可哀そうと思ったのか、私に提案をして来たのだ。


「そうね、わかったわ。ファビアナ!今まで色々と守ってくれてありがとう。そうよね、オスカー様もクラスの一員なのだから、あまり無視しているのも良くないわよね。次話しかけられたら、対応するわ」


そう決めた昼休み。いつもの様に、オスカー様がこっちにやって来た。


「アメリア、良かったら一緒にお昼を食べないかい?もちろん、ファビアナ嬢も一緒に」


ファビアナと2人で顔を見合わせた。ファビアナも一緒にですって?どういう風の吹き回しかしら。


「ええ、いいわよ。せっかくなら、皆で食べましょうか」


そう言うと、近くにいた令息や令嬢たちに声を掛けるファビアナ。そして、皆で中庭に移動して、お昼を食べる事にした。


すかさず私の隣に座ったオスカー様。あまりの動きの速さに、ファビアナも苦笑いしている。


「アメリア、こうやって一緒にご飯を食べるのは、どれくらいぶりだろうね。僕がバカだったばかりに、君を傷つけてしまってすまない。僕が好きなのは、昔も今も、もちろん未来も君だけだよ。だから、ずっと隣に居て欲しい」


なぜかみんなの前で急にそんな事を言いだしたオスカー様。周りのみんなも苦笑いしている。


「ほら、アメリア。君が大好きなサンドウィッチを持ってきたよ。君は昔から家のシェフが作るサンドウィッチが大好きだったものね。そうだ、僕が継ぐ予定の伯爵家にもシェフを連れて行くから、安心して嫁いできて!」


そう言って、私の口にサンドウィッチを放り込んでいくオスカー様。確かに私はこのサンドウィッチが好きだ。でも、皆の視線を一斉に受けている今、正直恥ずかしすぎて味なんてわからない。


「アメリア、パンのカスが付いているよ」


そう言うと、私の唇をペロリと舐めるオスカー様。今、何をしたの?く…唇を舐めたわよね!一気に顔が赤くなるのが分かった。今まで頬に口付けをされる事はあっても、唇に直接触れられることはなかったのだ。


それでも、気を取り直して、オスカー様に抗議をしようとしたのだが…


「オスカー様、このような事は…」


「アメリア、可愛い!大好きだよ!早く婚約を結び直そうね!」


私の言葉を遮り、頬ずりをするオスカー様。何なのよ、一体!昔の紳士的なオスカー様はどこに行ってしまったの?どうやらこれでスイッチが入ってしまったオスカー様。伯爵家の馬車に乗り込んで帰ろうとする私を拉致すると、そのまま侯爵家の馬車へと乗せられた。


向かった先は、騎士団の稽古場だ。確か私は騎士団の稽古場への立ち入りをオスカー様から禁止されていた。それなのにどうして?


「本当はアメリアをここには連れて来たくなかったんだ。むさ苦しい男共が沢山いるからね。でも、アメリアを野放しにしておくよりかはマシだ。アメリア、必ず僕の側に居る事!これだけは約束してほしい」


約束も何も、私は家に帰りたいわ…


「約束を破ったら、そうだな。僕のいう事を何でも聞いてもらうかなね。それじゃあ、行こうか」


そう言うと、私の腰に手を回して歩き出すオスカー様。


「待ってください!私たちはもう婚約者同士では…」


無いですから!そう言おうとしたのだが、オスカー様の唇が私の唇を塞いだ。ここは騎士団の稽古場の入り口だ。もちろん、沢山の騎士様達が見ている。そもそも、私にとって初めての口付けだ!こんな大勢の前で、なんてことをしてくれるのよ!この男は!


必死に離れようとするが、ビクともしない。華奢な体をしているのに、無駄にバカ力なんだから。そう言えば、港でも4人がかりで連行していたわ。女の私が、オスカー様に力で勝てるわけがない。


って、納得している場合じゃないわ。どうしよう、婚約者でもないのに、人前で口付けだなんて!今度こそ嫁の貰い手が無くなるわ!私の焦りとは裏腹に、どんどん深くなっていく。パニックから涙が込み上げて来た。


私の涙に気がついたのか、慌てて離れたオスカー様。


「ごめん、アメリア。でも、君がいけないんだよ。何度も何度も婚約を解消したって言うから。これから、婚約解消の話をしたら、こうやって唇を塞ぐからね」


そう言ってにっこり笑ったオスカー様。こんなに強引なオスカー様は知らないわ。私の知っているオスカー様は、いつも優しくて私の嫌がる事は絶対しないのに…


がっちり腰を掴まれ、連れてこられたのは騎士団の見学場所だ。


「アメリア、ここから絶対に動いてはダメだよ。もし動いたら、そうだ!君から口付けをしてもらうからね」


なぜ婚約を解消したのに、私から口付けをしなければいけないのだろう…そう思いつつも反論できない。


「それじゃあ行って来るけれど、いい子にしているんだよ」

私の頬に口付けを落とすと、稽古場へと走って行ってしまった。


せっかくなので、稽古を見る事にした。それにしても、久しぶりに見たオスカー様は、あり得ない程強くなっていた。次々に騎士たちを叩きのめして行く。


そんな姿を見て、やっぱりカッコいいわ!!そう思ってしまう自分が憎らしい。


その時だった。

「アメリア様、ちょっといいかしら?」


話しかけてきたのは、ミア様とその取り巻き達だ。

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