ep28 彼氏失格<2>
おじさんは、救急車が来て、美波とオレが救急車に乗るのを見送ってそのまま神戸駅の方に向かって行った。
オレは美波の手を救急隊の邪魔にならないように、握るしかできない。手もかなり熱い。
「15歳、大阪…」
無線で美波の受け入れ先の病院を探してくれている。1軒の病院が受け入れることになった。
いったい、美波はなんの病に冒されているのだ? さっきの親切なおじさんの言った「彼氏失格」の一言がオレの胸に突き刺さった。そうだ、確かに、神戸に着いた時点で、オレも美波の体調がそこまで優れていないことはわかっていた。それなのに……!!
美波は検査を受けた。
結果、ただの風邪だろう。それで無茶したからこうなったということだった。
点滴を打って経過観察ということだった。時間も時間なので、とりあえず、入院することになった。
「はい、肉屋の山下じゃなかった、はい、山下です」
オレは美波の家に電話をかけた。
「すいません、あの、三条って言って、美波さんの彼氏です」
「あら、蒼空くん。どうしたの? ウチの娘が迷惑かけてない?」
「迷惑かけてるのはオレの方っす。オレのせいで、美波さんが熱で入院することになりました」
「あーやっぱり? うん、大丈夫。それは美波のせいだから。朝から熱っぽいのに、蒼空くんと神戸の夜景見に行くから絶対行く!! 熱がどんなにあっても行く!! って言い張るから、まぁ、あたしゃ引き止めたんだけどねぇ。まぁ、あたしゃがお客の相手してる間に家抜け出してたのよ。まぁ、自業自得よ」
「そんな、気づけなかったオレも悪いっす」
「蒼空くんはそんなに気にしなさんな」
「ありがとうございます」
美波のお母さんは優しく声をかけてくれて電話を切った。でも、やっぱり、熱に気づけなかったオレは彼氏失格だ。
「蒼空くん……」
点滴が終わった美波が意識を取り戻して、ぼやっと言った。オレは美波の手を握って大粒の涙を流していた。
「ごめん、美波。オレ、本当に彼氏失格だ」
「そんなことないよ」
そして、後に知ったことだが、この日は美波の16歳の誕生日だった。
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