第482話、突撃、ヴィジランティ


 グリグ製造工房に突如現れたもの。それは――


『団長、ジャイアント種が3体、出現!』


 リアナの報告。


「ジャイアント!?」


 俺が思わず口走れば、エマン王もジャルジーも驚いた。


 要するに巨人種族だ。基本的に人型だが、その大きさは巨大。伝説級になると人間とは桁違いの大きさになり、小型といわれる種族でもオーガ並みの3メートル以上の大きさがあるとされる。 


 とりあえず工房の屋根を突き破らなかったところからして、小型種で間違いないだろうが、何故こいつが突然現れたのか。


「召喚生物か、はたまた魔法具か」

「まあ、やることは決まってるわな」


 ベルさんが言った。そう、この場で出てきたということは敵であり、排除しなくてはならない。


『セイバー全ユニット、キルモードにセット』


 リアナが、各シェイプシフター兵にスタンモードから敵を殺せる通常モードへの切り替えを指示。どうやら戦うつもりのようだ。……まあ、俺が撤退しろと言っていれば話は別だろうが。


 こっちも予備戦力を投入しよう。


「アーリィー、マルカス、工房内に突入だ。馬車用の入り口から侵入しろ」

『了解』


 待機していた、薄い青色塗装のパワードスーツが前進を始める。アーリィーの機体が、工房の馬車用出入り口、その鉄の扉に手をかけ、それを力任せに引いた。本来なら数人がかりで開ける重々しい扉がスライドして、その口を開ける。


「中に味方がいる。飛び道具の使用は禁止。近接戦闘で当たれ」


 ヴィジランティは、青藍せいらんと同じく肩部にサンダーキャノンを備え、手持ち火器としてTHMG-1重機関銃を装備している。ベルさんの断絶結界で外部への流れ弾は防げるが、中にいる味方への誤射や巻き添えが怖い。


 マルカスのヴィジランティが、機関銃から棒型の近接武器へ持ちかける。彼が愛用していたフロストハンマーの特性を受け継いだ、スパイクハンマーである。


 脚部の浮遊ユニットを稼動させ、滑るようにヴィジランティが工房内へ突入した。



  ・  ・  ・



 マルカス機が中央作業場へ入り込んだ時、リアナら突入部隊はライトニングバレットを連射し、ジャイアントを一体釘付けにしていた。


 反対側でも同じく一体が腕で顔への攻撃を防いでいて、残る一体は顔面を押さえてのたうっていた。


 ライトニングバレットではジャイアントを殺すまではいかないが、嫌がらせ程度にダメージを与えることができるようだった。


 しかしジャイアントなど、マルカスは実物は初めて見た。


 発達した体躯はなるほど巨人だが、着ているのは腰みのだけ、ぼさぼさの体毛と、その格好は蛮族そのものだ。身長は3メートルに届かない程度か。頭ひとつヴィジランティより高い。


 マルカスは、弾幕を前に動けずに入る一体の側面に回りこむ。作業机や木箱を吹き飛ばしたが、構っている場合ではない。まずは、障害を排除する!


 舌が乾く。思えばヴィジランティが完成してまだ日が浅い。陸専用の装備ということで、率先してそれが扱えるように訓練に参加した。空を飛ぶより、騎士として陸戦兵器のほうが合っているのではないかと思ったからだが、こうして実戦は初めてである。


「ほぼ動かない相手に当てられないほど、未熟ではない!」


 ヴィジランティがスパイクハンマーを、ジャイアント、その左肩に叩きつける。


「砕けッ!」


 鈍い打撃の衝撃と共に、スパイクハンマーが巨人族の肩を抉る。同時にボタンを押し込む。


 ハンマーの内側に内蔵された点火魔法が発動。スパイク部分が爆発によって打ち出され、ジャイアントの肉をさらに抉り、骨を砕き、ついで猛烈なる爆発がその体内を焼き、炸裂した。


 肩どころか、左上半身が吹き飛び、まず一体の巨人が倒れた。肉片と血が飛び散り、ヴィジランティの薄く青い装甲に返り血となって付着した。


 残りは――視線を向けたマルカスのヴィジランティ。反対側でSS兵の射撃を受けていたジャイアントが作業机を力任せにぶん投げ、兵たちを散らしていた。


 こいつが立て直す前に――マルカスが思った矢先、その右を、ヴィジランティが駆け抜けた。


 アーリィー機だ。左手に盾を持っているが、右手には……何か持っていたか?


 マルカスが目を瞠る中、アーリィー機がそのジャイアントにシールドからの体当たり――シールドバッシュを決める。そして振りかぶった右腕を、ジャイアントの顔面にぶち込んだ。


 直後、その巨人の頭がトマトのように潰れて吹き飛んだ。


 アーリィー機の右手、マニピュレーターを保護する目的のナックルガードが手を保護していたが、そのナックルガードは同時に武器が仕込んである。


 スパイクハンマーと同じく爆発系魔法がヒットと同時に炸裂する。ボンバーナックルという武器である。


 これで二体目――最後は、顔を覆ったままうずくまっている個体。


 こういうのも倒さなければならないんだろうな、とマルカスは、わずかだが哀れみの感情を抱いた。


 だが巨人は見えないながらも近くにあった木箱を掴むと、それをまわりに放り投げた。狙ったわけではない。だがまだ抵抗しようとする。


 一瞬、同情したおれが甘かった――マルカスはスパイクハンマーで、そのジャイアントを殴打し、トドメを刺した。



  ・  ・  ・



 工房は制圧された。隠されていた部屋は、擬装魔法を用いた魔法具による効果で光学的に見えないようになっていた。


 階段を見つけたシェイプシフター兵が部屋に乗り込み、中にいたボナー商会の職員を捕らえた。ジャイアントを具現化させたのも魔法具であり、職員自身には魔術の心得はなかった。


 どうやら証拠隠滅用の使い捨て召喚魔法具だったようだ。施設を破壊し、あわよくば襲撃者と働いている者たちを消そうという。


 リアナとSS兵が工房内の安全確保をしたあと、俺、エマン王、ジャルジーは中に足を踏み入れた。


 横たわるジャイアントの死体と、その傍らに立つヴィジランティを見て、ジャルジーは感嘆の声をあげる。


「これが巨人族……。しかし、その巨体すら穿つ魔法甲冑のパワー。これならオーガとも互角以上にやれるな! アーリィー、マルカス、よくやった!」


 褒めるのは俺の仕事なんだけど……まあ、いいか。ヴィジランティを使った実戦は初だからな。実際、大したものだ。

 リアナが報告に来た。


「捕虜17名を確保しました。ジャイアント種との交戦の際、七名が死亡、三名が負傷しました。いずれも麻痺していて、逃げることができなかったためです」


 一瞬、味方の被害かと思ったが、工房にいた作業員たちの犠牲者の報告だった。巨人が現れなければ、この死傷者はゼロだったに違いない。


「味方の被害は?」

「ゼロです」


 だよな……。この場に突入した人間ってリアナとマルカス、そしてアーリィーのみで、あとは全部シェイプシフター兵。彼らはスライム体による圧倒的な物理耐性を持ち、魔法攻撃、とくに火でなければ致命傷は負わない。


「ご苦労。捕縛した者たちは王国軍に引き渡す。負傷者は手当てをしてやれ。手の空いている者は、グリグとそれに関連するものの回収だ。……まあ、これも王国軍に任せるけど」


 リアナは了承の頷きを返すと、SS兵たちに俺の指示を伝えた。

 エマン王がやってきた。


「犠牲者ゼロだって?」

「ええ、うちの兵は優秀です」

「まったくだな。近衛に欲しいくらいだ」

「あれは化け物ですから。近衛には置けませんよ」


 例えではなく、本当に姿を変える魔法生物である。名前のとおり、化ける物である。


「使い魔みたいなものか?」

「そんなものです」


 便利な言葉だな、使い魔って。俺が心の中で呟くと、エマン王は視線を転じた。


「これで、王都内のグリグの工房を潰したわけだな。問題は解決か?」

「いえ、まだ諸悪の根源が残っていますよ」


 俺は腕を組んだ。アウラ・ボナという黒幕が。

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