第471話、ヴィジランティ
パワードスーツ作りの中、俺は、一つの考えが浮かんだ。
装甲をつけた、いかにもメカメカしいパワードスーツだけでなく、最低限の外装のみの身軽なパワードスーツがあってもいいのではないか、と。
軽装スーツと、元々の予定であるパワードスーツ、その二種類を作ることにした。
さて、従来のパワードスーツのほうであるが、インナースーツの動きをトレースして、きちんと動作するかの同調試験も繰り返し行われることになる。中の人間の意志に従って、外装もついてこなければ意味がない。
こちらは、経験者であり言いだしっぺであるリアナが担当した。
装甲なし、人工筋肉で覆われたスーツを動かしてみる。……最初は動きがぎこちなかった。特に細かな動作になると、中の人間の力の加減が微妙に伝わらず、ズレが発生するのが原因だった。
サイズが人間よりひと回り大きくなってマッシブになっている分、挙動に差が出るのは仕方がない。
「……コピーコアを載せよう」
というわけで、細かな動作、力の加減などを、中の人とのやりとりでコアが学習し、適性を詰めていく。
「加速」「ジャンプ」「着地と同時にダッシュ」――傍から見ると、リアナが機械的に独り言を呟いているようにしか見えず、ちょっとした狂気を感じた。
青藍などのバトルゴーレムで基本的な動作をマスターしているコピーコアによって、動作の補正作業は順調に進行した。
一方で、軽装スーツのほうは、あくまで人間が着る鎧という魔法甲冑のコンセプト同様、そのまま着用する形なので、動作や挙動についてパワードスーツのようなズレは発生しなかった。
ロマンはないが、もうこっちのほうが早いし手軽なような気がした。軽装スーツは、某変身ライダーみたいなものと思えば、理解は早いと思う。
ただ、軽装スーツは、リアナが当初提言した、重量物の輸送という点でパワードスーツに劣る。トータルで運べる装備の量がどうしても一般的な人間の輸送量に毛が生えた程度になってしまうのだ。
とはいえ、それでも普通に運ぶより身体にかかる負荷が少ないために、一般歩兵の装備としては有用だとリアナは言った。
ミスリルを織り込んだインナースーツと薄いながらも装甲がある点も好ましいが、パワードスーツに比べれば防御に不安がある。
これをさらに魔法金属などで重量を増やすことなく補強もできるが、そうなると凄まじく調達にコストがかかり、量産性は悪くなる。
軽装スーツ一着の魔力量で、戦闘機が作れますよ、という話である。
はじめは、俺とユナ、リアナ、時々ダスカ氏やサキリスが手伝っていたのだが、そのうち、パワードスーツ作りを見学していたジャルジーが、魔法甲冑作りの参考に、エルフのガエアとドワーフのノークを呼びたいと言ってきた。
あわよくば俺が作っていたパワードスーツの技術を、魔法甲冑にも活かそうというのだろう。
まあ、いいんじゃない? できることが増えれば、いずれ魔人機を王国で独自に生産できるようにするための技術者の養成にも繋がるし。
今のところ、あの二人がヴェリラルド王国での最先端ってところであるが、大帝国に対抗するためには、まだまだ覚えることも多いのだ。
いくつか機密事項にして、口外しないようにする取り決めを交わした上で、二人の職人をウィリディスへ招く許可を出した。
やってきたガエアとノークは、そこで目の当たりにした地下工場の設備と、見たこともない車や戦闘機などに驚愕し、また製作中のパワードスーツ、そして魔人機を目の当たりにし、これ以上ないほど頭を下げた。
「師匠、本当の本当に弟子にしてくださいッ!」
エルフ、ドワーフの両職人は、ウィリディスの技術を学ぼうと協力は惜しまなかった。まあ、俺もエルフとドワーフの技術を学ばせてもらうから、ちょっとした取り引きではある。魔法甲冑のことを気軽に質問できるようになったし。
ともあれ、ウィリディスにおけるパワードスーツの開発は進み、青藍とマッドハンターの魔法甲冑を足して二で割ったようなスタイルの機体が完成した。
TPS-1ヴィジランティ。
サイズは高さ2.5メートルと、二メートル少しのモデルとした機体よりも頭ひとつ大きくなっている。オーガの平均身長くらいはあるだろうか。
武装については、バトルゴーレムのものを改良した連装サンダーキャノンを両肩部に搭載。ほか、手に実弾系重機関銃や竜剣ことドラゴンテイルなどを装備が可能だ。
背中にハイエアブースターで採用したブースター、そしてコピー・コアを積んでいる。
完成したヴィジランティは、リアナが操縦することで稼動テスト、実戦を想定したテストをそれぞれ行った。
ブースター効果で、青藍や魔法甲冑を凌駕する移動スピードを獲得。
仮想敵として作った即席のロックゴーレムを竜剣で砕くパワー、そして敵の豪腕を機敏に回避する運動性など、充分な成果を発揮した。
……うん、まあ、まずまずじゃないかな。
元の世界でアニメや映画を親しんでいる俺としては、ヴィジランティに対してそういう評価となる。特徴がないのが特徴みたいな、そんな感じだ。
最初のモデルは完成した。後はこれをどう向上させていくか、である。
なお初期モデルは3機製作。アーリィーやマルカスは戦闘機に続き、パワードスーツの動かし方を練習していた。
アーリィーは興味から、マルカスは騎士らしい装備だからと操り始めたのだが……家の人たちは実に積極的である。
そして、エマン王とジャルジーが、ヴィジランティの性能を聞き、王国が開発中の魔法甲冑にその技術を転用するという話となった。
そのまま量産するには、現地の技術が追いついていない。そもそも機械文明時代の技術やダンジョンコアの魔力生成がないのだ。
王国の技術者のレベルを上げるためにも、まず王国の技術者で製作できるように落として作ると決まった。だが最終的には、ヴィジランティを超えるパワードスーツを製造できるようにするのを目的として掲げている。
千里の道も一歩から。物事には順序というものがあるのだ。
「そしてジンよ」
エマン王は言った。
「大帝国の魔人機に対抗するため、ヴェリラルド王国軍が運用する魔人機の開発を依頼したい」
魔法甲冑どころか、それを上回るパワードスーツも作り上げた俺たちウィリディス開発陣に期待して、というところだろう。
……うん、すでに魔人機、あるんだけどね。
はてさて、どう言おうかな、これ。ありますよ――うん、適当な時を見計らって、できました、って言う?
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