第10話 酒場の喧騒 後編
状況が飲み込めず、一旦ドアを閉め考える。
多分疲れているのだろう。見間違いだ。
そう考えて再びドアを開け、中を確認する。
そこには立ち上がりジョッキを片手に、
何も見なかったことにして帰りたいという気持ちが思考を埋め尽くす。
すぐに回れ右をして帰ろうとする肩に手が置かれる。
「おい! バルバトス! お前の連れが来たぞ!」
「一名様ご案内!」
「この坊主に酒をもって来い!」
などの会話が大声で飛び交う。
最悪だ。捕まった……
「僕の連れのルドだ。仲良くしてくれ」
バルバトスは何のためらいもなく紹介を終える。
なんでこの人、今日来た酒場でこんなに混ざれてるんだよ。
仲良くなりすぎだろ。それとも以前来たことがあるのだろうか。
若干、というかすごく引き気味で見ているとテーブルに酒が注がれたジョッキが置かれる。
「あの晩御飯が食べたいんですけど」
せめて食事だけはと運んできたウェイトレスに話しかける。
すると
「なにしてるんだよ」
「酒飲んでる」
「見たら分かるよ!?」
騎士団副団長がこんなことやっていいのだろうか。
「飲みすぎだろ」
テーブルの端に積まれたジョッキを見て呟く。
「飲まないのか?」
「飲まないよ!」
十七歳に勧めるなよ。国によって違うらしいがこの国ではお酒は十八歳からだ。
バルバトスの勧めてくるお酒を断っているとウェイトレスが料理を持ってきた。
昼も食べていなかったから凄く楽しみだ。お酒の匂いが辺りに漂っているせいで食欲が若干削がれるが。
それでもお腹が空いているので期待していると並べられたのは豆料理が二品、固形のチーズを使った料理が三品。
「あの、間違えてません?」
「あっ、品数が多いのはサービスです」
「酒のつまみは頼んでない!」
「なんだ。いらないのか? じゃあ俺たちが貰うぞ」
と言ってバルバトスの周りにいた人達が次々に平らげていく。
それにバルバトスも加わり空になったお皿とジョッキがさらに積み重なる。
「すみません。この店でオススメの肉料理貰えませんか?」
次こそはという思いで注文する。
「分かりました」
そう言ってキッチンに帰っていくとすぐに肉料理を運んできてくれた。
「あるのかよ」
少しではあるが、つまみしか出ないのかと思っていたので安心する。
並べられた料理を見ると、周りの影響で削がれていた食欲が湧き上がってきた。
皿の半分には大きめに切られた肉が、もう半分にはソテーした芋が一口サイズで切り
肉と芋の香ばしい匂いが
急激にお腹が空き、料理に手を付けようとした瞬間、バルバトスが声を上げて飲み仲間に問い始める。
「肉料理といえば、最近人が喰われる事件が多発しているが何か知っている人はいないか?」
「おい! 肉料理に関連付けるな!」
食べようとしたところを邪魔され、またも食欲を削がれる。
酒は人を変えると聞いたことがあるがここまで変わってしまうとは……
来ない方が
「誰でもいい。
バルバトスが
自分も手伝うつもりだったが、酒の入った空間に馴染める気はしないのでおとなしく料理を食べながらバルバトスを見守る。
すると喧騒が静まり、少し気まずい空気が流れる。
彼らにとって触れてはいけない場所だったのだろうか。
そんなことを思っていると、筋骨隆々の男がバルバトスに情報を投げかける。
「王都を繋ぐ街道で商人が襲われたって話だ」
その言葉を皮切りに次々に情報が投げられる。
「死体は必ず森の中で見つかっているそうだ」
「長い爪で切り裂いてくるらしいぞ」
「目撃されているのは夜だ」
と言った声が次々に飛び交う。
恐らく今日知り合ったはずなのに、この人徳。バルバトスの凄さに改めて驚く。
「ありがとう!」
その場で一礼すると再びジョッキを掲げる。
「それじゃあ。改めて、乾杯!!」
そうして感心していたのも束の間。バルバトスは大量に酒を飲みほし、ベロベロに酔って机に突っ伏したまま動かなくなってしまった。食事代を払い終えたルドは肩を貸し、足の
階段を上り、廊下を歩いて部屋に到着する。
意識のないバルバトスをベッドへと投げ入れ、今日のことを思い返しながら就寝の準備をする。
酒場で聞いた話を一つ一つ思い出し
目撃されるのはいつも夜。
死体は森の中。
街道で出没。
長い爪が武器。
「そして人を食べている」
バルバトスが言っていたことを思い出し呟く。
魔族に関して詳しくはないが、ここまでの特徴。ほぼ魔族とみて間違いはないだろう。
街道で出没していて、死体は森の中。恐らく、森に住処があり、街道で
簡単な推論だがあながち間違っていないように思える。
あとは明日、街道近くの森でバルバトスが魔族を倒せば解決するはずだ。
魔族相手だと残念ながら足手まといにしかならない。明日でバルバトスとはお別れだな。
横で眠るバルバトスを見て、そんなことを思いながら眠りに就いた。
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