八尺様リバーシ
逆塔ボマー
「おはちの嫁入り」
●●郡郷土資料館 発行
「郷土のむかしばなし」第三巻収録
むかしむかし、●●村の山ひとつ向こうに越えた所に、
その村の村人たちは名前の通り、大人になっても五尺(現在の一メートル五十センチくらい)を少し超える程度の身長しかないのです。ほんの十数年で大人になり、五十年ほどで老いて死ぬほかは、こちら側とほとんど変わらない暮らしを営んでいました。
その頃は●●村と五尺村はとても仲が良く、山を越えての行き来は大変でしたが、それでもときおり訪ねあっていました。
彼らは小さい分、たいへん手先が器用で、小さいけれどとてもきれいな細工物を作っては持ってきてくれました。そのお礼として、こちら側からは若い人手を出して、日差しを遮る山を削ったり、橋をかけたり、川を掘って広げたりしてあげました。小さい彼らにとってはそれは大変なことで、大いに喜ばれたといいます。
そんなある日、五尺村の長老が、改まった様子で訪れて、●●村の村長にお願いをしました。
「良ければどうか、若い娘をひとり、こちらの嫁にくれまいか。私たちも大柄で長命な子孫が欲しいのです」
人々はおおいに驚きましたが、村と村の友好が深まるなら願ってもないことです。
誰が行くべきか三日三晩相談して、「おはち」という、村でもとくに小柄な娘が嫁に行くことになりました。
名前の通り八尺(現在の二メートル四十センチくらい)しかない、小さな娘でしたが、料理も洗濯も鍛冶も何でもこなす、器量の良い娘でした。
双方の村の祝福を受けて、おはちは五尺村で暮らし始めました。
しかし、五尺村での暮らしは苦しいものでした。
見るだけならかわいらしい五尺村の家々は、小柄なおはちにも小さすぎて、しばしば天井に頭をぶつけてしまいました。ご飯の量も少なく、おはちはいつもお腹がぺこぺこでした。
早く育って早く死ぬ五尺村の人たちは誰もがせっかちで、おはちは疲れてしまいました。
力仕事を任されるのは全然苦にもなりませんでしたが、とうとう耐えかねたおはちは、少しでいいので、と里帰りを申し出ました。
けれどもそれを聞いた五尺村の人々は怒りました。旦那もおはちのことを𠮟りつけました。
「どうせお前は戻ってくる気などないのだろう」
そう決めつけた五尺村の人々は、奇妙な石像を作って村の四隅に建てました。邪悪な石像に阻まれて、おはちは五尺村から出ることができなくなりました。
だからといっておはちの待遇が変わることはなく、おはちは相変わらず天井に頭をぶつけて、おなかはいつもぺこぺこで、せっかちな人々に振り回されては疲れ果てていました。
とうとう我慢できなくなったおはちが、旦那の首をねじ切ると、村の四隅にあった石像はおはちを遮ることができなくなりました。石像には「嫁をこの村から出さない」というまじないがかけられていたので、嫁ではなくなったおはちは自由になったのです。
そのままおはちは生まれ故郷の●●村に逃げ帰りました。村人たちはおおいに驚きましたが、おはちの話を聞いてみんな怒り出しました。
五尺村からもおはちを追って殺気立った小さな人たちがやってきましたが、村の若衆たちはその前に立ちふさがって、おはちを守りました。力ではかなわないと悟った五尺村の人たちは、ぽっ、ぽっ、ぽっ、と怒りの声を上げましたが、やがて諦めて立ち去りました。
去り際に、五尺村の長老はこう言いました。
「必ず嫁は貰うぞ。必ずだ」
以降、●●村と五尺村の交流は絶えてしまいました。
後日●●村の村人が、山の向こうに行って見たところ、五尺村があったはずの場所にはどこまでも山が続くのみで、小さな村も小さな人々も見つからなかったと言います。
この日以来、このあたりではときどき、小柄な娘に限って急に行方不明になることがあり、人々は「五尺村に嫁としてさらわれたのだ」と噂しあいました。
また、この地方伝統の「
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