第29話 バトルの裏側~ボロス医術治療学校~
「───というわけで、作戦はこれで」
ダコタが出した案はこうだ。
演技がどうしても表に出てしまう柴と蒼河のふたりで、あの
ヴルムに柴と蒼河の幻を作り出してもらい、幻のふたりが傷つき倒れたように見せる。更にヴルムも倒れたように装い、ダコタひとりが迫真の演技で注意を引くと言うものだ。
ダコタいわく、自分以外の演技はポンコツだからだそうだ。
ヴルムは「あんな小物に我が遅れを取るわけなかろう……」とポツリと呟いたが、全員からスルーされてしまった。
結局、年齢の割にやたらノリが良いヴルムがダコタの案に最初に首を縦に振ったこともあり、他に良い案が出るわけでもない柴と蒼河も一芝居打つことに同意するしかなかった。
柴と蒼河が仕掛け、ドルストンから攻撃をわざと食らったタイミングでグルムが幻を作り上げる。と同時に、蒼河が自分と柴に
魔法のタイミングが合わないと敵に気付かれる可能性はあるが、ヴルムと蒼河は難なくやってのけた。
……ホント、とんでもない人たちだね……
ダコタは内心ふたりのスムーズな魔法の連携に嫉妬しながらも、迫真の演技に挑む。
「キャアア! 蒼河クン!! やだ、大丈夫?」
「蒼河、しっかりしろ!! そうがぁぁぁぁぁ!!!!!」
柴が蒼河に駆け寄るタイミングを見計らい、わざとヴルムは大きな爆発が起きる魔法を使いドルストンに攻撃をする。
爆煙は
ドォン!ガガガガガガガ!!!
相手からの攻撃をわざと当たったように見せ、柴とヴルムはその場に倒れる。
「やだ、ヴルムさん!! 柴クンも! あああ、嫌ああああああ!」
「ぐっ! ダコタ、お前だけでも……逃げろっ!」
柴はそのまま
「うまく行ったな!」
「ああ、だが……少々派手がすぎる気がするんだが……」
蒼河の心配をよそに、ダコタは迫真の演技を続けている。
たまに起きる爆音はドルストンによるものだろうか。目的の場所まで一気に階段を駆け下りる。
蒼河が先導し、無数の魔物の死骸が転がる部屋の中に入る。先ほど調べなかった死骸の山の奥の方まで歩みを進めると、更に地下に続く階段があった。
恐る恐る階段を降りると広い部屋の中央に台座があり、それを囲むように紫色に光る魔法陣が展開していた。その台座の上に
台座はドーム型の防御壁が貼られている。
「魔法陣に防御壁か……これは少々厄介かもしれない」
「ええ? こう、グアーっと叩き潰すだけじゃダメなのかよ?」
「分からない。何かトラップがあるかもしれないから、一応解除する」
蒼河がブツブツ何かを言い始め、魔法陣の解除を待つしかなくなる。
柴は、自分の真上の部屋には魔物の死骸が無数に放置されていることを考えてしまい、落ち着かずあちこちを見回しそわそわする。すると、足元から青白い人の頭が顔を覗かせた。
「ギャア!」
驚いた柴が大声を上げるが、集中した蒼河には届いていないようだ。
数歩後退り良く見ると、地面から浮かび上がってきたのはヴルムだった。
「ヴルム様!? ダコタに付いてなくて良かったんですか?」
「ああ、あっちは大丈夫だ。強力な助っ人が現れたからな。死体役もつまらんので魔力を辿って様子を見に来たのだが……問題は無さそうだな」
「助っ人?」
「ああ。今は頭に血が上って周りが見えていない状態だろうから、早急に戻る必要があるがな。蒼河、終わりそうか?」
ヴルムが問いかけると同時に蒼河は魔法の解除に成功し、紫色の魔法陣はその光を失っていた。
防御壁が無くなりむき出しになった台座には赤黒い球体が置かれており、たまにドクンと脈打つのが確認できる。
この時点でドルストンの無限
あとは、核を破壊してしまえば良い。
「蒼河! 俺がやる!」
柴は、核を手刀で叩き割る。
『ぎゃああああ』
遠くで、絶命する声が聞こえる。真っ二つになった核はサラサラと灰になり、やがて消えて行った。
「何か簡単すぎねえ? 拍子抜けだな?」
「他に何か罠でもあるのだろうか?」
蒼河と柴はあたりを見回すが、何も起こらない。早々にヴルムはグラウンドへ戻ったようで部屋から姿を消していた。
ヴルムを追って魔物の死体が散乱する部屋に戻ると、あれだけ多数あった死体がすべて消えていた。
「おお! あの気持ち悪い奴ら、全部消えてる。ボスが消えたからか?」
「分からない。ヴルム様の言っていた助っ人というのが気になる。今は早く戻ろう」
急いで地上へ戻ったふたりが見たのは、成長したヒスイの姿だった。
一瞬で引き込まれるその美しい容姿……初めてヒスイの
淀んでいた空は晴れ渡り、清々しい風が頬をなでる。学校全体を包んでいた結界もドルストンが灰になったのと同じで消えたようだ。
───もう少し……もう少しだけあの美しい彼女の姿を見ていたい……
蒼河と柴のそんな心を見透かしたのか、ヴルムが静寂を破る。
「ヒスイ!」
呼ばれたヒスイは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。その姿はよりヒスイの魅力を引き立てている。
見とれて動けずにいる蒼河と柴を横目に、ダコタがヒスイを褒める。
「キミ、ヒスイちゃんなんだね? やるねぇ、見直しちゃった」
蒼河と柴はヒスイに見とれていたことに気付き、お互いどう表現したらいいのかという困った表情で顔を見合わせ、肩をすくめた。
「──────というワケ。ボクたちの作戦は途中で変更になっちゃったんだ」
ダコタはゼフの居れたホットミルクを飲み干すと、ドン!と豪快に机の上にカップを置いた。
「しかも……どういう訳か!」
そう言うと、ダコタは自分の尾をヒスイに見せる。
黒と黄色の縞々の……まさに
それがどうしたのか、という顔の四人とは違い明らかに驚いた様子なのはゼフである。
「ダコタ……! その尾は!? 元に戻ったのか?」
「うん、なんかヒスイちゃんの緑の光を浴びたら治ったんだよね。何なの? あの反則みたいな光は」
「どういうことだよ?」
「私たちにも分かるよう、ご説明いただけますか?」
「ああ、ごめん。柴クン、蒼河クン。
ボク、キミたちが来る前の戦闘でしっぽ取られちゃったんだよね~!
力は出ないし体力底辺になっちゃうし、
結構ヘビーな内容をひょうひょうと話すダコタだったが、尾が復活したことが嬉しいのか、話をしながら何度も自分の長く美しい尾を愛おしそうに撫でている。
「あの、私自身何をしたのか分からないのですけど……ダコタさんの一部を取り戻せて良かったです。あの時はただ必死で、みんなが傷ついているのを見て何とかしたいと思っただけだったんですよね」
「ヒスイちゃん!」
照れながら話すヒスイの両手をがっしり握ると、ダコタは「本当にありがとー!」と握った手を上下にぶんぶん振りながら、大げさに喜んで見せる。目にはうっすら涙が浮かんでいるようにも見える。
「多分それは
ヴルムは完璧に戻ったダコタの尾を見ながら続けた。
「だが、ヒスイの覚醒は完璧ではない。今の様子から見ても、無意識に放った魔法では力はまだ戻っていないだろう?」
ビクっとダコタが震える。
「どうしてそれが……?」
そして、観念したかのように続ける。
「流石に
そう、まだ力は完全に戻ってない。けど、
いつにもなく真剣な眼差しをヒスイに向け、ダコタは丁寧に頭を下げた。
そんなダコタの姿を見て、ヒスイは少しだけ誰かの役に立てたことで自信が持てたように感じた。
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