西区勢力

 俺が県庁近くへと辿り着くと、100メートル程離れた位置に城悟と孝が様子を伺っているのに気付いた。その二人の顔は真剣で普段のような余裕は全く見受けられない。


 バイクから降りた俺は二人へと声をかける。


「……どんな状況だ?侵略されたのを聞いて駆け付けたんだが」


 孝は俺に顔を向けないまま答える。


「気付いたのは今日の朝方だ。巡回していた奴が西区の連中を見つけて慌てて報告してきた。それで俺達ですぐに駆け付けたんだが……どうやら既に県庁内に入り込んでるみたいだな」


 続けて城悟が口を開く。


「追加で入ったのは十名程。中には自衛隊の服を着てたやつも紛れてやがった。遠目で見ただけだが、恐らく割と鍛えてある奴らだろ」


 城悟が鍛えた、と言ったのは筋トレでは無く魔物達を多く倒して身体能力が向上している事なのだろう。西区の連中の精鋭と思われる連中は魔物を倒し続けていた事が分かっている。


 そして、西区の勢力には警察や自衛隊が多く存在している。元々は彼らが魔物から市民を守る形で勢力となったようだが、俺が菅谷に頼んで集めた情報だと腑に落ちない点も多い。


 まず、リーダーが分からないのだ。そいつは領域の外に出てくる事はなく、菅谷が周囲に潜伏しつつ外に出た奴を何度かつけたが会話を聞くに全て空振りだったそうだ。


 そして情報統制でもしてるのか、外へ出た連中もリーダーの情報についても決して呟いたりしない。そして警察も自衛隊も何故かそいつに従っている様子が有ったそうだ。



「リーダーと思われる奴は分からず仕舞いか。せめてどんな奴だけでも分かれば良かったんだが」


「多分中に居るんだろうな。ま、どうせ攻略出来ずに戻って来るだろ?準備時間が少な過ぎる」


 城悟の言葉に孝が反論する。


「……そうか?これだけ急ぎ足で県庁まで辿り着いたんだ。もしかしたら攻略するだけの自信が有るんじゃないか?で、暁門。もしここが落ちたら俺達はどうなる?」


「そうだな……」


 県庁が落ちた場合、区役所の比ではない程の領域が支配下に置かれるだろう。恐らくそれは中央区を全て覆い、俺達は完全に閉じ込められる形となる。


 別に生きるだけなら問題は無いだろうが、これ以上領域を支配するのが厳しくなり、俺は支配順位を上げる事が困難になる。領域を侵略して県庁の支配下から外に出る事も可能では有るが……時間が掛かりかなり大きなロスが出る事には間違いない。


「一位は諦めるしかないな。単純に倍の広さでも一、二ヶ月は無駄になりそうだ」


 それも妨害が無かった場合で、脱出に関しても西区の連中が放置する訳がなく、更にはリーダーと思われる奴は俺よりも侵略が早い可能性が高い。本気で俺達を潰しに来た場合、俺の持つ支配領域を全て奪い取られるかもしれない。


 城悟が舌打ちをし、孝は眼鏡を指で上げながら口を開く。


「なら今のうちに退路となる領域を侵略して、出てきた所を……」


「それも有りだが……」


 一筋縄ではいかないだろうな、というのが本音だ。領域の壁があるせいで互いの攻撃は届かず、領域を侵略し合う形となる。リーダーとなるやつを倒すには、侵入許可を出した上でそいつの居る領域を侵略し、こちらの領域内へと入った瞬間に倒し切る事が必要だ。


 だが西区勢力のリーダー情報は無く、名前なんて分からない。そうなると逃げ切られるのがオチだ。領域へと全員侵入可能にする事でそれも解決可能だが、向こうが一方的にこちらへ入って攻撃出来るようになり、更には危なくなったら自身の領域に戻れば良くなってしまう。


 そうなると、最悪こちらだけが消耗する可能性も高いのだ。逃げれば良いだけの西区の連中が大幅に有利なのは間違い無いだろう。





「後数日遅けりゃオレ達が攻略してたんだけどなぁ……」


 城悟がそう言った理由。それは俺が県庁攻略への準備を進めていたからだった。攻略部隊となる十名程の装備を『兵器作成』で整い終え、これから攻略——という時だったのだ。


 確かに動くまでが遅過ぎたというのは反省点だが、県庁の魔物は上に登っていくとアカグロクラスが雑魚として出現する。ボスの強さを想像すると、もう少し力を付けておきたかった。


 俺は頭を悩ませる。


「何かアイツらをうまく利用する方法は……」


 城悟はポンと手を叩く。


「それなら、アイツらが倒したとこで支配する為の石だけ奪い取れば良いんじゃないか?」


 俺はため息を吐く。


「中に入ったら恐らく互いに潰し合いだぞ?俺たち三人でアイツらに勝てる保証は有るか?馬鹿みたいに領域を削る奴が居るんだぞ?リスクが大きすぎるだろ」


「そ、それは……」


 言葉を詰まらせた城悟に代わって孝が話し始める。


「かと言ってこのまま眺めてる訳にもいかないだろう。それこそ手遅れになる可能性だって有る。それとも、時間稼ぎに交渉でもするか?」


「交渉、か……」


 時間を稼いでから、隙を見て先に県庁を攻略するか?時間稼ぎに県庁までの道となる領域を削って——いや、無理だな。領域が攻撃を受けた時点で支配者が中にいる場合にはアラームが鳴るようになっている。


 中には入れるかもしれないが、すぐに気付いて領域を取り返されるのがオチだ。俺がもし攻略に回れば侵略し合った場合間違い無く負ける。


 そうなれば出てきた所を狙うという作戦を、逆に俺がやられる立場になってしまう。




「……くそッ」



 考えろ。敵の油断を誘い県庁の領域を奪い取れる方法を。西区の連中が知らず俺達だけが知る抜け道は無いか?あらゆる事を試してきたんだ。


 何か一つ位は——。

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