第103話 青堀神社 20

 俺が両手で持つ刀は黒い物体を貫いた。すると、ストーンゴーレムは動きをピタリと止めた。暫く経つと、その大きな腕が力を失い……地面まで下がった。

 俺が刀をそのままに後ろへと下がると、ストーンゴーレムの体が青白い光へと変わり、徐々に消失していく。


「……倒せたみたいだな」


 俺は安心した事で力が抜け、その場に座り込んでしまう。途中一人で来たことが失敗だったのかもしれないと後悔したが、結果的には一人で来た事で余計な被害が出ずに済んだのかもしれない。


 そしてストーンゴーレムの姿が完全に消失し、そこに残されたのは黄色い玉。今までは白いものばかりだったが、領域の用途によって違うのだろう。


「さて……」


 俺が立ち上がり黄色い玉を拾うと、やはり玉は手の中に吸い込まれるように消えていった。そしてその直後に領域の情報が得られ、その情報は予想通りのものだった。

 苦労はしたがこれで作戦通りに行く、と俺は安堵した。




♦︎



 俺はエスカレーターを降り始め、その途中で爺さんと椿に遭遇した。俺を見て爺さんはつまらなそうな表情をする。


「はあ、せっかく来たら終わっとるとはつまらんのう」


 俺は呆れながら返す。


「俺がどれだけ苦労したと思ってるんだよ。 後、ここのボスは爺さんとは相性最悪だったぞ?来てたら死んでたかもな」


 爺さんは興味深そうに顎髭を触りながら話す。


「ほう。どのような敵だ?」

「……でかい岩の巨人だよ。特性付与しまくったショットガンでもびくともしない、な。流石の爺さんでも岩は切れないだろ?」


「それは試してみないと分からんのう」


 斬るつもりかよ……でもアレは流石に無理だろ。





「うわ、岩の敵とか殴ったら痛そ」


 そこに椿が話に入る。


「よう、椿はよく来る気になったな。数日で少しは成長したのか?」

「いや、こやつはまだまだじゃよ。ボスだと腰が引けとる」

「ちょ、ちょっと柳さん!私だって役にたってたでしょ!今日の領域だって最後は……!」




 言い争う二人を見るに、椿は随分と打ち解けたようだ。それは悪い事じゃないな。


「まあ……どれだけ役立つかは今度見せてくれ。今は時間が惜しい、俺は青堀神社へ向かうぞ」


「はいはい。行ってらっしゃい」


 そうして、俺は青堀神社の境界へと急いだ。




♦︎



 外へ出ると辺りは日が落ち始め、暗くなり始めていた。


 ……一応間に合った、というべきか。


 そして青堀神社の領域の境界へ着くと城悟が暇そうに座っており、俺は声を掛ける。


「よう。三日振りだな。で、誰か出ようとしたか?」


「……やっと来たか。本当に待ちくたびれたぜ。あー……孝によれば誰も領域から外に出てないようだ。牽制のお陰かね」


「よし、それなら計画通りに行くか」


 俺が区役所の攻略を急いだのは、サポート付きが夜の闇の中に紛れて逃げられるのを防ぐ為だった。孝が探索出来るとはいえ、見つけにくく危険が伴うので避けたかった。


 あいつは青堀神社の中に居る。そして、俺が区役所を攻略した事で逃げる事は不可能となった。後は出来る限り被害を出さないように追い詰めるだけだ。



 ——区役所の支配の恩恵、それは半径十キロ圏内の支配。



 支配するという事は魔物が入り込めない安全地帯となるのだが、今回はそれは重要ではない。俺が利用しようと思ったのは、領域の侵入許可の方だ。

 既に領域となっている場所は恩恵の効果を受けない、だが……その領域が恩恵の範囲内であった場合、全方向が囲まれ侵入許可が出ない限り外へと出られなくなる。



 つまり、今の青堀神社は陸の孤島状態。俺の許可が出ない限りは誰一人外へ出る事は出来ない。


 もしこのまま放置すれば外に食糧も取りに行けず、このまま飢える事になる……が、俺は別にそれを望んでいる訳じゃない。

 人を操るという性質の能力を持つ者が追い詰められたら、なりふり構わず人を盾にし、捨て駒として使う可能性を危惧した。もしそうなれば、多くの人が死んでしまうかもしれない。




 ここ……青堀神社は魔物が現れるまで、長く人々が神に幸せを願う場所だった。そして命が宿り、無事に産まれた事を伝える場所。多くの人の想いが詰まっているのだと思う。

 菅谷の話を聞く限り既に多くの命が失われたのだろうが、俺はこれ以上この場所を穢したくはないと思った。


 ——例え、その争いのきっかけを作ったのが俺だと分かっていても。





 複雑な表情をしていたのか、城悟が心配した様子で話し掛けでくる。


「暁門、お前大丈夫か?」

「ああ悪い……他に良い方法が有ったんじゃ無いかって考えてたんだよ」


「おいおい、割り切れって言ったのはお前だぞ? 俺を無理矢理連れ出した時の威勢はどうしたんだよ?」

「あれはちゃんと後でフォローしただろうが。……流石に俺だって罪の無い人を死なせたら後悔する」


「なら、そうならないように頑張ろうぜ!な!」


 そう言って城悟が俺の背中を叩くと、トランシーバーから孝の笑い声が聞こえる。


『ははっ。俺様じゃない暁門は数ヶ月振りだな。この弱気な所を早瀬ちゃんや荻菜さんに見せると喜ぶかもしれん』


「あぁ、昔を思い出すな。よしじゃあ面白そうだし二人を連れて——」「あーもう分かったから止めてくれ! よし、切り替えた!」


 俺の様子に笑う二人。こいつら、後で覚えてろよ……。


 俺はため息を吐き、落ち着いてから話し始める。


「朝になったら菅谷に協力してもらって一人ずつ領域の移動を開始する。俺と爺さん、荻菜さん以外は操られる可能性を考えて距離を取るのを忘れるなよ」


「『ああ』」



「青堀神社の中に残すのは五人。そこからが本番だからな」

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