第64話 対立する者達 15
宙に浮いた魔石銃で犬を撃ち抜き、近づく奴は刀で斬り伏せる。俺は背後だけ気にしながら、そうして一匹ずつ確実に処理をしていく。
犬の群れは未だに減ったようには見えない。だが、その行動が単調なお陰で危なげなく回避する事が可能だった。もしこれが青ゴブリンだったらこうは行かなかったかもしれない。
そしてそれを続け、やっと群れの数が減り始めたのを感じた頃——突然、犬達の姿が消失した。
「ん?何だ?」
俺は突然の事に戸惑いつつも、犬の群れが居なくなった事に安堵する。仕方が無かったとはいえ、ずっと戦闘が続くのは体力の消耗が激しかった。
俺は他の連中がいる方向へと顔を向ける。すると、城悟と孝の声が聞こえた。
「孝、どうだ?オレの活躍を見たか?」
「何を言っている。俺の方がボスを倒すのに役に立っただろうが」
何が有ったかは分からないが、二人が言い争いを始めようとしているようだ。俺は呆れながら、歩いて近づいて行く。そこで次に聞こえたのは、爺さんの声。
「お主らを見直したと言うのに、何をやっておるんじゃ……」
爺さんがそう言うのであれば、二人は何かしら役に立ったのだろう。だが——。
「お前ら、底辺で争うんじゃ無い。どう考えても活躍したのは俺と爺さんだろうが。せめて、犬の群れを一人で対応出来る位強くなってから言え」
俺は近づきながら、二人にそう声を掛ける。
「「ぐッ……!」」
二人はそれに言い返す事も出来ず、悔しそうな顔をするだけだった。
俺はそのまま二人を通り過ぎ、ある物を探す。それはボスが落とすであろう謎の玉。テニスボール位の大きさのそれは、爺さんの近くに転がっていた。その色は白く、アカグロの時と同じ物に見える。
俺はその玉へと手を伸ばし指先で触れる。すると……以前と同じように白い玉は淡く光り、俺の手の中に溶け込んでいく。
ただ、領域支配を既に経験しているからか、新たな情報を得ることはなかった。
そして、周囲の景色が一変する。赤と黒の空間が、棚以外は普段通りの店の様子へと切り替わる。
「え、何これ!?」
「何よ急に!?」
早瀬と荻菜さんが同時に声を上げて驚いた。まあ、最初なら無理はないか。
そして皆が戸惑っている中、城悟と孝が俺に近づきて来た。
「おい……暁門。これが言ってた領域支配ってやつか?」
「ああ。これでこの建物は俺の支配下に置かれた。そして、外の駐車場を含め、俺の許可無しに侵入することは出来ない」
「なるほど……こうなれば、ここの食糧は自分達だけの物になるのか。これだけあれば、この人数でも暫くは食い繋げるだろうな」
孝が眼鏡を指で直しながらそう話す。だが……ここは別に拠点にするつもりは無いんだ。
「ここからはすぐに離れるぞ?食糧は有るが、近くにダンジョンが無いせいで魔石の回収に不向きだ。だから俺はもっと優れた立地の拠点を探す」
俺の言葉に孝と城悟が目を見開く。
「折角これだけの食糧が有るのにか!?流石に勿体ねえだろ!」
「……俺も城悟と同意見だ。食糧が貴重なこの状況で、ここを放棄するのは得策とは言えない」
「まあ、いい場所が見つからなければ戻ってくれば良いだけだ。それに、ここはただ放棄するだけじゃ無い。ちゃんと使い道は考えて有る」
二人は首を傾げる。
「それについては後で話すぞ。さあ、折角新しい領域を手に入れたんだ。今日は好きな物を自由に飲み食いして良いぞ!そして、ここは安全だ。潰れるほど酒を飲んでも何も問題無い!今日だけは好きにしろ!」
「やったー!アイスとかケーキ、有るかなあ?荻菜さん、探しに行きましょう」
「そうね。折角だしケーキ、それにワインでも飲もうかしら?さ、碧ちゃん」
そう言って真っ先に離れようとする女性二人に、俺は慌てて声を掛ける。
「おい、待て待て!勝手が分からない連中も居るんだ、オブジェクト化解除について説明してやってくれよ」
「えー……」
「面倒ね……」
おい、コイツら……。それと、今気付いたが爺さんの姿が既に無いぞ?あの爺さん、絶対酒を探しに行っただろ。頑張ってくれたし、文句は言わないが……まとまりってもんは無いのか。
周りが自分勝手に動き、溜息しか出ない。そしてその様子を見ていた城悟と孝が、俺に同情するかのような顔で呟く。
「「暁門……大変そうだな……」」
その後——俺は孝に名前を聞きながら、領域内の許可を設定する。
それらの雑用が終わった後に、俺達が入り口付近の開けた場所へと向かうと、爺さんは既に酒の缶を数本開け、早瀬と荻菜さんはケーキをホール丸ごと食べていた。残る連中も弁当等を食べ始めており、各々が好きに騒いでいる様子は、まるで出来上がった宴会会場のようだった。
「はあ……」
一応リーダーで有る俺を待つとか、気を利かせて食べ物を持って来てくれているとかは無いのか?
俺の集団を組織する手段は……何処かで間違ったのかもしれない。
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