第55話 対立する者達 6

 学校を出た俺達と城悟。既に夜が近くなっていたので、学校から少し離れた場所で休む事となった。

 キャンプ用のランプの灯りで僅かに照らされた室内。城悟は相変わらず項垂れていた。

 俺はそんなことを気にせずに城悟に話し掛けた。


「ほら、飯だぞ。美味そうだろ?」


 城悟は並べられた食べ物に目を向ける。今日はいつもよりも豪華な、野菜の入ったスープと燻製ベーコンを焼いた物、それに魚の缶詰め缶詰めとご飯。どうせまともに食事を取って無かったんだろう。これを前に我慢出来る訳がないよな。


 城悟は料理に目が釘付けとなっているが、自分の中で何か葛藤しているようだった。


「強制的にだがもう避難所から離れたんだ。前の事は割り切ろうぜ」


 すると、城悟がゆっくりと口を開く。


「……この状況で、随分と良い食事をしてるんだな」


 その言葉を聞き、俺は少し口元が緩む。


「俺も少し前までは毎日カップ麺とかお菓子だったさ。民家に入り込んで食糧を漁ったり、時にはコンビニに残された食べれるか分からないような物も食ったぞ」


「オレ達もそうだった。食べられる物を見つけても、上に優先的に渡し、俺は食事とは言えないような物ばかりだったな……」


「効率を考えるなら、食糧を探す連中にちゃんと食事を取らせるべきなんだがな。そんな事、考えるまでも無い」


「……そうだよな。でも、俺はそれが当然だと思い込んでいたんだ……。孝の奴はそれが異常だと思って行動に移したんだな」


「まあ、一度違った視点で見ないと案外気付けないんだろ。……っと、折角暖かい食事だし早く食おうぜ」


 俺はそう言うと、食事に手をつけ始める。周りを見れば既に食べ終えそうな頃合で、それぞれが満足そうな表情をしていた。早瀬と荻菜さんは話しを始め、爺さんは料理をつまみに酒を飲んでいる。他の二人も同様に酒を飲み笑い、この場の雰囲気はとても明るいものだった。

 これについては俺が指示した訳では無いが、早瀬が気を遣い良い食事にしたのだろう。それに他の連中も、明るい雰囲気にしようと普段より口数が多い気がする。


 今、この場所だけは前と同じ魔物の居ない世界。俺は、この場の雰囲気をそんな風に感じられた。


「……いただきます」


 城悟はそう言って、食事を食べ始めた。最初はその料理をゆっくりと味わっていたが、その速さは早くなっていく。


「うまい……本当に、うまい……」


 その表情は暗くて分からないが……まあ、確かめる必要も無い。


 俺は少し嬉しくなり、爺さんの隣にあった酒の缶を開けて口に運ぶ。うーん……やっぱり、旨く感じないんだが?


「……小僧。わしの酒を取ったな?」


「一本位良いだろ?爺さん、リュックに山程入れてたのを見たぞ」


「残り少ないんじゃ。しかも、それは儂が残しておいた……」


 爺さんがそう言うと、そのまま脇に置いていた刀を抜こうとする。


「あ、おい、刀は駄目だろ!悪かった!謝るから!」


 俺はそんなやり取りで城児が見て笑っていたのを見た。どうやら、これなら大丈夫そうだ。





 その後酔った爺さんと刀で斬り合いになったりしながら、その夜は更けていった。そして、寝る為に横になっていたら、隣で寝ていた城悟が話し掛けてきた。


「暁門、ありがとな」


「……何だよ急に。俺はお前を無理矢理連れてきただけだぞ」


「ああでもされなきゃ、オレはずっとあのままだっただろうよ。下手な演技までさせて悪かったな」


 演技と言えば演技だが、俺は割と本気だったんだが……。


「孝にも謝らねぇと駄目だな。だが……くそッアイツのニヤニヤしてる顔が目に浮かぶ」


「孝なら、ほら、俺の言った通りだっただろ?とか言いそうだな。ま、それは我慢するんだな」


 俺は笑いながらそう話した。


「なあ、暁門。疑問だったんだが、あの食糧はどうやって手に入れたんだ?」


「あー……話しても良いが、どうせなら孝に会ってからにしよう。きっとアイツの驚いた顔が見れるぞ」


「そりゃ良いな——」





 ——こうして、俺の友人である堅持 城悟けんもち じょうごが仲間に加わった。


 明日は城悟に案内してもらい、孝の元を訪れよう。大丈夫だ、アイツを説得する手段は既に考えてある。きっと、満足してくれる筈だ。

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