第30話 領域支配 3
「次に移るまでが遅い!考えるな!手を動かせ!それに足も止まっておるぞ!」
翌日から俺は柳の爺さんに扱かれていた。簡単に刀の基本形だけ教えてもらい、後はひたすらゴブリン相手に実戦。
まだまともに接近戦なんてした事が無い俺は、恐怖を振り払いながらひたすら刀を振るっていた。
その刀はどうしたかって?それは勿論『
俺の刀がゴブリンを斬り裂く。だがその傷は浅く、ゴブリンはまだ動き続け俺に反撃をしようと捨て身の攻撃を仕掛けて来る。
「今のはもっと踏み込んでおれば倒しきれておったぞ!もし複数居たら今ので怪我してもおかしくない!」
爺さんの指導は言った通り厳しいものだった。褒める事はなく、ひたすら俺の悪い点に檄を飛ばし続ける。
「くそ……ッ!」
俺は駐車場の隅でひたすらゴブリンと戦い続ける。爺さんが間引いてくれてるので現状は単体での戦いだが、爺さんのように戦うにはまだまだ程遠いのは分かっている。
体力も上がっている筈なのに、俺は疲れ切って肩で息をしていた。
そして数十のゴブリンを屠り続け、単体を一撃で仕留めれるようになった頃……次の段階へと移行した。
「次からは二匹まで通すぞ!ほれ、休むな!」
「す、少しくらい休ませてくれても……!」
俺の言葉に爺さんはほくそ笑む。
「なんじゃ、泣かないんじゃ無かったのか?これ位で限界とは……これならまだうちの小学生の門下生の方がまだマシじゃのう」
分かり易い煽りだったが、余裕の無い俺はそれに簡単に乗ってしまう。
「ああ!?まだ限界なんて言ってねえだろうが!分かったよやってやる!」
爺さんは俺の反応を見て面白そうに笑う。
「ならまだ根性を見せよ!ほれ来るぞ!」
そう威勢を張ったのはいいが、体力は限界に近い。次第に腕が上がりにくくなり、ゴブリンに与える傷は浅くなっていく。それにより俺の手数が増えるにつれ更に体力を消費していく。
そんな中ゴブリンが俺の手を取ろうと手を伸ばし、俺はそれを間一髪で避け、焦りを感じながらすぐに刀で斬り捨てる。
「相手が武器を持っていたら大怪我じゃの。今のは赤点じゃ、次行くぞ!」
ゴブリンが近寄ってくるまでに少しでも呼吸を整え、ひたすら刀を振り続ける。それにこれだけやっていれば嫌でも効率的な動きは身についてくるし、ゴブリンの挙動にもパターンがある事が分かってきた。
俺は限界を感じながらも、少しだけ何かを掴みそうな気がした——そんな時だった。
「よし、今日はここまでじゃ!石を拾って帰るぞ!」
急に爺さんが帰ると言い始めた。俺はその事があまりに突然過ぎて呆気に取られる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あと少しで何かを掴みそうなんだ!もう少し、あと数匹だけで良い!」
必死な俺を見て、爺さんは声をあげて笑い始めた。
「先程までとは真逆の態度じゃのう。だが、今日はここまでじゃ。明日までその感覚を覚えておけ」
一応先生である爺さんの言う事は絶対だ。これは教える条件の内の一つ。
俺は掴みきれなかった事を悔しく感じながらも、駐車場を後にした。
家に着くと、玄関で大の字になって寝転がってしまう。緊張感で何とか動いていたような状態だ。それが切れた事で一気に疲労が押し寄せてきてしまった。
「行儀が悪いぞ、せめて部屋の中に入れんのか?」
そう言う爺さんは既にリビングでお茶を飲みながら寛いでいる。
……ここ、俺の家なんだけどな。まあ良いけどさ。
靴を脱ぎ、そのまま匍匐前進でリビングへ。俺はそのままうつ伏せの状態で動けないでいた。
そこに爺さんが声をかける。
「近接での戦いは、とにかく集中力を使う。灰間の小僧も身体能力が上がっているとはいえ、集中力を切らしたら死ぬぞ?特に後半は酷い有様じゃったの」
「……気を張り詰め続けるのが、これだけ辛いものだとは思わなかったよ。……爺さんは凄いな」
「繰り返せば、それだけ慣れてくる。だが小僧はすぐにでも強くなりたいんじゃろう?なら、もっと今日以上に自身を追い込まねばならんよ」
「……ああ、そうだな。だが……今日は、もうげんか……い……」
俺はそのままの姿で寝てしまい、目が覚めた時には翌日の朝になってしまっていたのだった。
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