第22話 避難所崩壊 8 逆襲
「灰間、黒薙さんが会うそうだ。出ろ」
突然、いつも見ない顔の黒薙の取り巻きが俺を呼びに来た。
黒薙が俺の協力するという言葉を完全に信用しているかは分からないが、直接会うという目的は達成できるようだ。
俺の腕は一見包帯で固定されているように見える。だが実際には緩く巻かれいつでも動かせるようにした。
「……ああ」
俺はあいつらの油断を誘う為、あくまで無気力で精神的に限界なのを演じる。
さて……俺の撒いた種は、どこまで広がっているのか。俺は心配しつつ、決戦へと向かうために牢屋の外へと足を踏み出した。
上の階へと上がると、暗い表情をした十数人の避難民の男達が居た。ここに居るのは黒薙に媚を売るのに失敗し、いいように使われている連中だろう。
……それにしても、数が減っているな。
俺が監禁される前と比べ、少なくとも五人は減っているように思える。黒薙についた連中を計算に入れても、その数は明らかに少ない。黒薙は随分と雑な扱いをしていたようだ。
「おい……あれ……」
「あいつのせいで俺達は……」
「黒薙さんは、今度は何をやるんだ……?」
通り過ぎると、ヒソヒソと話すのが聞こえる。俺のせい?黒薙がこいつらに何か吹き込んだのか?
「おい、早くしろ」
歩く速度の遅くなった俺を、黒薙の取り巻きが急かす。そして俺はそのまま連れられ、署長室の前まで来た。
扉を開けた瞬間に、俺の作戦の成功率が変わる。まあ、もし最悪の状況だとしても俺は実行に移すつもりだ。その時は、黒薙と刺し違えてやる。
そして——黒薙の取り巻きが署長室の扉を開け、俺は中へと通された。
中に入るとすぐに状況の把握を行う。
署長室に有るコの字に置かれたソファには、黒薙とその取り巻き四人が座り、黒薙の隣には……何故かワイシャツの胸元が開かれている金髪の女子高生。それと俺と一緒に入室した取り巻きが脇に一人。
女子高生は省いて六人で、どれも初期からの取り巻きだ。ここまで理想的な状況になるとは思わなかった。
黒薙に危機感が無いのか、それかまさか……俺の言葉を完全に信用している?
今はまだわからない。話しながら様子を見よう。
「よう、灰間。元気だったか?」
黒薙がニタニタと笑いながら俺に話しかけてくる。
「……もう限界です。牢屋は……嫌なんです、せめて違う所に……」
「そうだな……灰間の武器には随分と世話になってる。条件次第ではお前を外に出すだけじゃなく、俺の幹部に迎え入れてもいい」
その一言で取り巻き達の表情が曇るのが分かる。黒薙は完全に独裁者をしているようだ。取り巻き連中の意見なんて聞いても居ないんだろう。
「ほ、本当ですか……!それなら、俺なんでもやります……黒薙さんのために、もっと強い武器を作ってみせます……」
黒薙はそれを聞いてニタリと笑う。
「なら先ずは……俺に信用されなきゃならねぇよな。灰間、テメェの『
「わ……分かりました……」
俺は『
それを聞いていた黒薙と取り巻き達は、目を輝かせ前のめりになってくる。
「す、すげぇ……その力があれば、国とだって戦争出来るぞ……」
「ここよりももっと安全な拠点を作る事だって出来る!」
「これなら他の避難所から強奪だって……!」
取り巻き達はざわめき立つ。それを黒薙が話して止める。
「まあ、落ち着けよお前ら。灰間、確かに力の事は聞けた。だけどなぁ……まだ信用するには足りねえな」
黒薙もここで、はいそうですか、となる程馬鹿では無いようだ。ただ……その貧乏揺すりで浮き足立ってるのが見え見えなんだが。
「それなら……これを。すいません、俺のポケットに有るものを取って貰えますか?……腕がこんななので時間が……」
俺の脇にいた取り巻きが俺のポケットを漁り、中にあった物を黒薙の目の前へと置く。
「……おい、これはなんだ?」
それはスーパーボール位の小さな鉄球。それが十個程袋に入っていた。
「黒薙さんの『ホープ』を生かせる武器を、と考えまして……必死に考えた結果、『威力』のある、『小型』の鉄球が良いんじゃ無いかと……」
「へぇ……」
黒薙が鉄球を持ち、窓を開ける。そしてそのまま外へと向かって鉄球を『投擲』した。
その後何かが破損する音が鳴り、黒薙はそれをただ眺めている。
「す、すげぇ……車をこの距離からぶち抜きやがった……この威力、使ってる銃よりも明らかにたけえぞ」
「そ、それなら良かった。それだけ威力が有れば、きっと青いゴブリンにも対抗出来るかと……」
そこで黒薙が高笑いを始める。
「ハッハッハ!おい灰間!テメェが本気で俺につこうとしてるのはよく分かった!テメェを信用してやるよ!」
「本当ですか……?なら、もうあそこに戻らなくても……」
「ああ、テメェは俺の右腕として使ってやるよ。色々あったが水に流して、仲良くやろうぜ?」
黒薙はソファに戻り、また同じように座る。その顔は憎いくらいに嬉しそうだ。
——そうか、それなら良かった。だがな、黒薙。テメェに信用されようがされまいが、俺にはどうでも良い事なんだ。
ここで俺の最後の仕込みと状況確認は終わった。
取り巻き達は全員俺が作り出した石弾の銃を持ち、その他の武器は見当たらない。そして、黒薙も石弾の銃に加え、目の前には先程の鉄球。
途中で笑いそうになる程、俺の理想的な状況だった。
後は……俺がやる事はスイッチを押させれば良い。それで全てが終わる。
「クックック……」
笑っているのは俺だ。その笑いに黒薙達は表情を変え、真剣な顔になる。
「……おい灰間、何がおかしい?」
黒薙は訝しむ顔を見せる。
「いや、テメェらが随分とめでたい頭してると思ってな。酷すぎて笑っちまったよ」
そこで取り巻き達が立ち上がる。だが俺は気にせず話を続ける。
「おい黒薙。俺が素直に従ってると思ったか?そんなわけねぇだろうが。俺は牢屋にいる間、ずっとテメェを殺したかったんだよ。俺にした仕打ち、お前達を殺してチャラにしてやるよ」
取り巻き達は石弾の銃を俺に向けて構える。
……いいぞ、それで良い。
俺は包帯を解き、両腕が動く事を知らせる。
「既に俺の準備は終わってる。後は俺がテメェらを殺すだけだ。なぁ黒薙、この状況どうするよ?」
黒薙も立ち上がり俺に銃を構える。隣にいる金髪の女子高生は腰を抜かして座り込んでいるだけ。
黒薙は俺を睨みつけ、吐き捨てるように言う。
「この状況で何が出来るってんだ!もし武器を作ろうとしてみろ!その瞬間テメェは蜂の巣だ!」
そう言う黒薙の額には汗が滲んでいる。取り巻き達も同じで誰もが余裕が無い。
「はっはっは……そりゃあ怖い。そうだな、お前の言う通り、俺も武器で対抗するとしようか。」
「おい!本当に撃つぞ!」
「死にたくなけりゃ何も喋るんじゃねえ!」
取り巻き達の表情は、何をしでかすか分からない俺に怯えているように見える。
……もっと、もっとだ。俺に恐怖しろ。ただで殺しても、俺の恨みは晴れねぇんだ。
「もう一度言う。俺は今からお前達を殺す。そして今から武器を作り出す、撃ちたければ武器が出来る前に撃て。じゃないと俺に撃ち抜かれるぞ?」
俺は今相当酷い顔をしているだろう。口は三日月のように開き、目は刺し殺しそうな程に黒薙を睨みつけている。
そんな俺がコイツらにどう見えてるんだろうな。悪魔か?死神か?死神だとしたらそれは正解だ。俺が今からお前達の命を刈りとるんだからな。
暫くの静寂。嗤う俺と、青い顔をした黒薙達。
——そろそろ、頃合いか。
「さて、睨めっこももう飽きた。全て終わりにしようじゃないか」
「クソッ!お前ら!コイツが何かしようとしたら、躊躇せずに絶対に撃て!許可する!」
黒薙、最後に念押しをありがとう。それじゃ、スイッチを押させてもらおう。
「『兵器作成』よ、『威力』と——」
——俺がそう発言し始めた瞬間、銃を構えていた黒薙達全員の腕から爆発が起こる。
爆発は、両腕で構えていた者は両腕を、片手で構えていた者はその腕を中心に起こり、その腕を容赦なく、吹き飛ばした。
署長室に爆風の風が吹き、血の雨が降る。部屋の床は赤く染まり、俺を除く全員から悲鳴があがる。
「う、うわあああぁぁあ!!!」
「う、腕が、俺の腕がああ!!」
「ヒィイイ!!死ぬ、しぬう!」
全員床に座り込み、片腕を失って腕を抑える者、両腕を失いなす術が無い者に分かれた。
そして黒薙は右腕が吹き飛び、左手でそこを必死に抑えて痛みに耐えている。
「く、くそッ!!お、俺の腕が!!」
俺はソファ側へと近づき、黒薙へと話しかける。
「ハッ!いいザマだなぁ!黒薙!俺のプレゼントはお気に召したか?どうせなら両腕いっとけば良かったのによ」
「て……テメェ!な、何をしやがった!」
黒薙は痛みで顔を歪ませながら俺を見る。もう睨み付けるだけの余裕は無いようだ。
「本当に馬鹿だな。お前達が使ってた銃、誰が作ったと思ってんだ?それに仕込むくらい訳ないだろうが。本当に面白いくらい思い通りに行動してくれたな。ありがとよ」
「……クソが!銃に爆弾でも仕込んでたってのか!」
「ああそうだ。全員に行き渡るまで我慢するのは辛かったぜ?」
まだ普通に喋っている黒薙には称賛を送ろう。両腕吹っ飛んだやつなんてもう床に倒れているしな。
「さて、これでもう俺を邪魔する奴は居なくなった訳だ。俺は沙生さんを迎えに行って、ここを離れるとするか」
俺は後ろへと振り返り、黒薙に無防備な背中を見せた。それを見た黒薙は、俺の予想通りの行動をする。
「はっ馬鹿が!」
その声に反応し振り返ると、黒薙が鉄球を持ちそれを投擲しようと振りかぶっていた所だった。
そして、再び起こる爆発。
その爆発は、黒薙の無事だった左腕を吹き飛ばした。
「ぎゃあああああ!!」
黒薙は痛みに耐えきれず絶叫する。
黒薙、ここまで上手く誘導されるとは……本当にどうしようもないな。
「……そう言えば言ってなかったな。俺の武器には『
部屋の中は死屍累々。全て俺が作り出した状況だ。
だが俺は何一つ後悔はしていない。俺の中にあるのは、やり遂げた達成感だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます