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ソフィアは彼女の持論を知っている。
アンナの持論は、科学者だからといって、研究のためなら、追求のためなら、何をしてもいいわけがなく、それによって何が齎されるかまで考えなければならない。科学者である前に〝人〟であることを忘れてはいけないと。仮に、意に反しそうなるよう、そうなるであろうと知っていたのなら、自責しなければならないのだと言っていた。
彼女の論理的思考は科学的根拠に基づく合理性だが、その礎は人間性にある。人が生きるために科学はあるのだ。科学を科学としたのは、他でもない人なのだから。
その持論がために彼女は孤立していたが、真ニューロ・コンピュータの第一人者で天才と称された彼女に、誰も直接反論ができず、陰口を言うか裏工作するしかなかった。
それに対し彼女曰く、『バカが騒いだところで何もできん。ほっとけ』だった。
ただほっといたことで、所内会議の後、老獪のお偉方が真ニューロ・コンピュータの開発を本気で抑止してきたので、アンナは『あのバカどもが』と憤っていたのであった。
「神であろうが、量子であろうが、ニューロンであろうが関係ない。問題は〝人〟だよ」
「人が問題なら、間違いを犯さぬ人工知能の出現によっては、人工知能が神になってしまいます」
アンナはソフィアを見上げ、お前がそれを言うか、と幾分不服に思う。
「神の定義にもよるが、間違いを犯さぬ人工知能だからといって、即それが神になるとは限らんだろう」
「どうしてです」
「神とは、意義のある無意味な存在だからな」
「自分との関係に於いては重要だけど、他者からすれば価値がない、ですか」
「それを畏敬し、祀ることで、神は神として存在する」
「認識するか認知するかの違い……」
それぞれ肯定するか否定するかは別である。
ソフィアは唸りながら考えた。
そんな彼女を、アンナはイスに座りながら微笑み、デスクに置いてあるタブレットを摑むと、そちらに目を移した。
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