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 だが問題が起きていたのは、むしろ量子コンピュータを搭載した対地制圧陸戦兵器だった。パイロットの補助システムであるケイオスは、対象物の情報を即座に判断し、コックピットのモニタに表示していたのだが、非戦闘員や民間人を避け、敵機及び敵戦闘員のみ破壊・殺傷する能率性の悪さを、総て破壊・殺傷することで能率性を上げ、効果的に戦闘を行ったのだ。

 上位の目的行動に敵機及び敵戦闘員の破壊・殺傷が据えられ、その他多くの目的行動の下位に非戦闘員及び民間人への非殺傷があった。最上位目的の優先性、能率性により、最上位目的を達するべく行動した。敵機及び敵戦闘員の殺傷と、非戦闘員及び民間人の非殺傷を同位相に据えても、相反する目的が撞着し、結果的に能率性が優先され、非戦闘員及び民間人への殺傷は避けることをしなくなった。

 つまり戦闘を経験するごとに、その区別をしなくなったという軍からの報告だった。

 だが、実験段階や軍を交えての検証実験に於いて、可動式シミュレーターは100%の確率で戦闘員と民間人を識別していた。実際、対地制圧陸戦兵器のパイロットに試行させてみると、民間人への直接的殺傷は皆無に等しかったのである。

 そのことからパイロットの行動パターンを認識していく過程で、パイロット自身が非戦闘員及び民間人の区別をしなくなったのでは、と言う疑問が出てきた。

 しかし、それも直ぐさま否定された。可動式シミュレーターでの実験で、故意に非戦闘員及び民間人を殺傷しようとしたが、先に警告がモニターに表示され、それでも殺傷しようと試みるが、シミュレーターに搭載されたケイオスは、それを否定したのである。

 問題は搭載された側――対地制圧陸戦兵器にあるのでは、と疑問視された。

 対地制圧陸戦兵器開発者らから反論はあったものの、戦時中でもあり、対地制圧陸戦兵器を一から造り直すことは無理であった。それに、かねてより開発されていた自律型戦術兵器が、実戦可能段階まで漕ぎ着けていたため、軍部から睨まれるようなことは避けたい開発者らは、反論することを取り止めたのである。

 以前から兵士の戦死が問題にされており、機動力に加え、生存確率の高い巨大兵器が投入されたのだが、兵士の戦死は減少したもののなくなることはなかったため、自律型戦術兵器の研究されていたのだ。自律型戦術兵器には当初ニューロ・コンピュータが搭載される予定だったが、ニューロ・コンピュータ自体に問題が起こったため、量子コンピュータが搭載されることとなり、大戦末期に実験として戦地に投入された。

 戦果はあった。

 だが戦禍もあった。

 そして戦火は広がった。

 戦地に投入された自律型戦術兵器は、人の命令を無視し、人のコントロールを遮断し、無差別殺戮を行ったのである。

 戦争は終局へと向かった。


 数年後、自律型戦略制圧兵器の在り方が問題となり、世間の趨勢もあって、禁止される運びとなった。


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