第2話
今思えば、この時点で良く考えるべきだった。冒険者なら帰る時間がずれることなんて良くあるよな、なんて思わず探しに行くべきだった。
そもそも時間に正確なリリスが、ちょっとやそっとの理由で遅れるわけが無いのだから。
だが、愚かにも俺は気付かなかった。いや、気付いたが眠気の方が勝った俺は気付かなかったフリをしたのだ。
・~・~・~・
朝起きて家の中を探してみてもリリスはいない。どうしようかと悩んだ末に、とりあえずギルドへ行くことにした。
ギルドへ行けばいろんな情報が手に入るし、もしかしたらリリスが居るかもしれない。
例によって皆から話しかけられるのを適当に返し、ギルドへ入る。
「おはよう」
「おう、おはよう。あれ?今日も一人か?」
昨日俺と話し込んでいたうちの一人が話しかけてきた。
コイツまさか朝から飲んでたのか?
「ああ、そうだ。お前ずっと飲んでたのか?」
「昨日はそうだったが、今日は違うぞ。ちゃんと仕事だ」
昨日ずっと飲んでよくその次の日に動けるな。俺は飲んだことないから分からないが、普通は二日酔いとかあるんじゃないのか?
…………いや、コイツは酒に強そうだな。この前も結構飲んでたし。
「なら良かったぜ。てっきり酒と結婚したのかと思ったからな」
「そうそう、俺は独り身だから……ってうるさいわ!何言わせるんだ全く!」
「すまんすまん」
こうやって一人ノリツッコミをするくらいにノリがいいから話していて非常に楽しい。
「ところで、リリスを見てないか?」
「ああ?リリスちゃんはここには来てないぞ。なんだ、置いていかれたのか?」
ニヤつくペンドに若干苛つくがそのまま話を続ける。
言い忘れていたが、コイツの名前はペンドだ。
「当たらずとも遠からず、かな?昨日、北の森に行ったっきり帰ってないんだよ」
「そりゃ心配だな」
「まぁもう少ししたら帰ってくるだろ。あいつに何かあるなんて、この街に異変が起きることと同義だからな」
流石にSランクのリリスが人拐いに捕まるとも思えないし、寄り道でもしているのだろう。
「なぁ知ってるか?そういうのって、フラグって言うらしいぜ?」
「不穏なこと言うな。というか、仮にとんでもないことになっても俺達でどうにかするだろ?」
「当然だ。俺だってお前には届かなくとも、それなりの力はあると自負しているからな」
「頼むぜAランク様?」
「勿論だSランク様?」
「フフフ」
「ハハハ」
「「アハハハ!」」
互いに軽く睨みあったあと、笑い合う。
これも一種のコミュニケーションって訳だ。
「お二人とも、煩いですよ!もう少し静かにしてください!」
「「スミマセン……」」
──ここまでがワンセットだったりする。
・~・~・~・
「今日も疲れたなー」
「そうだな。でもこれで結構な収入だ」
北の森の近くにある草原、そこに中堅レベルの冒険者二人組がいた。
丁度やるべきことを終わらせたようで、今から帰るようだ。
「にしても、この街は本当に安泰だよな。何せSランクが二人にAランクが三人か四人はいるんだから」
「だなー。あの人達のお陰で俺達は安全に依頼がこなせるぜ」
「スタンピードが起きなければ、な」
「……やっぱり、あれってそうか?」
「だろうな」
何かに気付いたらしい冒険者達は、スタンピードという言葉を発した。
──スタンピード。魔物暴走。
リリスが向かった先も、スタンピードの兆候が見られたのも北の方向。これは、何かの偶然なのだろうか。リリスが帰ってこないことに、関係があるのだろうか。
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