第3話 『メインヒロイン?』
初めてのクエストをクリアした後、俺は宿を転々としながらクエストをこなしていった。
ちなみに今はアーカムの南にあるインスマスという街にいる。
都市のアーカムより宿代も安いし、自然もあるし、漁業が発達しているから新鮮な魚が安く食べられる!
クエスト報酬で食う寿司ほど旨いものはない。
あれ以降、所持金もだいぶ増えたし、容量無限のバッグも手に入れた。
そして何より、Lvの上昇に伴い、魔法攻撃の威力が少し上がった。
火力そのものもそうだが、射程がかなり広がった。前までは射程が短すぎて敵に直接叩き込むしかなかったが、今ではショットガン程の射程がある。
最初からショットガン使えばいいじゃんっていう結論に至って死にたくなる。
いくらなんでもデメリットが重すぎないか?
いや、調子に乗って物理に全振りした俺がバカなんだけども。
事前に教えてくれてればこうはならなかったのにって切実に思う。
とかなんとか考えつつ、昼食を買いに近くの店にやってきた。
適当にパンと牛乳をレジに持って行くと、
「お、アンタ転生者?」
「え?あ、はい」
「そうかいそうかい。どうだ、こっちにはもう慣れたか?」
「えぇ、まぁ」
この様子……転生者はそこまで珍しくないのか?
「ほら、おまけだ」
買ったものを受け取ろうとすると、レジのおじさんが小さなアメを手渡してくれた。
「色々大変だと思うが、がんばりな」
俺はおじさんに礼を言って、店を出た。
この世界には俺以外にも転生者がいるわけか。
それも、1人や2人じゃなさそうだな。
俺以外の転生者も、デメリットあるよな?
どんなデメリットなんだろう?
……まぁ気にしても仕方ない。
さっさと飯食って次のクエストに行こう。
俺はパン片手に宿の飲食スペースでクエストを探していた。
「えーっと……なんか手頃なクエストは、と」
適当に画面をスクロールしていた時、
電子職業手帳が震えた。
同時に現れたポップアップは、俺の興味と注目を引くには十分すぎた。
「緊急クエスト…………?」
赤い背景のクエスト項目。
マスターズギルドから定期的に発令する特別なクエストのようだ。
内容は、アーカムの外れにある刑務所に発生したモンスターの退治。
普段は海にいるモンスターが川を渡って街の近くまで来ているらしい。
群れごと襲撃に来たので1人では対応できない。そのため、マスターズギルドが緊急クエストとして複数人募集したというわけだ。
報酬金も悪くないし、何より1人じゃないというのが大きい。
フレイム(デカ目の線香花火)しか撃てない俺としては非常に心強い。
俺は緊急クエストを受注することにした。
インスマスから目的地までは約30分。
馬車代にして630G。
ほぼ同じ距離のアーカムからインスマスの時は1020Gもした。あの頃は安いと思ってたけど、こうして見ると高く感じる。
ちなみに、この世界は文化が発展しているにも関わらず自動車ではなく馬車を使わなければいけない理由だが、
もちろん自動車はあるにはあるらしいんだが、生産コストや燃料の観点から一部の金持ちしか乗れない。
さらに街中で乗るならともかく、街から少し出ると舗装されていない道が長く続く。舗装しようにもモンスターの襲撃に見舞われてまともに工事ができないからだ。
よって、車を買える金があっても足腰が強靭で悪路に強い馬が採用されることは多い。
目的地の刑務所に辿り着いた。
マスターズギルドから直々に降りている緊急クエストだからか、甲冑を着た役員に電子職業手帳の提示を求められた。
いつもは特にそういうのもなくクエストをクリアすると、誰がクリアしたかをちゃんと認識して報酬金やら何やらが入る。
マジでどういう仕組みなんだ。
役員に聞いたところ、今回暴れてるのは水性モンスターの「ココドリーロ」。
ワニ型の二足歩行モンスターだ。
とはいえ、ゴブリンと同じく武器を持っている上に非常に攻撃的な性格らしい。
注意して臨もう。
裏口から入ると、早速1人の剣士らしき人がココドリーロに応戦していた。
周囲が土色の壁に囲まれた細い廊下。
逃げようにも、廊下の先は暗くいつどこで別個体に遭遇するかわからない。
結果、目の前の個体をなんとかするしかなくなったのだろう。
ある程度敵に近づいた俺は、射程ギリギリで手袋をはめた。
「フレイム!」
その声と攻撃に気づいたココドリーロは俺に注意を向けた。
ココドリーロは長い三叉の槍を構えている。あれに刺されたら即死だ。
それと、この世界には当たり前だが属性同士の相性がある。
例えば今撃ったフレイムは火属性、風属性のモンスターに効果的だ。
ちなみにココドリーロは水属性。火属性は通りが悪い。
つまりどういうことかというと、
フレイムしか撃てない俺はかなり不利。
それでも注意を引けたということは、注意を向けなければならないほどのダメージが入ったということ。
完全に詰んでるわけではない。
そして、相性的に不利な以上戦い方は必然的に決まる。
「直接脳に叩き込む」。そうでもしないと格差は埋まらないだろう。
俺はあえて敵の眼前に突っ込んだ。
相手がどう動いてくるかを見極めるためだ。
「ギルルルァア!!」
ココドリーロは威嚇しながら、俺を槍で突こうとしてきた。右手から一直線に伸びる槍の射程は、おそらく俺のフレイムより長い。
なんだか悲しくなってきた。
俺はそれをヒラリと避ける。
ココドリーロは一度槍を引き、向きを変えて攻撃し直してきた。
これまた一直線。上下左右一切位置がずれない。
なるほど。
こいつは一直線に突くことしかできない。
恐らく横に薙ぎ払ったり、足を狙ったりはしてこないだろう。
なら、簡単だ。
「ゲームオーバーだ」
そう呟いた俺は、あえてゆっくり動き、敵の攻撃を誘った。案の定、ココドリーロは俺に突きを食らわせようとしてきた。
俺は床を滑るように槍の下をくぐり抜け、ココドリーロの肩に手を置き、その手を軸にして壁を蹴ってココドリーロの背後に回った。
「フレイム」
こないだと同じように脳にフレイムを叩き込んだ。いくら相性が悪いとはいえ、脳に直接火属性魔法が飛んできたら耐えられない。
こうして1体のココドリーロの骸がドスンと音を立てて目の前に落ちた。
そうして先に進もうとしたとき、
ジャラ…………
さっき蹴った壁から小さな金属音が聞こえた。
俺は単純な好奇心で壁に手を触れると、壁はくるりと1回転して俺を別室へといざなった。
忍者屋敷の隠し扉のような印象を受けた。
辿り着いた部屋の目の前には鉄製の檻があった。檻を閉じる扉には簡素な鍵がついている。外側からなら自由に開け閉めできるようだ。
檻の奥に広がる薄暗い空間には、天井から吊るされた鎖で両手の自由を縛られている女性がいた。
上はへそより少し上までしかないタンクトップ。垂れる黒髪は、右側はショートヘアー、左側は肩までかかる長さだった。
軽く割れた腹筋が存在を主張していた。
ハーフパンツを穿いた長い足は傷だらけだった。
俺がうつむいている彼女の表情を見ようとした時、
「ねぇそこの人。悪いけど助けてくれない?」
女性の方から話しかけてきた。
「罪人を助ける義理はねぇよ」
冷たいとは思ったが、俺はそう言い切った。
「罪人ねぇ…………」
女性は少し気になる言い方をする。
「じゃあもし、私が無実の罪で捕まってるとしたらあなたは助けてくれるの?」
まぁ……そりゃ助けるさ。本当に無実なら。
「なら、お前は自分の無実を証明できるのか?」
俺の投げかけた問いに対し、女性は予想外の返しをしてきた。
「…………《デメリット》って言えば信じてくれる?」
「なっ…………」
まさか、こいつ……!
「お前、転生者なのか!?」
女性は静かに頷いた。
「もう一度聞くけど……助けてくれない?」
「もちろんだ。すぐ助ける」
罠の可能性も考えたが、もしこれが罠で俺をはめようとしているとしても、気づかれないかもしれない隠し扉の向こうに檻を用意する必要はない。
彼女を信じてみてもいいだろう。
俺は檻の鍵を外し、彼女の手に巻きつけられた鎖を解いた。
「ありがとう」
女性は拘束から解放されると、部屋の端に置かれていたフード付きの上着に腕を通した。
「私はゼロ。つい最近この世界に転生者として生き返ったの」
「俺は……グレン。俺もつい最近、ここに来た」
「……!…………そうなの。とにかく、ありがとねグレン」
ゼロと名乗る女性は上着の内側から封筒を手渡した。俺が閻魔大王から貰った物と同じだ。
おもむろに手紙を取り出し、その裏に書かれているゼロのデメリットを確認した。
ゼロのデメリットは『所持金0&初期地点が牢獄』
なるほど、前世での罪の重さによってはデメリットが2つの場合もあるのか。
「そういえばさっきから外が騒がしいけど、どうしたの?」
「……そうだ!まだクエストの途中だ!」
「クエスト?」
「その説明は後だ!今はモンスターを倒さなくちゃいけねぇ!…………って」
そうだ。この女は武器も持っていないし戦闘経験もない。
自力で帰って貰おうかと思ったが、モンスターがうじゃうじゃいる中に放り出すのも非人道的な話か。
「お前、その様子じゃ1人では街に辿り着けねぇよな。仕方ない、俺についてこい」
俺は隠し扉を開けようとするが、
「待って」
ゼロがそれを止めた。
「ねぇ、銃か何か持ってない?」
銃……?あぁ、そういえば買っておいた奴があるな。
「一応ハンドガン2丁と銃弾がある」
「貸してくれないかしら?」
「…………戦えるのか?」
「戦えなかったらわざわざ借りないわよ」
俺はゼロに銃を手渡した。
ゼロは手慣れた動きで弾丸を銃に込める。
「助けられた恩もあるし、モンスター退治とやらを手伝ってあげてもいいわ」
ただし、とゼロが続ける。
「悪いけどあなたの命を保証することはできない。自分の身は自分で守って」
ゼロは銃口を俺に向け、少し口角を上げた。
これが俺とゼロの出会い。
これが俺の最高の相棒との出会いだった。
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