アスタ・ラ・ビスタ〜転生時の能力振りミスってクソザコ魔法使いになったけど、前世の殺人鬼の記憶で最強まで成り上がります〜
セリシール
第一章『ようこそ楽しい煉獄へ』
第1話 『キャラメイク』
その瞬間は一瞬だった。
俺は男に連れられてゆっくりバツ印の書かれた床の上に立って、そのまま首に縄をかけ、静かに目を閉じた。
まぶたの裏には走馬灯のように思い出が映し出される。どれも血にまみれていて、どれも醜い思い出だ。
結局1つも楽しい記憶を思い出せないまま、床の扉がバタンッ!と開いた。
夜9時13分。俺の死刑は執行された。
「次の魂、前へ出ろ」
目が覚めると同時にその声を聞いた。
頭で理解はできていないものの、体は勝手に1歩前へ出る。
というか、ここはどこだ?
とてもじゃないがさっきまでいた東京とは思えない。禍々しく、重い空気が俺を包んだ。
辺りを見渡すと、針が無数に刺さった山やいわゆる鬼のような姿をした人型の生物。
首が3つある、火を纏った巨大な犬なんかもいた。
そうか、ここは――――
「ここは地獄だ」
目の前の机に座る人が先にそう言った。
作業机の上には大量の書類と大きなハンコ、それと万年筆なんかが置いてある。
助手らしき女性を隣に立たせて、その机に肘を置いて俺を凝視するのは、大学生くらいの白髪の青年――――とはいえ、頭には五角形の板を組み合わせて円形を作った冠、そこには大きく「王」と書かれていた。
「俺は地獄を司る者。早い話、閻魔大王だな」
やっぱりな。
ここは地獄で、目の前にいるのは閻魔大王。
そうなるとこれから先起こることは分かる。
「俺を地獄送りにするってことですか?」
俺の問いに対し、閻魔大王は腕を組んでこちらを睨んだ。
絶対的な威圧感が俺を圧倒した。
「半分正解とでも言おうか」
閻魔大王は机から分厚い本を取り出す。
「これは閻魔帳と言って、ここにくる魂の生前の行いが全て記されている。無論、お前の行いもだ」
閻魔大王は本のページをペラペラとめくり、ある箇所を万年筆の後ろでトントンと叩いた。
「お前は生前、連続殺人鬼として多くの人間を殺してきた。数に表して229人。これは強引にでも無限地獄に叩き落とさなくてはならない程の重罪だ」
そりゃそうか。どんな理由があれど、俺はそれだけの数を殺してきた。
しかし、と閻魔大王は続ける。
「この229人全て、
そうだ。
俺がこれまで殺してきたのは、暴力団員、テロリスト、独裁者等の極悪人。
そして正真正銘、俺は正義の為に殺しを行っていた。
「地獄側としては、お前の犯した罪も、お前の行った善行も、決して無視できるものではないと考えた」
そこでだ、と続ける。
「
「えっ…………!」
驚きのあまり声を出してしまった。
「もとより、稀ではあるが前例が無いわけではない。こういった魂を送る場所は事前に用意してある」
閻魔大王の話によると、
この世界と平行して存在する世界の1つを閻魔大王が直々に改造し、天国も地獄も相応しくないと判断された魂の行き場として採用したらしい。
管理しやすいようにあらゆる能力や概念が数値化されている世界。
『限りなくゲームに近い現実世界』という解釈で異存ないとのことだ。
そこに俺を転生者として、何かしら1つ制約をつけて生き返らせる、という話だ。
元いた世界に生き返れればそれがベストだったんだが、贅沢は言ってられない。
なんせ200人以上殺したんだからな。
「というわけだ」
閻魔大王は引き出しから1枚の紙を取り出し、それを猛スピードで埋めていく。
そして地面が揺れるほど力強く、その紙にハンコを叩きつけ、それを隣の女性に渡した。
「ここから先は別室での行程となる。彼女についていってくれ」
女性は俺の前で一礼し、向かって右に歩いていった。焦げ茶色の固い土を踏みしめ、別室に辿り着いた。
中は意外と近代的で、金属製の白銀色の壁と灰色の床に囲まれた中心の机には何枚かの書類とペン、それと電卓が置かれていた。
促されるまま椅子に座った。
女性は反対側に立って、1枚1枚丁寧に書類の説明をしてくれた。
要約すると、前世の行いに応じて数値が割り振られ、それを能力値…………いわゆるステータスに自由に分配していいらしい。
俺に配られた点数は60点。
ステータスの初期値の平均が15なので、なかなかいい点数ではないだろうか。
さらに、総合の数値さえ初期値を超えなければベースとなるステータスをいじってもいいとの事。この権利を得るのは10人に1人だとか。
ステータスは以下の通り。
《HP》と《MP》。
これは説明するまでもないだろう。行き先の世界では魔法が発達しているらしいので楽しみではある。
《STR》
攻撃力。物理攻撃の威力はここで上げられる。
《POW》
精神力。魔法攻撃の威力に影響する。
《GRD》
物理防御力。物理ダメージの減少に繋がる。
《SID》
魔法防御力。魔法ダメージを軽減させる。
《DEX》
俊敏性。早く言えば素早さだ。
《SAN》
こちらも精神力なのだが、こちらは少し特殊で、転生者が絶対的な恐怖や絶望を感じると、この数値が減る。
そしてこの数値が一定の期間で大幅に減ると、狂気に陥るとのことだ。
この8つのステータスに点数を分配する事ができるらしい。
また、その他にも年齢や名前を自分で決められたり、申請が通れば物を持ち込むことも可能らしい。
とりあえず、ステータスを振ることにしよう。
とはいえ、これにはセオリーがある。
基本的に能力は「短所をカバーする」よりも「長所をさらに伸ばす」方が効果的だ。
当たり前だが、俺は魔法なんぞ使えない。
大人しく
あとはそうだな…………。
個人的に、行動速度は重要だと感じる。
さっき暴力団員から逃げているときも、もう少し足が早ければ逃げられただろうからな。
少しでも
最終的に俺は
STR:45 DEX:15
の割合で数値を振り分けた。
他の項目を一気に書き終えた俺は、女性にそれらを手渡した。
それを一通り見た女性は書類の隅にサインを書いて、こう言った。
「転生者グレン。17歳。申請物、サバイバルナイフ」
女性はどこから取り出したのか、小さめのハンコを手に持った。
「以上の者を転生者としてニグラスに送る事をここに承認します」
ダンッ!と、ハンコを押す鈍い音が聞こえると同時に、俺の意識はプツンと切れた。
ここから、俺の新しい未来が始まる。
異世界転生者としての、新しい未来が。
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