2021年9月24日から、25日
お元気ですか?
こんな深夜に手紙を書いています。深夜0時を回ったら日付のうえでは明日なのですが、なんとなく、眠るまでは今日という感覚があります。明日は仕事に行く日なので、はやく眠らなければならないのですが……。
どうしてこんな深夜にここに居るのかというと、大阪人権博物館が更地になってしまったのだそうです。今さらながら今日、そのニュースを見て、なんだか動揺してしまいました。
大阪人権博物館は、わたしが大学生のころ、学芸員実習でお世話になった博物館です。
二週間ほどの実習でした。遠くに住んでいたので、芦原橋の駅周辺でビジネスホテルに泊まり込みました。1泊5千円ぐらいだったと思います。わたしがそこへ実習に行きたいと言ったので、資金を出してくれた両親には頭が上がりません。
実習先は学校から斡旋されるコースもあったのですが、「それはなんとなく嫌だ」とか言って自分で実習先を探したのは、言うなれば若さで、臆病なわたしのときどきだけ出る勇気だなと少し誇りに思います。
ともかく、土地勘もなにも無い芦原橋駅から、実習前日に一度博物館へ行ってみようとして迷子になりコンビニで道を尋ねたこと(当時スマートフォンなどではなく、ガラケーで地図を見ていたのか、あるいは事前にプリントした地図ぐらいしか無かったように思います)、それで歩いているうちひどく靴擦れして、商店街の薬局のようなところで絆創膏を買い帰るまで手放せなかったこと、距離感がわからないまま予約したビジネスホテルが駅を挟んで真反対の場所にあり、毎日徒歩で片道30分を通ったこと、それで運動量が多かったのか、帰るなり父に、痩せたな、と言われたこと、道の向こう側にあった「スーパー玉出」をパチンコ屋さんだと勘違いして行かなかったこと、なんだか、そんなことばかり憶えています。
わたしが実習に行った2008年は、あとから思えば、もう施設が存続の危機に陥っていたのだと思います。ただ、当時は展示内容は変わる前だったと記憶しています。
実習は厳しかったと記憶しています。当時わたしはろくな苦労も知らぬ呑気な学生でしたから、「厳しい」の基準は怪しいものではありますが。
実習が休みの日に大阪市立図書館へ調べに行ったり(学芸員さんが地図を出してくれました)、最終的には擬似的な展示企画を作るというので、ホテルで深夜まで課題に取り組んでいたことを憶えています。
それより、何より、ボランティアに行ったりしていただけで「わたしは差別者ではない」「差別される人たちのことを思っている」と思い上がっていたわたしに、「あなたも差別者である」と突きつけてくれたのがこの実習だったと思っています。直接、そんなことを言われたわけでは無いのですが。でも、なぜか、今でもずっとそう思っています。
そういう意味では、2008年のあと、変わってしまったあの一番はじめの部屋の展示を、なんだか寂しく思います。
被差別部落と言われるところの歴史も、博物館を巡る土地の権利などのことも、わからないと言ってしまってはいけませんが、わたしにはわからないことのほうが多い。でも、あの場所が無くなってしまったということに、喪失感と怒りがあります。
実習の最後のほうだったか、どうしてか、だれも居ない展示室をひとり歩いた記憶があります。しんとしたあの空間は、怖かった。言葉にできない感覚でした。強いて言うならば、虐げられてきたひとたちの叫びが、渦巻いていたのを感じたでしょうか。わかりません。言葉にしないほうが良いのかも。
あれを、ネガティブと呼ぶなら、たしかにそうでしょう。けれど、でも、だからといって、消してしまってはいけないと思うのは、綺麗事でしょうか。
博物館は、数年前にもういちど訪ねました。実習に行ったときと同じ、夏でした。駅からの道は同じように殺伐としており、あのころと同じ印象で、それは差別だろうか、と思いながら歩きました。迷子にはならなかった。
博物館の中にはボランティアのおじさんが居て、土地の歴史を説明してくれました。だから市がここを廃止しようとするのはおかしいんだ、と言っていました。売店で売っていた図録は展示が変わるまえのもので、それを買って、帰りました。
いろんな考え方があります。つい、ツイッターなどで大阪人権博物館と入れて検索してみたりしました。閉館を惜しむ声や憤る声が多いようにも見えましたが、でも、廃止を決めたのは多数決で選ばれた首長と政治です。
だれの考えも、どちらかには偏っています。わたしの考えも、そうでしょう。それだけのことです。悲しい、腹立たしいと思ううち、悲しみや怒りを自分で増幅させる(この言葉を使ったのは配偶者で、言い得て妙だと思います)のは、わたしの悪い癖です。
けれど、でも。
わたしがなにを言っても、今は無いものの話です。とりとめのない話と、思い出話です。
読んでくれて、ありがとうございます。
それでは、また。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます