虫の知らせ

こむらさき

19950817

「摩耶の妹、しんちまうかもなあ」


 用水路で遊んでいる時に、不意に空を見つめた祖母がなんでもないように呟いたことをやけに鮮明に覚えている。

 私はそれを不思議に思って「どうして」と聞いてみたけれど、祖母は「けえるべ」と言うだけで答えてくれなかった。


 それからしばらくして、祖母が言っていた通り生まれたばかりの私の妹はお腹を裂かれて死んでしまった。

 犯人の痕跡もなく、未解決事件として私の妹を殺した事件は時効を迎えた。

 祖母の不気味な予言は時々当たった。

 それに、近隣では動物がよくいなくなる事件も多かった。

 我が家でも雌猫を何匹か飼っていたけれど、仔猫や雄猫は度々行方不明になることがあった。いつのまにかいなくなってしまうのだ。

 昔の田舎だ。今のように室内飼育でなく、半野良のような外飼育だったから、確かに事故にあったり、どこかへ行ってしまうなどもあるのだろう。

 でも、決まって雄猫だけがいなくなる。


「雌のケツおっかけてどっかいっちまうんだべ」


 私に一番懐いていたトラがいなくなった時、祖母はそう言って頭を撫でて慰めてくれた。

 母には多少当りがキツかったらしいけど、祖母は私には優しかった。父も母も仕事で忙しくて家にいなかったから、祖母に育てられたようなものだったこともあって、私は祖母のことが大好きだった。


 摩耶ちゃん、摩耶ちゃんと私のことを可愛がってくれた祖母が亡くなったのは去年のことだ。

 私に起こっている異変は、祖母の一周忌に実家へ帰ってから始まった。

 今も頭の中に聞きたくも声が染みこむように広がってくる。

 

 ぐみくわせろぐみくわせろけちけちしてっとぶっくらしちまーぞ


 繰り返し頭の中で響く声。

 ぐみくわせろ……お菓子のグミかと思って仏壇にグミをお供えしてみたけどどうにもならなかった。

 このまま死んでしまうんだろうか。

 誰もいない部屋で、念仏を唱えてみたけれど頭の中に響く声は止まらなかった。

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