第34話 妹の裸!?
前回までのあらすじ――
兄である俺を殺そうとしてくる朝姫をつれて、海にやってきた。
無事に朝姫の暗殺計画を回避したかのように思われたが、あいつの水着の紐がほどけてしまったらしく……更には、一緒に来た杏奈たちともはぐれてしまった――
さて。
そんなわけで、現在の状況を簡単に説明すると。
水着を外してしまった朝姫が、裸のまま俺の背中に抱き着いている。
そんな状態だ。
心臓の音が――凄まじい。
俺の音か、朝姫の音か分からない。
あるいは共鳴しているのかもしれなかった。
それくらいに、耳から心臓が飛び出してしまうのではないか、と思うくらいに、胸の音がうるさい。
とはいえ、朝姫の裸を誰とも知らないくそ男どもに見られるわけにもいかない。
さて、どうしたものか。
「と、とにかく……一度移動するぞ……人目のないところに移動して、直してから皆と合流しよう」
人の波と、こんなくっついている状態では、皆のいるところまで辿り着けそうにない。無論、叫んでもいいが――そうなると、変態がよりついてくる可能性もある。
いや、変態が来なかったところで、朝姫にそんな恥ずかしい思いをさせたくはない。誰だって嫌だろう。公共の場で、裸になってるので助けてください、なんて……。
だから、こいつは、俺に助けを求めてきたわけだし……。
待てよ。これすら、暗殺の計画の可能性は?
ありえないわけじゃない。
このくっついている状態……はっきり言って、もう逃げ出せない状態になっている。
――くそっ!
余計な思考をするな。
これが、ただ本当に――純粋に助けてほしいだけだったらどうする?
無視できない。ここで無視するような兄は、兄じゃねえ。
ゆっくりと息を合わせて泳ぎながら、岩場の陰に移動する。
フィクションでは、綺麗な場所なイメージがあったが、現実では違う。ゴミだらけで、足の踏み場もないほどだ。
それでも、気持ち悪い感覚を我慢しながら、上がる。
「だ、大丈夫か……?」
「どうしよう、どうしよう、お兄ちゃん……どうしよう……」
表情は見えないが、相当困惑している様子だった。
ちょっとしたパニック状態。
「安心しろよ。ここじゃ俺しか見てないから…………だから、一旦離れていいか?」
「だめ!!」
彼女は強く叫んだ。しかし、声は震えている。
「だめだよ……」
こりゃあ、相当参っていると見える。
いつもは強気なこいつが、ここまで弱っているのも珍しいが……今、それを楽しんでいる場合ではないことは確かだ。
後でめいっぱいからかってやるとして――今は問題の解決を急ぐ。
「でも、離れないと結びなおせないだろ?」
「だって……見られるっ……」
「大丈夫だ。確認したけど、人の気配はないし、それらしい視線も感じない。それでも気になるなら、屈めばいいだろ?」
背中の紐を結ぶくらいなら、俺にだってできる。
「お兄ちゃんに見られるじゃん……!」
「俺ぇ?」
予想外の相手だった。
「馬鹿……お前、俺に見られたってどうってことないだろ」
「嫌……お兄ちゃんが一番嫌!」
ガーン!!
そこまで言われる筋合いがあるだろうか。
「ちっ……違う。ごめん、そういう意味じゃなくて……。だから、私が言いたいのは……お兄ちゃんに見られるのは……今はまだ駄目ってこと」
「なに言ってんだ、お前」
意味不明すぎる。
「はあ……分かった。目を瞑るから、それでいいだろ?」
「で、でも……紐は誰が結ぶの?」
「自分でできないのかよ」
「できるかもだけど……さっきみたいに緩かったら……」
「あー! もう!」
なんて面倒なやつだ!
「いいか。極力見ないようにはする! それでも目に入る可能性はある! でも、心配しなくても、俺はお前の兄だ。兄貴だ。どういう意味か分かるか? お前の裸くらい、いくらでも見てきたし、今更、減るもんでもないってこった。更に言えば、妹の裸に興奮する兄は、少なくともここにはいない! 分かったか?」
「…………それは……」
「背中を向いてくれたら、結んでやる! それじゃだめか!」
俺の提案で、彼女は口を閉ざした。
どういう反応をしているのか、分からない。
悩んでいるのか、困っているのか、泣いているのか、緊張しているのか。
長い沈黙だった。
しかし、やがてそれは決壊した。
「じゃあ、お願い……目、閉じて……」
言われた通りにする。それを確認してか、彼女は少しずつ、俺の背中から離れていった。
どうやら心臓の音は、俺のものだったらしい。
まだ鳴りやまない。
いっちょまえに緊張しやがって。
ああ言った手前だ。
俺は兄だろ! しゃんと覚悟を決めろ!
……長い。……長すぎる。
一体、どうしたのいうのだろう。
目を開けたい。どうなってるのか気になる!
その欲求に負けそうになった時だった。
「いいよ」
その声を聞いて、俺はゆっくりと目を開けた。誰もいない。振り返ると、屈んで背中を見せている朝姫がいた。
耳が、真っ赤だ。
彼女はかろうじて胸を腕で覆い、大事な部分を隠している。水着の紐が、彼女の脇から垂れている。
「結んで……お願い……」
泣きそうな声でそう言う。
一体……どれだけ困惑しているんだ。実の兄に――それも、殺したいほど憎んでいる兄に見られたって、なんとも思わないんじゃないか、普通は。
あるいは、屈辱感を味わっているのだろうか。
どちらでもいい。
どちらにせよ、朝姫は困っているのだから。
妹が困っていたら、助けるのが兄の仕事だろうが。
それ以上でも、それ以下でも、ないはずだ。
ないはずなのに。
なんで、俺は、こんなにうるさいんだ。
静まれよ。うるさいんだよ。
なんで――こんなに火照っているんだよ。
――
――……。
「あ! どこ行ってたの!?」
マリンちゃんが砂浜から手を振っているのが見えた。
俺と朝姫は駆け足で合流する。
「家族水入らずで、ちょっとな……」
「ふうーん……」
マリンちゃんは少し目を細めていた。
なんだよ、その目。
「ま、いいけど」
「にしては随分、顔が真っ赤だな、二人とも」
杏奈が言ってきた。
え? そう? ちょっとワカンナイ。
「ちょ、ちょっとはしゃいだからな……な、朝姫!」
「え? ……あ、う、うん!」
反応にぶっ!
そんなんじゃばれるぞ。
別にばれたところで、問題はないけれど。
そんなわけで、海水浴はいくつかの波乱とともに終了した。
思わず息をつく。
車を動かして、旅館に戻る。
後部座席に座っている杏奈、すみれちゃん、マリンちゃんは疲れ切ったのか、眠っている。助手席の朝姫も少し眠そうだ。
「寝ていいぞ、別に」
気を遣ってそう言ったが、彼女はこちらを向いてきた。
「それがね……岩場にいた時、目を瞑ってもらったよね」
「……? ああ」
「あの時さ……その、視線を感じたの……分からないけど……誰かに見られてる気
がしたの……」
俺は強くハンドルを握りしめた。
その言葉の意味を、理解しきれないまま――
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