第23話 おにぎり大作戦を準備せよ
【前回までのあらすじ】
校内カフェ・ヤシマベースを開業ミフネ、フブキ、サユリ。
校長から出された「文化祭までに全生徒が利用する事」という条件をクリアするために奮闘するも、思いの他来客数が伸びないのであった。
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「なーんか、ヒマやわ~。」
ミフネの嫌な予想は的中した。
オープン初日は、物珍しさから多くの生徒が来店したものの、翌日以降から徐々に客足が減り、ついにはカウンターの奥でサユリがマンガを読みだすほど店は閑古鳥かんこどりが鳴いていた。
「サユリ!営業時間中なんだから、マンガはだめよ。」
カウンターに立っていたミフネが振り返り、サユリをにらみつけた。
「だってヒマやも~ん。今日、まだお客4人しか来とらんが~。」
キッチン近くの席にすわり、上体はぐったりとテーブルにもたれかかったままの姿勢でサユリが愚痴ぐちを言った。
「でもな、次の来たお客さんが、店員のそういういいかげんな姿勢を見たら、この店で飲食物を買おうって気が失せると思うで。」
フブキも同意する。
「せっかく来店してくれたお客さんは、一人一人大切にしなきゃ。」
ミフネは、この数日間、来店してくれた一人一人の顔を思い出した。
はじめのうちは、目を見て話すのも緊張してできなかった。
ぎこちない笑顔を作りながら、細めた目は、相手と視線が合わないように、密かに相手の胸元を見るようにしていた。
「ミフネさん、このカフェで働いとるんや。意外。」
アイスコーヒーを受け取った女子生徒に不意に名前を呼ばれ、ミフネは相手の胸元に落としていた視線を顔に向けた。
あ、同じクラスの……。
普段から一目を避けて生活しているミフネにとって、クラスメイトだと分っても咄嗟とっさに名前までは出てこなかった。
「同じクラスのトモヨ。ミフネさんっていっつも本を読みよるけん、なんか声かけづろうて……。ここ、すっごい素敵なカフェやね。」
自分は傍はたから見るとそんな感じなんだと、改めて自分の協調生のなさを反省した。
「あ、ありがと……このカウンターも自分たちで作ったんだ……私は設計担当で……。」
「えー!?そうなん?すごいわー。」
「もうすぐ、テーブル席もつくる予定だから。また来てね。」
「うん!また来るけん。」
そう言うと、アイスコーヒーの注がれた紙コップを持った反対の手を軽く振って去って行った。
トモヨの背中を見送りながら、自分がクラスメイトと自然に話せたことに驚いていた。
「ところで、これまでお客って何人ぐらい来てるん~?そろそろ全校生の半分ぐらいいった~?」
とりあえずマンガを閉じたサユリだったが、それでも上体はもたれかかったまま質問してきた。
「月曜105人、火曜64人、水曜22人、木曜は13人、今日はまだ4人よ……。」
「ざっと全校生の900のうちの200人ぐらいか、まだまだやな。」
「状況はそんなに良くないわ。同じ人が繰り返し来てくれているケースもあるから、来店したことのある生徒の実数は150人ぐらいかな…。」
「うえー、まだまだやの~。」
サユリは、閉じたマンガを枕に居眠りの姿勢に入った。
「でも、今週末は野球部のお弁当づくりがあるわ。これが評判になれば、他の部からもオーダーがくるかもしれないよ。まだ、このカフェを利用したことのない人にアピールする絶好のチャンスよ。」
「そうやな。おにぎり弁当で評判上げるでー。」
そんな話をしていると、三人の男子グループが来店し、コーラを注文した。
「サユリ!コーラ三つ!大至急で!」
「は~い。」
サユリは、気合を入れて立ち上がると冷蔵庫に小走りで向かった。
その日の閉店後、三人は、土曜日早朝に出発する野球部のおにぎりを試作してみた。
閉店前に炊き始めておいた炊飯器から、ほかほかのお米を取り出し塩をまぜこみ、おかずとなる昆布やおかかなどの具材を入れて海苔で巻いた。
「ミフネの家のおにぎりは、具材を入れるのに、米に塩もまぜるん?」
「これはね、少しでも具材を節約するための工夫よ。もし、一口目が具材に届かなかったとしても、とりあえず米に味がついていたら、満足感が得られると思うの。それに、運動する人って、汗で体の塩分が流れ出るから、塩分補給にいいんじゃない。」
「お~。さすがマネージャー、いろいろ戦略考えとるの~。じゃあ、うちは、具材用の炒り卵作るわ。」
試作おにぎりは、どれもおいしい味に仕上がった。
いつの間にか外が真っ暗になっていることにも気づかず夢中になっていた。
「あ~、どれもおいしい。」
「は~満腹。もう今日の晩ごはん要らんわ~。」
それもそのはず、三人とも五種類のおにぎりをすべて完食しているのだから。
「明日は朝四時カフェに集合。家庭科室から炊飯器を借りてきているから、それで米を炊いている間に具材づくり。五時から炊きあがったお米でおにぎりづくり。完成させて七時の野球部の集合時刻に届けるのよ。」
「ふえ~、明日はすごい早起きせなな~。」
「そやの。今日はもう片付けして帰ろ。」
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