第11話 活動資金を調達せよ!

【これまでのあらすじ】

学校の片隅にある倉庫小屋でカフェづくりをはじめたミフネ、フブキ、サユリの三人。

サユリは、徹夜で店内のイメージをスケッチブックに描いてきたが、どれも本格的なものばかりで、実現するためにはかなりの予算が必要だということに気付く。

―――――――――――――――――――――――――――



「ねえ、カフェづくりの予算ってどうするの?」

ミフネがフブキに尋ね

「え~っと、正直なところ、ここまで本格的なものをつくる予定はなかったんや・・・・サユリのデザイン画はすばらしいと思うけど・・・・。」

フブキが答えた。

「私、調べてみたけど、カフェを開業する内外装の工事には数百万円かかるらしいの。」

ミフネが衝撃の金額を持ち出した。

「え~、これ全部ボツ~?!一生懸命かいたのに~!」

サユリが泣きそうになる。

「そ・・・そうやな、テーブルや棚をなるべく自作して雰囲気を近づけることはできるやろうけどな~。」

昨夜サユリは、妄想が湧き上がるまま夢中でイメージ・スケッチを楽しんでいたが、予算のことなど頭の片隅になかったことを反省した。


重い沈黙が倉庫小屋の中に充満する。


「みんなでバイトしようか。」

沈黙に耐えきれずフブキが呟く。

しかし、その場にいる誰も膝を打つような反応は見せない。そもそも、サユリは厳格な父親に「バイトをしたい」なんて申し出ても許してもらえるとは思えなかった。


「バイトで活動資金をためるとなると、カフェづくりの時間が削られるよね。率直に言うと回りくどいっていうか・・・それなら、文化祭を待たずとも、最低限の設備をDIYで作って、可能な形のカフェをオープンするのはどう?活動資金を得ながら徐々にカフェをグレードアップしていくのよ。」

普段、無口なミフネが饒舌に語り出している。

これは、自分達にはない論理的な思考がミフネの中で巡らされている状況だとサユリもフブキも悟った。

「最低限の設備って何なん~。このあいだ整理した中に、食器や調理器具ならあるけど~。」

「イシハラ先生からは、倉庫にあったものは、自由に使ってええって言われとるよ。倉庫の裏に置いてあるから見てみようか。」

サユリとフブキは、ミフネが何を考えているのか問いかけてみた。



 倉庫の裏は、以前住み込み職員のためのトイレや風呂場の小さな離れがあり、そこまで軒を延長するような形で渡し屋根が設けられている。

プライバシーを守るために、簡易的に波板の壁も作られていて、半屋内・半屋外といった感じだ。


 先日の倉庫小屋内の片付けで出てきた物の中で再利用できそうなものは、すべてこの渡し屋根の下に移しておいた。

ガラクタでごった返していた時は、このスペースの存在に三人は気づいていなかったが、すべての物を外に出すことで発見された。

そこに並べられた木材や生活用品を見ながら三人は考えた。

「食器、調理器具以外でカフェの開業に必要なもの・・・これさえあればカフェらしく見栄えのするもの・・・。」

ミフネが呟いた。


「この木材で、テーブルとか作ってみる?」

フブキが大量に積み重ねられた木材を見ながら適当な思い付きを提案してみた。

「それもいいけど、複数作るには時間がかかるわ。ただのテーブルなら空き教室に生徒用の机や長机が余っているし、とりあえずならそれらで代用できるんじゃない?」

「たしかにそうやなあ。」

論理モードに入ったときのミフネは、どこか他の者を説き伏せるような気迫さえ感じる。

「それがあるだけで、ぐっとカフェっぽくなるもの~・・・・。カウンターなんてどう~?」

サユリが思い付きで提案する。

次の瞬間、ミフネの目が見開かれ、両手をパチンと鳴らした。

「そうね!それよ!カウンター!まず、はじめにカウンターを作ろう!カウンターがあるだけで、一気にカフェの雰囲気が出るし、何より機能的だわ。」

サユリは、能天気に喜んだ。自分でも自覚しているが、サユリは、その人が押してほしそうなツボを本能的に分かるセンスがある。

授業の課題はぜんぜん出せていないが、なぜか教師たちからは可愛がられるのは、ひらめきでそういうツボを押すのがうまいからなのだろう。


「まず入ってすぐにカウンターを置いてテイクアウト中心の小規模なカフェをオープンするの。営業しながら、カウンターの奥では店舗拡大に向けた次の準備も同時進行で行っていくと、時間も手間も節約できるわ。

 そして、活動費が十分に得られたら、段階的にカウンターを店の奥に移動させればテーブル席を増やせる。さらに、カウンターはカウンター席としても使えるように作れば、より高いキャパシティが得られるし、スタッフとお客さんの交流も生まれるわ。」

ミフネの頭の中で組み立てられたイメージが、サユリやフブキにも共有される。

「お~!なんか現実味のある経営戦略!」

フブキの表情が急に明るくなる。

「カウンターテーブルのデザインは、うちにまかせて~。」

ミフネの言葉を聞いて、さっそくサユリは、スケッチブックを手に取り、カウンターテーブルの具体的イメージが体中に湧き上がってくるのを感じた。

「ぜひお願いしたいわ。でも、その前にまず寸法を決めなきゃ。この際だから、建物内の採寸もして、間取りを決めていこう。初期・中期・完成期の3段階に分けて。」

「来るたびに変化が楽しめるカフェ・・・なんか『成長するカフェ』やね。」

フブキが満面の笑みで呟いた。

「成長するんか~。なんかうちらみたいやね~。」

サユリも頭の中で妄想を広げながら恍惚の表情で呟く。

「そうね、私たちが成長しているかどうかは分かんないけど。」

サユリの言葉に吹き出しそうになりつつも、ミフネが冷静な見解を述べた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る