依り代の魔法使い
伝説のたにし
切欠
う、う〜ん
いつもの天井が見える、寝起きの所為で視界が霞む・・・
「テール? 早く起きないとカールおじさんに怒られるよー」
聞き覚えのある声が俺を起こそうとする言葉をかけて来た。
眠くて仕方ない。あと五分は寝かして欲しかった。そんな思考が頭をよぎり、思わず口から出てしまう。
「あと五分・・・」
頭に衝撃が走った。
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「いってらっしゃーい!」
目の前にはライトブラウンのポニーテイルの揺らしながら少女は可愛らしい笑顔で手を振っていた。
幼馴染の"レア"である。
釈然としない気持ちで先ほどフライパンで殴られた場所をさすりながら家をあとにする。
俺は幼馴染と住んでいる。俺たちは幼い頃に両親を亡くして、いく当てもない俺達をカールおじさんが拾ってくれた。
"カール"おじさんはこの村では面倒見のいいおやっさんとして有名である。豪快という言葉がこれ以上とないくらいに合致した人だ。
俺は頭をさすりながら家を出ると、髭面の後光の差しそうなつるつるの頭をしたおっさんが歯が全て見えるくらい口を開いてわらっていた。カールおじさんである。
ちなみに俺はおやっさんと呼んでいる。
「ガハハハ!今日は寝坊しなかった!」
っと豪快に笑っていた。
こちらの苦痛も知らずに・・・・と思う。
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ここは人口250人ほどの小さな村で名前はない。
周りは森に囲まれており、村の真ん中には河が村を二分するような形で流れている。別れた村を繋ぐように岸から岸へと橋が架かっていた。
村は、河を境界線とし産業地域と住宅地域に別れており、さらに産業地域には農業と炭坑の2つに別れていた。
おもな収入源は炭鉱で、月に一度掘った鉱石を大きな街に売りに出して、その代わりに大きな街から大量の食料や衣類を仕入れている。
周りにモンスターは少なく、河の近くというのもあり、毎年村が飢えない程度には豊作であった。
俺とレアがこの村で最年少であり、俺はおやっさんや周りの大人に滅茶苦茶こき使われ、
対照的にレアは周りから可愛がられていた。
レアも俺もお互いに孤児であった。
二人共、両親はモンスターに襲われて死んだ。別に珍しい話しじゃないとおもってる。
お互いに幼くてあまり両親の記憶はなかったので、おやっさんが親みたいなものだった。
ちなみに俺は今年で10歳になる。
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もうすぐ昼になる。
今日も"テール"にお弁当を届けないと!
テールの仕事場へ足早に向かっていると。
畑から声がした。
「レアちゃーん、小麦が豊作だからあとでおばさんちに取りにおいで」
この村の人達は、孤児である私やテールに色々物をくれる。
助かっているのは事実だけど、ちょっぴり申し訳ない気持ちになる・・・
断るのも失礼なので、
「ありがとうございます!」
っと返事した。
河に架かる橋を渡って少し歩いた所にテールの働く炭坑がある。
カールおじさんの叩く鐘の音が聞こえる。
休憩時間になるんだ!
少し駆け足で炭坑に向かって行った。
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坑道内に甲高い金属音が響き渡る。
「おーい、野郎ども!休憩にするぞー!」
おやっさんから休憩の声がかかった。
腹が減った。
俺の昼飯は毎回レアが作って持ってきてくれる。ありがたい事なのだが朝からずっと労働していた身体は少しでも早く飯にありつきたいらしく、遅れているレアに苛立ちを覚えていた。
水を飲んで空腹を紛らわしながら休憩していると坑道内に聞き覚えのある声が鳴り響く。
「テール!お昼もって来たよー!」
飯を求めて坑道からゾンビの様に這い出ていった。
が、その時タイミングを狙ったようにおやっさんがきた・・・
「おう、うまそうだなー分けてくれー」
ハイエナオヤジめ、俺の食事を減らしに来やがった。そんなことを思いながら三人で食事をした。
空腹にいきなり物を詰め込みすぎたせいか吐き気を催していた。
食事が終わるとレアが足早に帰り支度をしていた。
「もう帰るのか?」
「これからおばさんに小麦を分けてもらいに行くの!テールはお仕事頑張ってね!」
「おう、任せとけ!」
コトコトと小走りでレアは駆けていった。
小休止を挟み胃の具合が落ち着き始めたころに甲高い金属音がまた響き渡る。
「野郎ども、仕事の時間だ!」
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二時間程掘り続けていた。
何も出ない。石炭の欠片すら出なかった。
この坑道は数年前に掘削を開始した坑道だった。かなり深くまで掘り進めてあり昇り降りも一苦労するほどまでに深くなっている。
最近は石炭の排出量も減ってきており、今朝におやっさんがそろそろ終わりが近いと呟いていた。
そんな事を思い出しながらひたすらにツルハシを振っていた。すると一筋の輝きが瞳に写り込んだ。
「金か!?」
思わず声を荒げてしまう。おやっさんが言うには、金は高級なもので出ればお金がたくさん貰えるらしい。
ボーナスが出ると思うとツルハシをを握る力もより一層強くなった。
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結果から言うとガラス玉だった。
大きさは大人の握り拳ほどだった。
怒りに身を任せてツルハシで砕こうとしたが、ガラスとは思えない程に硬く逆に手に降り注いだ力が全て帰ってきた。
二時間以上ツルハシを振り続けた腕の疲労に予想外の衝撃が合わさり俺は悶絶していた。
そのまま埋めてやろうとも思ったが、人の腕を破壊するほど硬いガラスだ。少しくらいは価値があるだろうと思い、おやっさんの所に持っていこうと決意する。
おやっさんがいた。
下層の岩盤付近の堅牢な岩を砂岩のように砕いていた。相変わらずのバケモンだ・・・
おやっさんはこちらの存在に気づくと作業の手を止めてこっちに寄ってきた。
「おう、テールどうしたんだ?サボりか?」
「ちげーよ!何か変なもんが出てきたんだよ」
そう言って俺は異様硬いガラス玉を手にとって見せた。それを見たおやっさんの顔色が変わった。
「テール、どこら辺を掘ってたんだ?」
「堀場を広げる為に下に掘ってた。」
「なるほどな」
おやっさんは難しい顔になり深く考え込んでいた。
「今まで、この深度まで掘らなかったからでなかったのか・・・」
少し頭を擦るとハッとした顔になり俺の頭を撫でてきた。
「これはダイヤモンドってな、金よりも価値があるんだよ。久々に毛が逆立っちまたぜ。」
「無いのに?」
おやっさんが頭を鷲掴みした。
「があああ!痛い!痛い!痛い!」
「褒めてやろうかと思ったがな〜」
メキメキと指が頭に食い込んでいた。
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なんやかんやで仕事が終わった。
ボーナスが出る事が決まった。
ボーナスの使いみちをおやっさんと話しながら坑道を出ようとしていると、出口付近で突然おやっさんが顔色を変えた。
「道具箱忘れちまった。」
俺は嫌な予感がした。
おやっさんがこういった。
「テール、取りに行って「お断りします。」
反射的に断った。するとおやっさんがおもむろに口を開く。
「ボーナス、弾むぜ?」
「いってきます!」
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再度、坑道の奥に戻ってきた。周りを見渡すと、赤く派手な道具箱がポツンと置いてあった。
道具箱を持ち上げようとした、
「重!」
小言がポロリと漏れてしまう。
8kg近い重さが腕にのしかかった。
これを持って坑道を登るのかと思うとため息が出てしまう。
その時だった。爆音が鳴り響き、坑道が縦横に大きく揺れてパラパラと土辺が落ちてきた。
命の危険を感じ出口に向かって走った。
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