第304話 面倒
翌朝。
目を覚ましたレイは、自身に纏わりついている二人の女に頭を悩ませる。一人はリディーナだ。昨夜、一緒にベッドに入ったことは覚えている。しかし、もう一方の金髪の女に覚えは無い。無論、それがラーク王ということは分かっている。分からないのは何故、隣で寝ているかということと、リディーナがそれに気づいていないわけがなく、これを容認している事実だ。
ガチャッ
タッタッタッタ……
ドンッ
「小僧っ! こんな朝っぱらから呼びつけて一体何の――」
勢いよく扉を開けて入ってきたテスラー宰相は、目の前の光景に言葉を失う。口をパクパクさせて指差す先には、レイがリディーナとラーク王に挟まれ、裸で抱き合う姿があった。シーツで各所が隠れているが、三人が何も着ていないのは明らかに見て取れた。
「き、き、き、貴様ぁぁあああ!」
テスラーの叫びが周囲に響き渡り、部屋の外から近衛騎士が飛び込んできた。
「「「ッ!」」」
寝室の様子を見るなり、男の近衛騎士達は慌ててベッドから目を逸らす。後から入ってきたナタリー副長が、無表情のまま騎士達を外へ摘み出すと、一人、寝室に戻ってきた。一瞬見せたニヤリとした表情は誰も気付いていない。
「待て、誤解だ」
「こんのクソガキャァアア! 何が誤解だぁ! ナタリー、剣を貸せ! 儂が今すぐこの破廉恥小僧を叩き斬ってくれるぅ!」
顔を真っ赤にして怒り狂うテスラー。ナタリーに剣を要求するも、ナタリーは無言のまま、テスラーを無視する。
「おい、ナタリー! 何をしておる、早く剣をよこ……」
「んーーー」
「う……ん」
リディーナとラーク王が目を覚まし、テスラーに気付く。
「ちょっ、何してんのよっ!」
「テスラーッ! ここで何をしているっ!」
「こっちが聞きたいですぞぉ! 陛下! 一体何をしておられるのか! このような小僧と、ど、ど、ど、同衾したばかりか、こ、こ、こ、婚前交渉などっ!」
「おい、ジイさん落ち着け。勘違いするな」
「誰がジジイだ、無礼者! 儂を呼びつけてこのような行為を見せつけるとはなんたることか! 貴様、我が国と王を侮辱しておるのか? 何が『女神の使徒』だ! 悪魔の使いの間違いじゃないのか? ガキのクセして陛下を誑かしおって!」
「呼びつけた? 誰も呼んでないぞ。朝起きたら隣にこの女がいて、お前がいきなり入ってきた。文句を言いたいのは俺の方だ」
「文句だとぉ? ……きさっ」
テスラーは急に白目を剥いて、その場にパタリと倒れた。
「「「あっ」」」
…
レイは、ソファに寝かせたテスラーの頭部を
「どういうことか説明してもらおうか?」
「こ、この女がレイの顔を見たいって言うから……」
「今日、この国を出発されると聞いたので最後に一晩、ご一緒したく……」
尻すぼみになっていく二人の言葉にレイはため息をつく。
「ラーク王、はっきり言っておく。俺は複数の女を侍らす趣味は無い。既成事実を作ろうとしても無駄だ諦めろ。それに、リディーナ、俺はお前以外を抱く気は無い。余計なことはするな」
「……うん。ごめんなさい」
「どうか、私のことはローレンとお呼び下さい」
「お前、俺の話聞いてんのか?」
「……」
ラーク王は頬を赤らめながらレイをただ見つめている。
(あ、こいつヤバイ奴だ)
「もういい……。そこのジイさん連れてさっさと出てけ」
これ以上の会話に嫌な予感がしたレイは、一人寝室を後にした。
「レイ、どこ行くの?」
「顔を洗って来る」
…
「はぁ…… 面倒臭ぇ」
レイは洗面所の鏡の前でため息を付き、濡れた顔を厚手の布で拭う。身長約百二十センチ、体重三十キロほどの身体は五~六歳児のそれであり、精通年齢にも達していない。性的興奮を感じない肉体と、前世でそれなりに経験のある四十過ぎの中年は、こういった状況に辟易していた。
「昔から女が絡むと碌なことがない……」
裏社会で生きてきたレイにとって、女との関係はトラブルの元だ。一般人であれば、性欲の赴くままに行動しても命を狙われることは稀だがレイは一般人ではない。女を使って命を狙って来ることは勿論、懇意にした女を人質に取られることもあるのだ。そう言う意味ではリディーナの存在は特別であった。
(リディーナめ、あとできっちり話しておかないとな。まったく、普段は他の女に嫉妬するような素振りをみせてるのに、一体どういうつもりなんだ?)
さっさとこの国を出ようと決め、レイは洗面所を後にする。
…
一方、寝室ではラーク王がベッドから起き上がり、ナタリーから厚手のローブを着させられていた。
「リディーナ殿、私は一旦失礼する。昨夜の計らいに感謝する」
ラーク王はリディーナに感謝の意を伝えると、そそくさと退出していく。ソファに寝かされていたテスラーは、他の近衛騎士に抱えられ、同時に連れ去られた。
「私、ひょっとしてやらかしたかしら……?」
…
……
………
「リディーナ様、どうかなされましたか?」
「な、なんでもないわ、イヴ。気にしないで」
王都上空を飛翔魔法で飛んでいるリディーナに、イヴが心配そうに話しかける。お互いの背にはアンジェリカをクレアを背負い、前を行くレイの背中にはゴルブがいた。ラルフは朝挨拶を済ませて、魔導列車でマネーベルへ出発している。
朝食を素早く済ませたレイ達は、魔導船の物資を回収、または破壊し、そのまま神聖国へ向かうつもりだった。ゴルブを連れて来たのは魔法の鞄にある魔物の素材を預ける為と、回収した物資の検分を手伝わせる為だった。
「何度も言うが、船内のブツは俺が回収か破壊の判断をする。口出しするなよ?」
「分かっとる」
…
……
………
「陛下、昨夜は如何でしたか?」
「フフッ、ナタリー。素晴らしい夜だった。まだ胸の高まりが治まらん。ひょっとしたら孕んだかもしれんぞ? しかしながら、もうレイ様が出発されてしまったのは残念だ。またいつお会いできるか分からんのに……」
「は、孕む? 陛下、冗談はさておき、レイ殿は冒険者ギルドの冒険者で在られます。手紙をお送りするのもいいかもしれません」
「なるほど、手紙か。良い案だ。しかし、神聖国にギルドは無かったはずだが?」
「付近の支部全てに送れば、何れレイ殿に届くかと」
「ではそうしよう。その間にはやく国内を治めてレイ様を迎えられるようにせねばな。昨夜の同衾で子が出来ていれば私にも時間が無い。急がねばなるまい」
(え? 本気で身籠ったかもと思ってるのか? いくら何でもそんな訳ないだろう。第一、あの幼い体で行為は無理だし、レイ殿もそのような態度では無かった。……陛下の教育係は一体何を教えていたのだ?)
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