第294話 出向
ラーク王国王都フィリスには『王党派』各貴族の領地から援軍が続々と到着し、滅多に表舞台に出て来なかったラーク王が直接指揮を執ったことで、首謀者と指揮官を失った反乱軍は、抵抗らしい抵抗を見せることも無く、投降していった。
反乱の首謀者であるウォルト・クライス侯爵の企みは、アマンダの屋敷にあった証拠と、クライドの告白、クライス家への家宅捜索により詳細が明らかになった。それに伴い、不正を行っていた『貴族派』も捕縛され、『王党派』貴族諸侯の兵により、王都の治安部隊の刷新が行われた。
ウォルトの計画は、自領の金の採掘場で古代の遺物『魔導船』が発見されたことがはじまりだった。『魔導船』を調査した結果、大規模な古代兵器であると判明し、金の採掘とその運用方法で『王党派』と対立していた『貴族派』筆頭のウォルトは、王位の簒奪という強硬策に出た。違法採掘で得た資金を投入し、本来は数年がかりの計画ではあったが、冒険者ギルドのギルドマスターであるクライドと、『勇者』であり、A等級冒険者でもあった城直樹、藤崎亜衣が加わったことで計画が早まった。冒険者を催眠によって奴隷化し、違法採掘の秘匿化と人材確保が容易になったことで金の違法採掘が進み、潤沢になった資金を『王党派』貴族の切り崩しや懐柔、違法娼館や違法奴隷にも手を出し、それを利用して役人や衛兵、対立貴族の子弟などを篭絡していたのだ。
個人は別として、政治には介入しない冒険者ギルドが謀反に全面協力をしたことで、クライドの正体を含めて、ラーク王国は冒険者ギルド本部に責任の一端を追及した。
「……と、いう訳だから、マリガンには事後処理と支部の再建をお願いしたい」
「は?」
現在、『魔導船』の墜落から十日が経っていた。ジルトロ共和国の冒険者ギルド、マネーベル支部の通信室にて本部のグランドマスターであるトリスタンと、支部のギルドマスター、マリガンがラーク王国で起こった事件について話している。
「フィリス支部に一番近いのはマネーベルだし、人材も揃ってるじゃない? 何て言ったっけ、あーそうそう、ドミンゴ君だっけ? ギルマスとして適性ありとか報告書に上げてたじゃない? 他にも有望そうなベテランが多いようだし。まあ、急には無理だと思うから落ち着くまでマリガンが面倒見てやって、落ち着いたら任せればいいからさ」
「そう言う問題じゃ……。と言うか、なんでウチからなんですかっ! 本部から出して下さいよ!」
「いやー、本来ならそうしたいんだけど、クライドが本部の幹部にまで賄賂をばら撒いてたらしくてね。その調査と処分でこっちは大変なんだよ。ほら、イヴ君の件でスヴェン・ハルフォードが護衛に付いただろ? あれもハルフォード家を潰そうとした貴族がクライドを通じて手を回してたらしいんだ。スヴェンの等級を不正に上げてたことも判明してる。身の丈に合わない危険な依頼を受けさせて、合法的に亡き者にしたかったらしいが、おかげで高等級冒険者の調査もしなきゃならなくなった。人手がいくらあっても足りないよ」
「いやでも、ウチも余裕がある訳じゃ……」
「高等級冒険者に新人を付けて教育するって、予算の申請してたでしょ? いやー、案としては以前からあったんだけど、現実的に出来るのかって問題があったんだ。高等級の冒険者は偏屈が多いからね。それを実際に複数のパーティーで運用できるなんて本部も感心してたんだよ。申請どおりに経費として計上を許可してるし、そんな余裕があるのはマネーベル支部だけなんだよね〜」
「うっ!」
「それに、今回の事件に関しては、全面的に
「グランドマスター……」
「ただ、奴隷化された冒険者達が、各地で問題を起こしてる。違法採掘の現場で金塊を持ち出して逃亡してる者や、採掘場を占拠して立て籠ってる者、野盗化して近隣の村を襲ってる者までいるそうだ。まあ、ギルドや現地の領主側を信用できない状態だろうから無理も無いんだけど、それの対処も合わせて宜しくね」
「へ?」
「ラーク王国からの了承をもらってるから、キミの裁量で好きにやってくれて構わない。本部からも応援の人員は派遣するし、資金も気にしなくていい。ラーク王国との信頼回復を第一に考えてやってくれればいい。頑張ってね!」
「あの、私もこっちで色々案件を抱えて……」
「あ、そろそろ時間だ。詳しいことはそっちに人をやるから、後は任せたよ!」
「ちょっ…………切りやがった」
マリガンは口を半開きにして虚空を見つめる。目は虚ろで何やらブツブツ呟いていた。
「フィリス支部の立て直し? 冒険者が暴走してる? 嘘だろ? 何で私が……」
「ふざけんなぁぁぁあああああ!」
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