第261話 疑問

 騎士達を全員始末したレイが、呆然としていたメサの元に向かう。


 「クライス侯爵が証拠隠滅の為に正規軍を動かしたってことは、違法採掘の現場で冒険者達が暴れたのを知ったからかはともかく、謀反の計画を最終段階に進めたってことだ。お前が騎士達の行動に驚いてるってことは、他の人間もそう思うだろう。ここが謀反に必要な場所とも思えないから、国の重要箇所にはもっと大人数の騎士を動かしてるだろうな」


 「は、早く王宮に戻らないと……」


 「戻ってどうする? 王様に報告するのか? 恐らく無駄だぞ」


 「くっ!」


 メサはレイを一瞬睨むも、内心そのとおりだとも思っていた。ウォルト・クライス侯爵は、猪突猛進で短慮な貴族ではない。指揮権の無いクライス卿が騎士を動かしたのだ。既に要所は抑えた上での行動のはずだ。今更伝えに行っても既に知っている可能性が高かった。それに、王を守る騎士がどれくらい残っているかも分からず、敵味方不明の騎士達の中、王の元まで辿り着けるかも分からなかった。


 レイが斬り捨てた騎士の記章を見て、メサはここを襲撃した騎士達が、第二騎士団であると判断する。ラーク王国には第一から第三まで、三つの騎士団から構成され、その三軍とは別に王宮を守護する近衛騎士団が存在するが、部隊単位での反乱なのか、軍団単位なのかの予測も、所属の違うメサには出来なかった。近衛騎士にまでクライス卿の手が伸びていたら終わりだ。


 今の自分が取れる最善の行動を模索しているメサに、レイが提案する。


 「ウォルト・クライス侯爵を捕えるなら協力してやるぞ?」


 「え?」


 レイにとって、この国がどうなろうと興味は無かった。『貴族派』と『王党派』、どちらが正しい、正しくないと判断するのもナンセンスだ。それはこの国の人間が判断することであって、自分達のような外国人がすることではないからだ。


 レイがメサに協力を提案したのは、ウォルト・クライス侯爵、もしくはフィリス支部のクライドに確かめたいことがあったからだ。それは、この国の冒険者ギルド、フィリス支部が政争に加わる理由だ。冒険者ギルドは「中立」の組織だ。冒険者個人が、政治に参加することへの制約は無いが、組織としては明確に国内の政治に介入しない姿勢を貫いている。城直樹が冒険者としてクライス侯爵に加担するのは問題ないが、支部が違法行為をしてまでクーデターに関与する理由が分からなかった。


 ウォルト・クライス侯爵にも疑問がある。冒険者ギルドの一支部を味方につけても、冒険者ギルドを欺くようなやり方を支部にさせれば、謀反を成功させても冒険者ギルドを敵に回す。それを考えてない馬鹿ならともかく、そうなっても構わない理由がなければ支部が協力するはずがない。金の相場を支配するだけでは理由としては弱い。経済的優位を保てるのは物理的に守れる武力があってこそだ。S等級を暗殺するからには、今後もS等級を差し向けられても構わない理由があるということだ。


 城直樹が切り札ではない。アマンダの資料を見る限り、金の違法採掘は『勇者』が召喚される前から行われている。城の存在は、その行為を効率化して後押ししたに過ぎない。『勇者』以外の何かがなければ謀反まではともかく、冒険者ギルドを利用するのはリスクが高過ぎると思われた。


 冒険者ギルド、「S等級」が問題にならないがあるとしたら、『勇者』並みに脅威だ。城直樹と藤崎亜衣は始末したが、レイが二人の始末を後回しにしていたらその何かと手を組んでたかもしれない。このまま放置しておけば、他の『勇者』がそれを手にする可能性がある以上、レイにはその何かを確かめる必要があった。


 (まあ、只の思い過ごしで、侯爵が抜けてるだけかもしれんが、マネーベルでの悪魔の件もある、考えたくないが、アレが侯爵の切り札だった場合、放置は危険だ)


 

 「で、どうする?」


 「望みはなんだ?」


 「望み?」


 「貴様は一体何者なんだ? この国の人間ではないんだろう? 凄まじい戦闘力は認める。だが、何の見返りも無く子供を保護し、大貴族の捕縛に協力など……きんが目当てか?」


 「金か、別に興味はないな。子供達も偶々だ。俺のことは……あの男にでも聞け」


 レイは、倉庫の窓からこっちを見ているラルフを差す。

 

 「二、三時間後にまた来る。協力して欲しければここに残ってればいいし、不要ならどこにでも行けばいい。それと、倉庫にある侯爵の不正の証拠も好きにしていい。この国がどうなろうと俺には関係ないからな」


 「……」


 レイはそう言うと、その場から飛んで行ってしまった。



 「飛ん……だ?」


 …

 ……

 ………


 レイは、王都上空から街を見る。街の中央にある王城らしき建物の周囲には騎士が集まっており、王宮の城門前で、他の騎士達と睨み合ってるようだ。


 (あの様子じゃ、王宮ははまだ陥落してないようだな。近衛騎士までは腐ってなかったってことか。あのメサって女といい、まともな王様ってことか。まあ、どうでもいいがな)


 レイは、冒険者ギルドのフィリス支部の前に降り立ち、そのまま支部の扉を開けて中に入った。フードは被ったままだが、光学迷彩は施してはいない。レイは「S等級」冒険者として、ここのギルドマスターに会いに来た。


 

 ギルドの大ホールに入ると、広さの割に冒険者の数は少なく閑散としていた。レイは、迷わずカウンターに向かい、受付に自分の金と黒の冒険者証を提示する。


 「いっ!」


 受付嬢がレイの冒険者証を見て顔が引き攣った。恐らくゴルブで見慣れていたのだろう。一目で「S等級」と分かった受付嬢は、引き攣った顔のまま、レイに恐る恐る尋ねる。


 「あ、あの……今日はどのようなご用件でしょうか?」


 「ギルドマスターのクライドに会いに来た。どこにいる?」


 「え? あ、あの、お約束は……」


 「まあいい、勝手に探す」


 「あっ、ちょっと、困ります!」



 レイは受付嬢を無視して二階へ向かい、ギルドマスターの執務室に向かう。マネーベルの支部より大分大きな建物だが、構造はそれほど変わらないし、部屋のドアにはご丁寧に立派なプレートがある。ギルマスの部屋のドアをノックもせずに乱暴に開ける。


 「ちっ、留守か」


 誰もいない執務室だったが、妙に小ざっぱりとしている。執務机の引き出しや、戸棚を漁るも、特に怪しい物は無い。


 「おいっ!」


 執務室に四人の冒険者が入ってきた。いずれもレイより体格が良く、首には銀の冒険者証が光っている。受付からレイの冒険者等級を聞いていないのか、ニヤニヤしてレイを見下すようにして拳を鳴らす。


 「白昼堂々、盗みとは随分舐めてくれんじゃねーか、ここがどこだか分かってんのか?」


 「ちょうどいい、お前らにギルマスのことを聞くか」


 「あー?」

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