第65話 サイコ
女という生き物は、どの世界でも金や物欲で人が変わるみたいだ。いや、それは男も同じか……。
とは言え、俺も使える物はなんでも使う主義だ。
無力化したスヴェンとロイの持ち物の中に『
同じように野盗の所持品を回収するのが冒険者としては当たり前の行為なので、何ら咎められることではなかったりする。
「じゃあ、はじめるか」
スヴェンとロイに回復魔法を掛けたり、水を生み出して浴びせたりして意識を覚醒させる。アンモニアでもあれば使いたかったが、そんなものは無い。流石に小便をして魔法で抽出するなど、不可能ではないがそんなことする気は起きない。
「「ブハッ ゲホッ ゲホッ」」
二人が水で咽て起きたので、早速尋問、いや脅迫に移る。
「目が覚めたか? お前達はもう声は出せないし、手も動かせない。俺の言う通りにすれば治してやる。理解出来たら頷け」
二人とも目を見開き、何やらしゃべろうとしているが、声になっていない。縛られた手も思うように動かせないと分かり、困惑していた。
「この鞄を開けて中身を全部出せ」
怒りの表情を見せるスヴェン。誰がやるかと言わんばかりだ。そのスヴェンの膝を踏み抜き、骨ごと関節を破壊する。
「ン゛ーーーー」
唸るような空気を漏らして、スヴェンが悶絶する。続けてもう片方の膝も同じように踏み抜く。こういう時は、映画のように一本づつとか時間を掛けずに、一気に躊躇無くやるのがコツだ。こちらが相手のことを何とも思ってないことを示すことで、心を一気に折ることができる。時間を掛けると相手も覚悟を決めたり、我慢のタイミングを掴んだりして逆に長引く。
スヴェンはまたも失禁して意識を失った。
「次はお前だ。鞄を開け」
スヴェンを見て、青褪めたロイがコクコクと頷く。だらんとした手で自分の鞄に魔力を通し、中身をぶちまける。
「「「ッ!」」」
出てきたのは様々な魔導書らしき大量の本と金貨、魔石類、杖やローブなどの装備品だ。そして、俺達三人を絶句させたのは、ホルマリン漬けのような容器に入れられた様々な臓器や赤子らしき人体だ。それに魔法陣らしき文様で封印された遺体が十体以上出てきた。これには俺もドン引きだ。リディーナとイヴも口を押えて絶句している。
回復魔法で声帯を回復させて事情を聴く。流石に聞いておかなくてはならないだろう。
「もう声は出せるはずだ。魔法の詠唱をすれば即座に首を刎ねる。これらは何だ?」
「……じ、じっげん、ゴホン、う、ん……実験体だ。希少な素養を持つ者を研究してた……ました」
俺達の雰囲気を察したのか、言葉を改めるロイ。
「実験? 研究だと? 」
「せ、先天的に特異な能力を持つ者を研究して……ました」
「『魔眼』のような特殊な能力の事か?」
「そ、それ以外にも種族別の特殊個体や、忌み子として忌諱された特異な者を調べてその力を得られないかと研究していた」
ロイはチラリとイヴを見る。
「『魔眼』はその中でも貴重だ。その能力は多岐に渡る。それぞれが強力な力を持ってるが、例外なく不幸な運命も背負っている。国によってはその血筋は保護され、受け継がれてる一族もいるが、大概は忌み嫌われ、生まれたと同時に排除される。その女は殺されなかっただけ運が良かったな。まあ『鑑定』なんて軟弱な能力だから見逃されたんだろう。俺に任せれば、もっと強力な『眼』に交換してやれるぞ? くっくっくっ、魔眼同士の交換ならできないこともない」
「イヴ、こいつ燃やしていいぞ。もういい」
「喜んで」
「あ?」
イヴがロイを見つめ、あっと言う間にロイを炎に包んで炭化させる。
「久しぶりに胸糞悪いヤツを見たな」
「同感ね。この遺体達もこのままにしたくないわね」
「それは俺がやろう。イヴは魔力がもう少ないだろうしな」
「まだやれます」
「いいから任せておけ。いかなる時も余力は残しておくんだ」
俺は魔法で炎を生み出し、ロイが実験体と称した者達、遺体や臓器をまとめて荼毘に付す。魔力を込め、骨も残らず灰にした。残りの本や装備は俺が魔力で新たに開いたこいつの鞄に仕舞う。魔力を通しただけで、鞄が拡張して物が仕舞えるのが理解できた。物凄く便利だ。
「次はコイツか。コイツの荷物にサイコな物は入ってないだろうな? 」
「「さいこ?」」
「何でもない」
俺は、極微の電流を流してスヴェンを覚醒させる。水責めでも良かったが、違う方法も試してみる。
「ア゛ッ」
「起きたか。ロイって男は拒否したからああなった。お前はどうする?」
「ッ!」
隣の炭化したロイの遺体を見て、スヴェンはとたんに顔を青褪める。ようやく立場を理解したらしい。慌てて鞄に魔力を通してロイと同じように中身をぶちまけた。
(こんな小さな鞄から大量な物が飛び出てくるのは中々ファンタジーな光景だな)
出てきた中身は、いかにも貴族的な物ばかりだった。煌びやかな金銀財宝といった物で、金貨などの金は勿論、高価な貴金属や宝石、
「ちょっと、これ、
リディーナが手にした結晶の塊は、S等級の冒険者証と同じ黒色に七色の光沢が輝く『魔金剛』だった。
「これだけの結晶なら剣が数本は作れそうですね……」
イヴも興味深く結晶を凝視する。やはり珍しい物なのだろう。
「ん? これはなんだ?」
様々な荷物の中に、街では見かけなかったいくつかの魔導具らしき物があった。
「何かしら、見たことないわね」
「ちょっと『鑑定』してみます」
(イヴ、なんて便利なんだ……)
「『魔封じの魔導具』、『結界の魔導具』、『防音の魔導具』……それと……『UNKNOWN』……最後の道具は鑑定できません……」
「「なっ!」」
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