異国の奴隷が槍を持っているのはなかなか威圧感があります。

「海港都市にたどり着きましたよ」




「おお、本当ですか!?」




「嘘をついてどうするんですか。本当ですってば」




 ドッペルレリアが〈テレポート〉で戻ってきました。


 私はドッペルレリアに〈ディメンション・ゲート〉を開かせて、ホルトルーデに留守番を頼んで海港都市に向かいます。




 〈ディメンション・ゲート〉は〈テレポート〉を独自に発展進化させた魔法で、二地点間を繋げた上で空間に穴を開け、行き来できるようにしたものです。


 〈テレポート〉と違う点としては、他人を連れて行くことができるというところが大きいですね。




 宿の部屋の窓からは潮風が吹き付けてきます。


 長居するとベタベタしそうですね。




「ところで仮面の調子はどうですか?」




「擬態の形質が上手く働いていますね。これ付けていてもおかしな目で見られることはほとんどなくなりましたよ」




「それは良かった」




 帰ったら他のドッペルゲンガーの仮面にも擬態の形質を付与することにしましょうか。




「それで? なんでわざわざ本体が海港都市に?」




「海の幸が食べたくなりました」




「……どうせそんなことだろうと思いましたよ」




 ため息をつくドッペルレリア。


 約一月もの旅程のかかる海港都市まで瞬時に移動できる時空魔法に感謝ですね。




 どうせならいつでも行き来できるように拠点を設置しておくのもいいかもしれません。


 その場合は、ドッペルゲンガーをひとり常住させておくのがいいでしょう。




 そんなことを考えながら海港都市を歩きます。


 やがて活気ある市場にたどり着きました。


 船着き場から近くにあるため、新鮮な海の幸が大量に積み上がっていますよ。




「王都では干物くらいしか食べられなかったので、鮮魚は久々ですね」




「迷宮都市なら魚の魔物の肉が食べられるじゃないですか」




「アレは魔物肉ですから、海産物とはまた違うのですよ」




 ドッペルレリアに反論しながら、市場を見て回ります。


 切り身になった魚が調理しやすそうですね。


 まとめて購入していきます。


 隣でドッペルレリアが呆れたような態度でため息を何度もつきました。




「それじゃあ不動産屋に――おや? あれは海賊か何かでしょうか」




 檻に人間が入れられています。


 しかし捕らえられた海賊にしては身ぎれいですし、何より子供もいたりします。


 皆、大人しくしているのも違和感がありますね。




「あれは奴隷ですよ。他の大陸から略奪してきた人間を檻に入れて売っているんです」




 ドッペルレリアが教えてくれました。


 なるほどね、そういえば実家でも奴隷を使っていましたっけ。


 ふむ、奴隷か……。




「ここに拠点を設置しようかと思っていましたが、管理を奴隷に任せるのも悪くないかもしれませんね」




「そうですね。今なら選び放題ですから、奴隷を購入するなら早めにした方がいいですよ」




「そうしましょう」




 私は奴隷商人の元へ向かい、大人の女性をひとり購入しました。


 以前は戦士の階級にいた女性ですので、自衛能力があるのがウリだそうです。


 海港都市の拠点を任せるのにちょうどいい人材ですね。




「名前は?」




「……ミアと申します、ご主人さま」




「ではミア、日用品を購入しに行きましょう」




 奴隷には首輪が嵌っているので、ひと目で奴隷だと分かります。


 これは奴隷の身分であることを表すもので、常に見えるようにしておくことが義務付けられています。




 ミアの武器と着替えなどを購入した後で、不動産屋に向かいます。


 賃貸契約では支払いが面倒なので、ここは思い切って家をひとつ購入することにしましょう。


 ただし街の外れ辺りにある一軒家で、生活するにはやや不便なところです。


 その分、お安いのですけどね。




「ではミア、この家の維持管理を任せます」




「……かしこまりました」




 さて家を購入したら、家具も必要になりますね。


 ミアともうひとりくらいが生活できるだけの家具を購入しに行きます。


 私やドッペルレリアが泊まることもありますからね。




 ミアにはさっそく購入した槍を持たせて、私たちの護衛をさせました。


 異国の奴隷が槍を持っているのはなかなか威圧感があります。


 拠点に常駐させるにはうってつけですね。




 一通りの家具を注文して、家に運び込ませます。


 やや質素かな、と思えますが、奴隷であるミアが生活するだけなので問題ないでしょう。




「さてミア。これから見せるものは他言無用です。よくよく注意なさい」




「……?」




「〈ディメンション・ゲート〉」




 迷宮都市の工房に繋げます。


 時空魔法を目の当たりにしたミアは目を丸くして驚いています。




「……これはまさか、時空魔法、ですか?」




「そうです。私たちが時空魔法を始めとする古代の遺失魔法を使えることを他人に伝えることを禁じます。〈ギアス〉」




「……!?」




 ミアは奴隷であり基本的に主人の命令に従うように教育はされていますが、絶対ではありません。


 別の大陸から無理やり連れてこられた奴隷は、主人に反逆して逃亡を目論むこともしばしばあります。


 奴隷の管理方法には色々ありますが、私がするのならば闇属性魔法の〈ギアス〉で禁止事項を付与していくやり方がベストでしょうね。




「私とドッペルレリアへ危害を加えることを禁じます。〈ギアス〉」




「……っ」




「いいですかミア。〈ギアス〉に逆らうと激痛とともに身体が硬直します。決して逆らわぬように気をつけなさい」




「は、はい。ご主人さま」




「では後のことはドッペルレリアに任せます。今日はもう遅いので、海竜リヴァイアサンのもとへ行くのは明日以降でいいでしょう」




 ドッペルレリアは嫌そうな声で「やっぱりリヴァイアサンの元へ行かせるんですね……」と呟きました。


 当然です。


 ここまで来て無限水環を入手しない手はありません。




 私は開きっぱなしの〈ディメンション・ゲート〉を通って、迷宮都市の工房に戻りました。

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