かき混ぜ過ぎで腕がパンパンですよ、もう。

「これは……破ればいいのか?」




「はい、紙を破れば中身は普通のパンです」




 アルベリクさんたちのパーティが工房にやって来て、保存食の試食会をしているところです。


 ビリビリと紙を破いたアルベリクさんは、中のパンを食べて眉をひそめます。




「本当に普通のパンだな。これで何日も保つのか?」




「紙が特別なのですよ。湿気のある所に放置しておいてもカビも生えなかったので問題ないと思います」




「ふん、なるほどな。この紙が特別なのか……」




 破いた紙をヒラヒラと振ってみるアルベリクさん。


 仲間の皆さんも紙を破いてパンを食べています。


 どうやらお気に召したようですね。




 さてもうひとつのカロリーバーの方も出しましょう。


 こちらはいわゆるショートブレッドなので、無発酵です。


 油紙に包まれたカロリーバーを出します。




「これは普通のビスケットか?」




「栄養を練り込んであります。あと、硬パンより柔らかいので食べやすいはずです」




「ふん。なるほどな」




 アルベリクさんはカロリーバーをかじり、咀嚼します。


 仲間の皆さんにも配ってありますから、各自で食べてもらっていますよ。




「……どちらも美味いし、保存も効くのだな。よし、これらを購入しよう。俺様を慕う後輩冒険者たちにも宣伝してやる」




「ありがとうございます」




 ふう、なんとか満足していただけたようですね?


 一週間分の保存食をお買い上げいただきました。


 ていうか、在庫が一気に吹き飛びましたね。


 これは量産体制を整えなければ、宣伝してもらっても在庫がない状況に陥りそうです。




 アルベリクさんの影響力がどの程度かは分かりませんが、美味しい保存食を求めている冒険者は少なくないと見積もっています。


 ちょっと気合を入れて量産しましょうかね。




 * * *




 〈複製〉を駆使して保存食を大量に生産しました。


 かき混ぜ過ぎで腕がパンパンですよ、もう。




 ただアルベリクさんの影響力はなかなかのものだったらしく、翌日から多くの冒険者が保存食を購入しにやって来たので、量産の甲斐はありましたけど。




 しかしそろそろ手が回らなくなってきましたね。


 お菓子に保存食を量産するのに手一杯です。


 特に保存食はまとめて一週間分を購入していく人が多いため、量産が必須。


 助手と新しい錬金釜を調達しなければ……。




 幸い、心当たりはあります。


 錬金釜は購入すれば良いです。


 助手はホムンクルスを作成しましょう。




 生命の創造は錬金術の奥義のひとつでもあります。


 軽々に使うようなものではないのですが、四の五の言ってられる状況でもありませんしね。


 私ひとりで工房が回らないのは火を見るより明らかですので、ここで助手ホムンクルスを作成するのは必要なことです。




 ただまあ、ホムンクルスを作成できる錬金術師なんてこの世に何人いるか分かりません。


 秘密裏に作成することが必須です。


 私の持つ技術は古代語の本で得られたものが多く、一般的ではないので、公にできませんからね。




 さてそういうわけで、素材を集めてホムンクルスを作成しましょう。




 人間と同じ構成要素をもつホムンクルスを作成するためには、様々な素材が必要になります。


 水、炭素、アンモニア、石灰、リン、塩分、硝石、硫黄、フッ素、鉄、ケイ素……などなど。


 後はパーソナルデータのために私の血液を少量、混ぜます。


 市場で幸い、素材は集まったので後は錬成するだけですね。


 〈加速の魔法陣〉も使って、一日で仕上げるとしましょうか。

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