最終話 ゴミの王と真の魔王です

 『ドールマスター』との攻防も数十分、遂に最初の『ドールマスター』たった一人になった。


「ま、まさか……お前が聖剣と魔剣を使えるとは……」


「ああ……お前がクラフトくんを……魔王を……本当の勇者を……謀ってくれたおかげで、僕はこうして剣を手にしてお前の前に立っている。全てはお前が成した事が自分に返ってきただけなんだよ」


「…………人間風情が!」


 『ドールマスター』の最後の攻撃が始まった。


 黒炎を扱えるのはこの『ドールマスター』だけのようで、聖剣と魔剣を持ってしても簡単には通してくれなかった。


 その時。


 『ドールマスター』の左腕が飛んできた。


 咄嗟に魔剣で防いだが、飛んできた腕により丸ごと弾き飛ばされた。


「ッ!? 魔剣が!」


「クックックッ、これでお前に魔剣はない。こうなれば問題ないのだ」


 『ドールマスター』が突撃してきた。


 何合か聖剣の剣戟と『ドールマスター』の黒炎も纏った右腕がぶつかり合う。


 僕は隙を見て『ドールマスター』の腹部に聖剣を刺し込んだ。


「『ドールマスター』! これで終わりだ!」


「クックックッ、残念ながらそれでは我は倒せない。残念だったな、聖剣だけじゃ我は倒せないのだ!」


 『ドールマスター』の言葉通り、消滅する気配が全くない。


 直後、『ドールマスター』は両足で僕の身体を巻き付けた。


「このままお前を絞め殺してやろう」


「くっ、なん……の…………」


 しかし、『ドールマスター』はびくりともしなかった。




 ◇




 アレクの魔剣が『ドールマスター』に吹っ飛ばされてしまった。


 私は…………このままただ見ている事しか出来ないのだろうか?


 ううん。


 そんな事は絶対にない。


 私はいつでもアレクと共に歩んできた。


 いつも助けて貰った。


 だから、アレクが困っている時には、私が助けなくちゃ。


 私は全力で魔剣に向かって走った。


 魔剣を吹き飛ばした『ドールマスター』の腕は転がっていたけど、気持ち悪かったので、魔女ノ鎖で遠くに吹き飛ばした。


 そして、魔剣を手にする。



 ……。


 …………。


 そうか……。


 魔剣ヘルハザードさんありがとう。


 私の『壁』って……こういう事だったのね。


 アレクが直ぐに超えた『壁』。


 でも私は超えられずに、ずっと焦っていたの。


 それが……。


 ようやく、超えられた。


 考えてみれば、いつもアレクの背中を追いかけて必死に走ってきた。


 最後の最後まで……アレクを追いかける為に超えられたのね。



「ヘルハザードさん。私に力を貸して! アレクを助けたいの。――――――秘儀、『純白ノ戦乙女真の魔王』」



 私の真っ黒いドレスは真っ白なドレスに変わった。


 身体の内側から溢れる力を感じる。


 アレク。


 今すぐ助けてあげるからね!


 ――――私は一目散に『ドールマスター』首を魔剣ヘルハザードで斬り落とした。




 ◇




 くっ……このままでは……。


 こんな所で死んだら、誰がアイリスを守るんだ!


 僕は何の為に強くなったんだ!


 アイリスを……皆を……守る為ではないのか!


 最後の力を振り出せ!



 ――とその時。


 サクッ。


 と音が聞こえ、『ドールマスター』の頭だけが綺麗な放物線を描いて、空に飛んでいた。


 え??


「ば、ばか……な…………」


 そして、『ドールマスター』も他の『ドールマスター』と同じく、身体ごと溶けていった。


 あまりの急展開に僕は動けずにいる。


「えっ? 一体、何が……??」


「アレク~」


「うん?」


 後ろを向くと、そこには――――。




 そうか……最後の最後まで、君に助けられたのか。


 真っ白な美しいドレスの彼女は、眩しい笑顔を僕に向けていた。











 遺跡内部に『ドールマスター』が残っていない事を確認し終えた。


 外に出ると、グレンとリラ、リルが可愛らしく待っていてくれている。


 グレンがリラとリルと寄り添っている所を見て、僕はずっと前から準備していたあるモノと取り出した。


「アイリス。こんな場所でごめん……でも今だと思うから」


「うん?」


 僕はアイリスの前に跪いた。


 そして、アイリスに小さな箱を開き見せる。




 ――――アイリスは大きな粒の涙を流しながら、嬉しそうに承諾してくれた。


 こうして、ゴミの町から始まった僕とアイリスの冒険は終わりを迎えた。

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