第10話 宮古島インシデント①
「あの、念の為と思って、中高の頃からの私の身体測定データを持ってきていますけれども」
「こちらが健診データと連動されている測定データです。中高の頃には、概ね週単位で身長、体重の推移が記録されています」
一通りわたし達の測定データを眺め終えた先輩は、わたし達を見た。中学の頃の測定結果と、今のわたしの体型とを見比べているのだろうか?
「これは参考情報にはなりそうだ・・・それで、なぜ、こんなに頻繁な測定データがあるのだと?」
二階堂先輩の質問に、わたしはさらりと答えた。
「ミカ校では、週一の
直後、視線を感じ、わたしは横を向いた。
二階堂先輩は「ミカ校、だと。」と、軽く目を見開いた。
「それは、琉球準州に設置されていた、防衛省附属・外郭自衛高等ミサイル科学校のこと、だな。なる、ほど、君たちは宮古島インシデントの
お詳しい。インシデント関係の報道でミカ校が取り上げられる際には、単に、防衛省高等ミサイル科学校と略されている。附属と外郭の別があることを知る人は少ないはず。
「はい、当時、わたしは、防衛省外郭、正しくは、統合行政法人エムデシリ付属自衛高等ミサイル科学校の中学生でした」
「そして、あの時に宮古島市に君はいなかった、ということ、だな?」
「はい、祖母の葬儀で佐賀に戻っておりまして・・・」
その刹那、ミカ校専科の仲宗根先輩がチューターとして赴任なされた日の授業風景が思い浮かぶ。
☆
「
第三講義室に響いた朗らかな声は、日直の
わたしたち全員が立ち上がり、気をつけをする。
2限のシミュレーション演習だった。実習指導の仲宗根チューターが講義室に歩を進め、壇上に直立なされた。
「
講義室の窓のブラインドが降りると、ホワイトボードにMIKAロゴがプロジェクトされた。
そして、画面上に光体が映し出される。
本日の力学演習では、画面の
切れ長の目に凛々しい顔つきの仲宗根先輩の御尊顔を、わたしはポーっと眺める。わずか数メートルの距離で拝むことができるようになった喜びを噛みしめながら・・・
☆
「あのね、お姉ちゃん」
我に返ったわたしは、
「わたし、仲宗根先輩がチューターとなられてから始めての講義の日を、今、思い出したんだけれど・・・」
脳内に、いまだ仲宗根先輩の凛々しいお顔が浮かんでいるわたしを
わたしも戸惑っている。
わたしがミカ校の中等科に入学した時、仲宗根先輩は高等科を卒業済で専科の2年生であらせられた。
ミカ校の防衛省外郭とされるミカ校中等科・高等科の学生と、防衛省附属のミカ校専科の学生。両者は、単に防衛省との関係というだけでなく、本分が異なっていた。
わたし達が通っていたミカ校中等科・高等科。学生の本分はあくまで勉学である。対して、専科の先輩方は、
同じ伊良部島にて、ミカ校の中等科・高等科の校舎と、専科の校舎とは数キロメートルを隔てていた。同様に、それぞれの寄宿舎も。規律に従い日々を過ごす中等科・高等科の学生と、専科の学生とが顔を合わせる機会は数少ない。
少なくとも、わたしがミカ校で過ごした5ヶ月ほどの間に、仲宗根先輩のお顔を直接に拝見することは敵わなかった。仲宗根先輩は、ミカ校と共に、宮古島市の皆さんと共に、インシデントの日に消え去ってしまったのだから。
「あれ、わたし、なんで宮古島のインシデントを、今更に驚いているの。チューターとして講義をなさってた仲宗根先輩は
そう、わたし達は、宮古島インシデントで宮古島市全域が消失した時に島外にいた数少ない残存者だった。二階堂先輩のご指摘通り、わたし達は宮古島インシデントの
7万人を超える人々が行方不明となった21世紀の
わたしを、母と親類の人々は「きっと、おばあちゃんがあなたを守ってくれたのよ」などと慰めてくれた。それらを聞いたわたしは、言いしれない罪の意識に囚われてしまった。
その後、中1の秋から高校を出る年齢となるまでをエムデシリの、大分の
宮古島市で起きたインシデントを受け止めてからのわたしに心の中では、宮古島市と同じく、佐賀市も
「仲宗根先輩というのがどなたかは知らないが」
と、二階堂先輩がわたし達を見ながら、口を開いた。
「親しかった人々を、
「せっかく君たちが相談に来てくれたのだ。
二階堂先輩はゆっくりと、そう促してくださった。
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