第118話

「私、男性にそんな派閥が存在していることを初めて知りましたわ。……知らないことばかりでは楓さんに対抗出来ません。」


「ええ、男性一人一人に『譲れない好み』があるそうなんです。制服だけでなくて、世の中には色々な派閥が存在しているんです。」


「……色々な派閥ですか?……例えば?」


「はい。髪型も短い方が好きな方と長い方が好きな方が、それぞれにいるらしいのです。……それに……。」


 悠花が自分の胸に手を当てていたのを見て、千和たちはドキドキしてしまいました。

 千和、渉美、沙織の三人の知識は多くありませんでしたが、彩音たちよりは庶民的な考えがあります。ここで悠花が『おっぱい派とおしり派』について語りだすのかと思い、三人は緊張してしまいました。


「……それに?」


「あっ、いえ、何でもありませんわ。……とにかく、色々な派閥が存在していることを本で読んだのです。そこから探ってみませんか?」


 千和たちは安堵のため息を漏らします。それでも、『セーラー服派かブレザー派』の検証には巻き込まれることになりました。


「そうですわね。髪型は簡単に変えることはできませんが、制服の好みを確認することは面白い試みかもしれません。」


 そう言って、彩音はみんなを見ました。

 聖ユトゥルナ女学園はブレザータイプの制服だったので、問題はセーラー服になります。外部受験をするにあたって学力の問題はありませんでしたが、意外な方向に動き始めます。


「……ですが、通うか分からない高校の制服を準備するのは大変じゃありませんか?」


「いいえ、それは私にお任せください。」


 そして、その日は授業が終わってから悠花の屋敷に集合させられることになりました。

 カタログを持っていたことと言い、段取りの早さと言い、楓のことを理由にして悠花の思惑通りに進んで行くことになります。


 千和たちの頭の中には、『悠花さんが、彩音さんのセーラー服姿を見たかっただけでは?』という疑念も湧き上がってきます。



 言われた通りに集合した悠花の屋敷ではメイドたちが準備万端待ち構えており、それぞれの採寸が実行されました。


「あのぅ、ブレザーは今の制服ではダメなんでしょうか?」


 全員分の採寸を不審に思った渉美が悠花に質問しました。


「もちろん、公平に比較するためには両方を準備いたします。楓さんの反応を見比べないと意味がありませんもの。」


「そうですわね。今の制服は楓さんも見ておりますから、ちゃんとした比較になりませんね。」


 悠花と澪が熱く反論しました。

 千和たちは、この二人が楓を理由にしていることを聞いて、楓のことが可哀想になっています。


 彩音がズレていることは指摘されていましたが、悠花と澪もズレていることを実感させられます。

 ただし、この二人の情熱は全て彩音へ向けられていました。彩音の制服姿が見られるだけのことに対して、十分な財力をもって向き合っているのです。


「きっと、いつもと違う制服姿の彩音さんを見れば、楓さんも高校へ通いたい願望が出てくるはずです。」


 何かが間違っているように感じます。

 千和、渉美、沙織の三人は他の方法も考えておかないといけないと思い、お互いの顔を見ていました。

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