第75話
「何となくですが、今回起こっていることは前世でも類似する出来事があったような気がしているんです。試験の成績と生徒会の選挙……。ですが、修学旅行は前世との関係性があるんでしょうか?」
「そう言われれば、そんな感じはありますわね。」
関連性が薄ければ安全というわけではありませんが、少しだけ三人の気は楽になりました。ただ、前世と関連していることばかりではないので、注意しておくになりました。
翌日、千和とも話すことになり、
「……やっぱり、あの方が楓さんと紅葉さんのお母さんだったんですね。すごく優しそうで綺麗な人でした。」
「ええ。それで、お兄様の会社での面接はどうなったのでしょうか?」
「兄は喜んでいました。すごく良い人が来てくれたって、言っていたので、おそらくは……。」
「そうですか。楓さんのお母様が、千和さんのお兄様のところでお勤めになるなんて不思議な感じがしますね。」
「フフッ、ですが兄は本当に喜んでいたんです。彩音様は、お父様が何かしているとお考えかもしれませんが、誰も嫌な想いをしていないのならいいじゃありませんか?」
千和は、試験や生徒会の時に理事長が画策していたこととは違っている言いたかったのかもしれません。
何より千和が嬉しそうに話していました。兄の仕事を手伝ってくれる人が増えたことを喜んでいます。正式に入社することになるまでは数日かかるらしいが、千和も歓迎していました。
そして、修学旅行も驚くほど平和に過ぎ去っていきました。
海外旅行に慣れた生徒ばかりで、普通の修学旅行とは趣が違っています。集団で行動することも少なく、ただのんびりと旅行を楽しむだけの時間。
学校行事で教育の一環とされるものとはかけ離れており、みんなで思い出を共有するような旅行ではありませんでした。
それが彩音の感想になります。
「……ハハハ、何事もなく終わったのなら良かったんじゃないのか?」
彩音の感想を聞いた楓の感想です。日曜日でしたが、浩太郎に呼ばれて来ていたようです。
せっかくの旅行が無難に終わったことが『良かった』と言われてしまうことは微妙な感じになりました。
「正直ちょっとだけ拍子抜けではありましたが、普通のことですよね?」
「あぁ、色々起こる方が普通じゃないんだ。……穏やかに過ごせるのは普通なんだよ。」
楓の話す雰囲気が、いつもと違って見えました。屋敷に来ることが慣れてきたのかもしれませんが、緊張感がありません。
「……楓さんも、今日は穏やかなんですか?柔らかい感じがします。」
「えっ?普段は、柔らかくないってこと?」
「あっ、申し訳ございません。……そういう意味では……。」
思たままに言葉を発したことを反省しましたが、楓は少し笑って聞いてくれています。本当に何か違っていました。
「俺の母親、新しい仕事が決まったんだ。」
彩音は驚きましたが、そのことについては知らないフリをして聞くことにしました。
「あまり身体が丈夫じゃないから心配してたんだけど、ちょっとホッとしてるのかもしれない。」
「……そうなんですね。新しいお仕事は、ご負担も少ないのですか?」
「たぶんね。職場の人の紹介らしいんだけど、母さんも喜んでた。俺が働けるようになるまで、あと一年近くあるから安心できたのかも。」
楓が気を張っていたことを知りました。母と妹を守らなければならないと思い、頑張っていたことに気付かされます。それと同時に彩音は『あと一年』という言葉を重く感じています。
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