第46話

 自分が招待された理由が千和には謎でした。

 招待状を受け取ってからも理由を探し続けましたが答えは出ませんでしたが、『大丈夫です』の答えを覆す勇気がありませんでした。


――テストの時、わざと答えを間違えて順位を落としたのは私の判断だから、彩音様が私を呼ぶ理由にはならないはずだったのに……。


 最早、彩音からの呼び出しとしか思えていません。そして、呼び出される理由は一つしか思い浮かんでいませんでした。

 誕生日パーティーの本番に千和は参加していません。しかし、少人数のお茶会へ呼ばれているとなれば個人的に話があることになります。


――私、とんでもないところへ来てしまったんでしょうか?



 千和が、そんなことを考えていると目の前に人影が並んでいました。彩音の話以上に気になってしまっていた存在が動き出したことになります。


「ようこそ、おいでくださいました。彩音の父、九条浩太郎です。」


「こんにちは。本日はありがとうございます。彩音の母で知世です。娘がいつもお世話になっております。」


 想像していたよりも遥かに柔らかい態度で挨拶をされてしまい、千和は驚きから言葉が出てきませんでした。それでも何とか絞り出します。


「あっ、えっと、はい。……あの、本日はお招きいただきありがとうございます。……瀧内千和と申します。よろしくお願いいたします。」


 慌てて自己紹介をして頭を下げている千和を見て、彩音は千和の学園内と全く違う姿に嬉しくなっていました。普段と違う姿を見られることは親交を深める目的の第一歩になります。


「お話は彩音から聞いておりますよ。……学年で常にトップの成績で、生徒会の活動も熱心にされているんでしたね?」


 浩太郎からの言葉に千和はドキッとさせられました。

 ドキッとさせられると同時に少しだけ寂しい気持ちが湧き上がってきます。


「……いえ、そんなことはありません。」


 成績も生徒会も自分から落としてしまう選択をしていたことへの寂しさもあります。彩音が語る千和の紹介内容が、そこにしかなかったことへの寂しさもあります。


「うちの娘は、つまらない間違いばかりをして困っているんです。だから、瀧内さんのような方が上にいてくれないと甘えが出てしまうので、しっかりと打ち負かしてやってください。」


 千和が驚いた顔をして、浩太郎を見ました。


「えっ!?……あの、私が上位になってしまっても良いのですか?」


 言い終わってから、『しまった』の表情に変わります。思わず出てしまった本音であり、彩音が知りたかったことでした。

 彩音より上位になることが良くないことだと、千和が思っていたのは間違いありません。


「当然です。本番に実力を発揮できた人間が、正しく評価されなければいけない。……それは瀧内さんが頑張った結果なんですから、遠慮なく娘をねじ伏せてやってください。」


「そうですわ。澪さんも悠花さんも、彩音がミスをしても、『おっちょこちょいなのは愛嬌です』と言って甘やかしてしまうんです。少しは厳しさも知らせないといけませんわ。」


 浩太郎と知世から千和に伝えてほしかったことが語られることになりました。

 事前に相談していたわけではありませんが、最高の結果を得ることが出来たかもしれません。ただ、想定していなかった彩音への苦情も聞かされることにはなってしまいました。


 浩太郎たちと話をした瀧内千和の感想は、『聞いていた話と、全然違います……。』でした。

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