25.仲間
帰ってきた私たちを見て、ベルさんはすぐに三階へ行くようにと伝えてきた。ギルド内には数人の冒険者がいて、ベルさんも対応していたけれど、その人には少し待ってもらっていた。
ベルさんの言葉に従って三階へ向かう私たちは、手すりを掴みながらゆっくりと上って行く。
ルーズさんがいる部屋の扉をノックすると、返事が聞こえた。グレンさんが扉を開けると、ルーズさんは机に向かって仕事をしていた。
「もう少しで終わるから、座って待っていてくれ」
そう言われて私たちはソファに座ることにした。部屋に入ってテーブルを挟んで右側と左側にソファがある。右のソファにノアさん、ノエさん、私が座る。左のソファにリカルド、グレンさん、シルビアさんが座った。
もう少しで終わるとは言っていたけれど、ルーズさんは新しい書類を手にした。
これは、いつまでたっても終わらないだろうなー。
どうやら仕事モードに入っているらしく、書類を読んでサインをしたら、次の書類に目を通しているようだ。
「お茶をお持ちしましたよ」
そう言って部屋に入って来たのはベルさんだった。受付の仕事も終わったらしく、お盆に人数分のお茶を乗せて持って来てくれたらしい。それぞれをテーブルに置くと、ルーズさんの元に向かった。
「仕事もいいですけど、みなさんを待たせすぎないでくださいね」
「ああ」
お茶を受け取り、一口飲んでからようやくルーズさんは手を止めた。一度伸びをしてから、机の横を指差した。そこには、この間と同じ布が広げられている。
何も言わないけれど分かる。そこにブルーウルフを出してくれと言っているのだ。
ブルーウルフを【#無限収納__インベントリ__#】に入れているのはリカルドなので、リカルドだけがソファから立ち上がって布の上にブルーウルフを出した。
レッドコウモリの時より数は少ないけれど、山になったブルーウルフの天辺に大きい個体を置いた。
はじめて見たけれど、たしかに大きい。超大型犬より少し大きい。これがリーダーで、この群れを束ねていたのだろう。
大きい個体を見たルーズさんとベルさんは少し驚いている。
「やっぱりいたか……」
「どういうことですか?」
「グレンとシルビアに『不審者の調査』をしてもらったが、モンスターたちが異常な行動をすると必ずと言っていいほど近くで目撃されている魔族の男がいるんだ」
「今回俺たちは見つけられなかったが、それ関係の奴はいたな」
「それ関係?」
フィンレーさんのことだろう。彼も見つけることはできなかったようだけれど、目撃情報があったことはたしかだ。
魔族の男性ということは、もしかすると私が会ったことある人の可能性もある。村の人のものだったかもしれないけれど、視線を感じた。その時、姿を見ていない。もしかすると、それが目撃情報のあった魔族のものだったかもしれない。
フィンレーさんのことを話すノアさんたちを見ながら、私はお茶を一口飲んだ。
「あ、そっか……」
「ノエさん?」
「フィンレー兄様はどうして突然髪を切ってしまったのかと思っていたのだけれど、魔族の街を襲ったから復讐が怖くて別人と思わせるために切ったんだなーと思いまして」
たしかに、私が映像で見たフィンレーさんとは少し印象が違うように感じた。人によっては別人だと思うかもしれない。
それに、髪を切ったのは魔族が復讐しにくる半年前だったらしいから、きっと怖かったのだろう。もしかすると、復讐されるかもしれないと考えていたのかもしれない。
小さく笑うノエさんは、「自分がやったことなのに、復讐が怖いなんて」と小さく呟いている。
魔族が復讐しに行った時、ノアさんとノエさんはまだ子供だっただろう。きっと、フィンレーさんが守ってくれたのだと思う。だから、フィンレーさんのことを怖いものはない人と思っていたのかもしれない。
「アイが無事でよかったよ」
ノアさんの話を聞いていたルーズさんが安心したように微笑んだ。元々角が折れただけなので、怪我もしていない。
いや、安心したのはきっと私が生きていて、エルフと魔族が戦うようなことが起こらなかったことにだろう。本当に私が無事で安心しているのだろうけれど、私一人の命よりも大勢の命が危ぶまれることになっていたらと考えてしまったのだろう。
「次からはもっと気をつけますね」
「そうしてくれると助かるよ」
最悪パパとママがこのギルドに乗り込んでくる可能性もあっただろう。そうなっていたらこの街の人たちは逃げただろうし、他の街から冒険者がやって来ていたかもしれない。
「そういえば、ギルドマスターはどうしてアイが魔王の娘だと話してくれなかったんですか?」
「話したら討伐するか、捕まえて魔王を脅したりするかもしれないだろう」
討伐はされていただろうけれど、捕まえて脅すってどうなのだろうか。
本当にそんなことをいたら、パパは激怒していたと思う。それこそ、ゲームの通り勇者と戦うことになる。
「話してくれなくて正解よ」
もしかするとノアさんは、自分ならやっていたかもしれないと思ったのかもしれない。初めて会った時のノアさんが、私が魔王の娘だと知ったら絶対パーティには入れてくれなかっただろう。
ノエさんも私に怯えて、今のように普通に話すことなんてできなかったに違いない。
今だから知っても討伐しようなんて考えないだけ。
魔王の娘だと知っても態度を変えないことが嬉しくて涙が出てきそうになって、お茶を飲むことで我慢した。
この人たちが仲間で良かったと思えることが嬉しかった。
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