第3話
この人が、私の夫となる人か。
掴まれた手の強さと、大きな背中にくらくらする。
よかった。大丈夫だよ、うめ。
中庭を抜け、さらに奥へと進んだ。
晋太郎さんは、すぐ脇の部屋へと私を押し込む。
「失礼する!」
用意されてあった布団の上に押し倒された。
白無垢の裾が足に絡まり、思わす悲鳴をあげる。
「痛い!」
乱暴に投げ出されたせいで、角隠しの下のかんざしが頭皮に突き刺さった。
ムッとして頭を押さえると、その人はのぞきこむ。
「すまぬ、どこが痛む」
「ここ!」
本当に泣きそうだ。
お酒のせいで頭はくらくらするし、締め付ける帯のせいで気分も悪い。
おまけに掴まれた腕も痛いし、柱にぶつけた足も痛い。
「血が出てるかも……」
「許せ。見せてみろ」
晋太郎さんは私から帽子を取ると、乱暴に髪を掻き分けた。
「血など出ておらぬ、大丈夫だ。たいしたことはない」
そう言うこの人の顔は真っ赤で、手元もおぼつかない。
「もう乱暴にはいたさぬ。安心しろ」
そう言ったかと思ったとたん、頭が肩に乗った。
吐く息は恐ろしく酒臭い。
両手で腕を掴まれ、抱きすくめられたたかと思うと、ずるずると引きずられる。
「あっ、待って……」
私もずいぶんと飲まされたはずなのに、それでもこの人の息が酒臭いと分かる。
泥酔しているようだ。
「ん……。重い……」
のしかかる体を横にずらすと、ドシンと布団の上に倒れてしまった。
そのまま眠ってしまったようで、伏して動かぬこの人を、どうしていいのか分からない。
だけど……。
私はほっとして、胸に溜まっていた息を吐き出す。
真新しい分厚い布団が二つ、並べて敷いてあった。
透かし彫りの入った間仕切りが行燈の灯りに照らされて、ぼんやりと浮かび上がっている。
枕元には蓬莱の飾りが置かれているから、ちゃんと用意されていた寝所ということか。
寝息が聞こえる。
寝転がっているその人の頬をパシパシと叩いても、何の反応もない。
私は帯を解いた。
いま思うと、私自身もずいぶんと酔っ払っていたのだろう。
白打ち掛けを脱ぎ捨てると、晋太郎さんの乗っていた布団の片方を引っ張り、ずるずると引き離した。
その人をそのまま横へ転がしておいてから、布団の中へ潜り込む。
頭はくらくらしていて、自分も横になりたいということだけしか考えられなかった。
「はぁぁ、よかった!」
満足して目を閉じる。
そのままぐっすりと眠ってしまい、次に目を覚ました時には、すっかり朝日が昇っていた。
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