第40話一水四見(いっすいしけん)

俺はいったん家に向かった。真美佳を放っておくわけにもいかない。

雲外鏡が嘘を見せたとは思えないし、敵は鵺だとは思うの

だが彼女が鵺を呼び寄せていることはあり得ない気がする。

鵺の狙いは彼女だということだろうか。

そして鵺は恋慕の情を現している。今生きている人間の範囲では該当者は居ない。

ならば死んだ人間の中にいるのか。死してなお真美佳を恨み続ける。

女性関係であれば妻佐美子さんか娘の千春さんかのどちらかだろう。

しかし死んだ魂が相手か。悪霊と言うことになるのだろうか。

それなら鵺を呼び出して退治することで消えるのだろうか。その点はよくわからない。出たとこ勝負か。

あとはどうやって鵺を呼び出すかなだな。放っておいても向こうから来るんじゃないだろうかとも思うが今のところ高速道路の一見以外は攻撃を受けてない。

が、真美佳はここにいる。復讐を果たすことだけに執着しているなら必ずくるはず。


家に帰ると、真美佳は穏やかな寝息をたてて寝ている。居ない間に襲われることは無かったのだろうか。

「ふむ、わしの結界には何もひっかからなかったぞ」

ゼロが俺の質問に答えた。どうやらゼロが守ってくれていたようだ。

「しかしのわしには今回は鵺じゃないと思うのだ」

「なぜ」俺にはゼロの疑問が理解できなかった。

「わしの知っている鵺はな、臆病で何もしておらん、ただその姿が異様であったがために人間には忌み嫌われ、呪詛として扱われている可哀そうなやつなのだ、何かの怨恨で出てくるような奴ではない」

そうか、前もそう言っていたな。確かに物語上は直接何かをした記録は見当たらない。しかし実際に似たような容姿だったし。

「なんじゃ、納得できんのか」

「ああ」そう言って俺は確かに鵺に似たものを見かけたことを伝えた。

言ってて頭の中で気が付いた。似てるだけ・・・似た別の化け物なのでは。その可能性をゼロに伝えた。

似た化け物

マンティコア、スフィンクス、グリフィン、ヒッポグリフ、あとは窮奇 (きゅうき)だろうか。数え上げるときりがない、それぞれに神話上の生き物だが明確に退治されたとかの記録は正直分からない。そんなのが相手では勝ち目がないか。

「おぬし考え過ぎではないか、何が原因でそれらが出てきてるのかは分からぬが、それらを呼びだすことができるとなると相当なものじゃぞ、一介の人間にできる技ではないわ」

確かにゼロの言う通りなのかも知れないが、

「もうじたばたしても仕方あるまい、人事を尽くして天命を待つではないのか」

本当にもう尽くしただろうか、こうなっては出たとこ勝負じゃないのか。

しかし、一体俺は何をやってるんだろうか、真美佳という女性については知り合いですらない。なんで俺は彼女のために戦おうとしているんだろう、正義感?いや同情

同情するのも違うな、彼女のいきさつはあくまで俺の妄想だ。だとすると。

ただ、ただ、俺が嫌なだけなんだ。彼女の生きる、それを阻害しているものが嫌いなだけ、それを排除したい、ただの自己満足だ、自己満足で何が悪い、所詮人は自分のために生きる。自分のために行動するものだ、自己満足万歳、そう思うと不思議と笑いがこみ上げる。俺は声を上げて笑った。

ひとしきり笑った後ぽつりと

「もうどうなってもいいや」

そういうと俺は家に張っていた結界を解除した。来るなら来やがれ。何がきてもかまうものか。

不思議と覚悟が決まると心が落ち着くものだ。そうするとどうだろう

泰然自若(たいぜんじじゃく)としたもので周りが見えてくる。

「オン バザラ アラタンノウ オン タラク ソワカ」

おれは気が付くと. 虚空蔵菩薩の真言を唱えていた。世界が開けてくる。

目は瞑っているのにそこにいることが分かる。

「おい、そこにいるんだろう。見えてるぜ」

そう言うと窓に近い部分の景色が歪む

「よく見破ったわね」そこにうっすらと影がでだす。

胴体は虎、尻尾は蛇、顔は猿だ、なんだ、キメラではあるが鵺ではない。

声は女の声だった。聞いたことは無いが佐美子の声のような気がする。

「あんたが何者か知らないけどね、その女をこっちに渡しな」

そういって化け物は威嚇してくる。

「お前一体なんなんだ」

「私?私は神よ」

まったく下種な生き物が名乗るときはだいたい神だな。お前なんぞが神であるわないだろうが。

「神が命じるのよ、その女を渡しなさい」

「ふん、神ともあろうものが一人の女に執着するとはな」

「うるさい!」

というと同時に襲い掛かってきた。虎の前足が襲ってくる。かろうじて身をひるがえしたところに尻尾の蛇の頭が飛んでくる。その牙をかろうじてバックステップでかわす。

「ガガガガ」、頭の猿が声を上げる。瞬間目の前が揺らぐ。これは、幻覚か。

さらに虎の追撃がくる。

「っつ」虎の追撃がきた、目の前が揺らいだせいで避けるのが遅れて爪が腕をかする。その痛みで幻覚が解ける。助かった。

これ、なんだ攻撃が連携取れてないな。バラバラだ。ということは、まさかな。

「ちっ」と猿が言う。そう言うといったん部屋の外に逃げて行った。

ここで逃がすものか、俺は懐から式を出すと、化け物の毛を括り付け

「汝が主のもとにもどれ、急々如律令!」と唱えた。




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