第33話百年河清(ひゃくねんかせい)

数日後事態は小さな動きを見せた。

「ヒョウヒョウ」都会のまんなかで夜な夜な声が聞こえる

そんな噂がネットに出回り始めたのは原田家の事件から一月ほどたったころだろうか。

といってもあちこちで聞かれるわけではなく、地域限定での話だった。ただ近くに大学があったためそこの学生を通じて大げさに広まったのだ。

鳴き声から鵺の鳴き声であることはわかっていて、「恐ろしい」が一人歩きして恐ろしいかことが起きる前兆だとさえ言われるようになっていった。

俺とシュリーは早速現場を確認しに出かけて行った。

聞き込みの結果午前2時頃によく聞かれるらしい。場所は大学ではなく、近くの駅の付近だった。これは張り込むしかない。

1日目。特に何もなし、夜中鳴いている鳥はいない。まあ学生がうろちょろしている程度。

2日目 初日と同じ。特に何もなし

3日目 シュリーが飽きてくる。仕方ないか、何もせずただ外からの音を静かに聞いているだけだ。そら飽きてもくるかな。

4日目 シュリーはいなくなった。「よく考えたら私いらないでしょ」とか言ってたな。しかし妖異がでてきたらわからんのでは?この日も何もなし。

そして5日目の張り込みになった。

さすがに連日張り込んでいると俺も飽きてくる。時間が2時前後ならそれまで寝ておくかと車の中で仮眠をとることにした。

そう決めてから30分ほどしたころだろうか、うつらうつらしていると「コンコン」

と窓をたたく音がする。眠い目をこすりにながら外を見るとそこには警察官が。

俺は車から降りると警官に挨拶をした。

なんでも近所からここ数日不審者がいるという通報があったそうな。確かに5日も連続で同じ車で寝てるおっさんがいたら怪しいわな。

当然職質というやつになるわけだが、こんな時どう答えたらいいものだろう。

職業はまさか世界の敵と戦ってますとは言えんし、動画投稿者ってのは迷惑系がいるからあやしまれそうだしなあ。探偵業っていうのもなあ、あれ警察に届け出いるから調べられるとまずいなあ。と免許証を渡してそれを控えられている間に色々考えているともう一人の警官が「あ、もしかして朧朧猫さんですか」と言ってくれた。助かった。

まさか警官にも動画を見てくれている人がいるとは。

「と言うことはなんかこの辺りで超常現象ですか」

「あっ、そうなんですよね、なんか鵺の鳴き声がするって話がありまして」

俺はかいつまんで調査内容を説明した。もう一人の警官はちんぷんかんぷんのようだが俺を知っている警官が説明してくれた。

「まあゴーストバスターズかなんか知らんけど、適当にな」そう言って警官は去っていった。俺を知っていたほうがサムズアップしてくれたのは忘れない。

なんにしてもここいらが潮時か。確かに周りの住人からしたら不審者だし事案扱いされてもこまるしな。そして今日を最後にするかと思った矢先

「ヒョーウヒョーウ」と小さな鳴き声が聞こえた。慌てて車から降りて周りを見渡す。

「やっと出たわね」といきなり背後からシュリーの声、ちょっと妖異より突然出てくるあなたの方が怖いんですが。

当たりを見渡すが、鳥も鵺も見当たらない。しかし先ほどから小さいが鳴き声は聞こえている。

「見当たらないわね結界かしら」シュリーがポツリと言う

「結界ってどうやってやぶるんだ?」

「上書きするのよ」とシュリーは言い放つと空中に指で五芒星を描く。

ファミレスの屋上にはっきりは見えないが虎っぽい生き物が見える。

「いた」

その声を聞きつけてか、シュリーの結界に驚いてか奴はこちらを見る。その顔は猿だった。手足には黄色と白の縞模様、尾っぽは蛇、伝説上なら胴体は狸らしいが正直分からなかった。が、まごうことなき鵺だった。そいつは空に向かってヒョーウと鳴くとそのまま姿を消していった。どうやら逃げたようだ。

「気配は感じないわね。何もしないで逃げたのかしら」再度周囲を確認してみるが全く見当たらない。当然鳴き声も聞こえない。たださみしそうな鳴き声が俺の耳に残っただけだった。

俺とシュリーはいったん帰ることにした。

翌日は俺は逃げたのなら警戒してしばらくは姿を現さないと踏んで現場にはいかないでいたのだが、ネット上には鳴いていることが書かれていた。ただ、鳴くだけで実際は何の問題も発生していない。

「なあ、この鵺ってやつは一体何がしたいんだと思う?」

居間で休んでいるシュリーに問いかける。

両の掌を上にむけで少し上にあげて分からないのジェスチャーをしている。

目的が分からないなら、調べてみるしかない。俺は鵺について調べてみることにした。

鵺、平家物語に出てくる天皇を苦しめた妖異とされているが正しくは鵺(トラツグミ)の声で鳴く何かわからない物だということだ。直接何かをしたわけではなく、そいつが夜鳴くようになって天皇が不眠症になってさらには病気になったということで、鳴いている何かが悪いということになって退治されたらしい。

そいつが悪意を持っていたのなら攻撃方法は物理的な破壊ではなく精神系と言うことになるのか。確かにそれなら現れては鳴いていなくなる。それを繰り返しているのもわかる。と言うことはあのあたりに鵺が標的とする人物がいるのだろうか。

仮想の上に仮説を重ねる形になるが、標的がいるとして初めの原田家の事件が関係しているのであれば今鵺が出ている付近に原田家に関係ある人物がいればその人が狙われている可能性が高いということか。と言ってもどうやって調べたものか、昔なら個人宅の名前まで記載された地図とかあったんだけどな。


百年河清ひゃくねんかせい

いくら待っても望みが達せられないことをたとえ

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