第15話 侵攻を阻止せよ

 ソフィアは再びハイペリオンへと戻っていた。彼女は操縦士席へと座る。


「超重戦車形態へと変形せよ」

「了解」


 車長の正蔵が指示を出す。変形の操作は操縦士ソフィアの役目だ。ソフィアの操作により、ハイペリオンは細かなパーツへと分割され再構成されていく。そして、平面的な装甲版で構成された超重戦車へと姿を変えたところで正蔵が疑問を漏らした。


「ところで、どうして人型機動兵器形態から超重戦車形態へと変形したのでしょうか? 人型機動兵器なら格闘戦ができるので、そちらの方が攻撃力が高いと思うのですが」

「それは、重力子砲の発射速度と命中率を重視したからです。砲の威力は変わりませんが、砲の重心が最適化されるため、連射時における命中精度には運泥の差があります。また、人型機動兵器形態では余計な出力を消費するため、連射性能が低下するのです」

「なるほど」


 三歳児の椿が応答しているが、正蔵は納得しているようなしていないような曖昧な表情を隠せない。


「重力子砲、重力崩壊モードにて射撃準備中。発射まで30秒」

「黒猫さん。主砲発射迄、牽制を」

「了解」


 超重戦車オイの傍らに立つ朱色の人型機動兵器ヘリオスは、携行装備をビームライフルへと変更していた。その砲口からオレンジ色の光芒が放たれ、左翼に展開しつつあるゾウタコに命中した。しかし、そのビームはゾウタコの表面で拡散し、その熱量は周囲に火災を発生させた。


「フォトンレーザーは弾かれるな。ならば実弾だ」


 ヘリオスの胸部装甲が開き、その中から6砲身のガトリング砲が顔を出す。そして射撃を開始した。ブオーンと連続した発射音が周囲に響く。

 しかし、機関砲弾も全て弾かれた。


「本機の兵装は全て弾かれる。効果はないぞ」

「了解。こちらで何とかします」


 黒猫の報告に正蔵が答えている。


「重力子砲はまだか」

「後10秒です。8……7……6」


 椿がカウントダウンを始めた。


「3……2……1……」

「撃て!」

「てー!」


 正蔵の合図で、砲手の椿が引き金を引く。155ミリの大口径砲から、漆黒の稲妻が弾けた。


 二足歩行するゾウの両腕からタコのような触手が八本ほど蠢いている奇天烈な形状の兵器は、養殖場の施設を破壊しつつ、そこで飼育されているサザエやマグロなどの魚介を貪り食っていた。その先頭にいた個体に黒い稲妻が吸い込まれた。


 一瞬、直径が百メートルほどの黒い光の球が膨らんだが、それは瞬時に縮小してから消えた。そこに15体ほどいたゾウタコは、その半数が消滅していた。


「重力崩壊モードでの排除、成功しました。目標は極短時間の重力崩壊により消失。次弾装填します。重力子ライフリングは連続起動中、発射迄30秒」


 椿の報告に正蔵が頷いている。そして次の指示を出した。 


「次弾発射するまで対戦車誘導弾にて対応せよ。積んでる奴、全部撃て!」

「了解。目標ロックしました。発射します」


 超重戦車オイは、大戦中に試作されたオイ車を復元したものである。本来は、装備重量150トンを予定していた。主砲には150ミリ榴弾砲、車体前部に並列して搭載予定の副砲には47ミリ速射砲、そして車体後部には連装の機銃を搭載した銃塔を搭載予定だった。しかし、完成したのは車体のみであり、試験走行中に故障した車体は修理されることなく解体された。地球防衛軍ではそのオイ車を再現し、また、人型機動兵器へと変形可能な機能を持たせた。主砲は155ミリの重力子砲へと変更され、後部銃塔は前部に移設、ビームマシンガンとされた。副砲二基は廃止され、代わりとして後部スペースには垂直発射式のミサイルランチャーが設けられた。そのミサイルランチャーから八発の対戦車ミサイルが発射されたのだ。


 成形炸薬弾頭を備えた対戦車ミサイルが、煙を吹き出しながら垂直に上昇していく。そして上空で軌道を変え、未だ跋扈しているゾウタコへを狙って降下していった。


 八発の対戦車ミサイルがさく裂したものの、ゾウタコは少し体勢を崩しただけでほとんどダメージを与えていなかった。しかし、脚を止めるには十分だった。


「重力子砲発射準備完了」

「撃て!」


 再び黒い稲妻がゾウタコに吸い込まれる。黒い閃光が球体となって膨れ上がり、そして消失した。超重戦車オイの重力子砲により、裏宇宙から侵攻してきた生物兵器の全てが消失していたのだ。

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