X-56話 叡智の研鑽

 ポチャン・・・ポトッ・・・。


 頭の上から天井に沿って生まれた水滴が、俺の身体目掛けて狙っているのか、と言いたくなるほど降ってくる。俺は、今井戸の内部に侵入し、階段を使って下におりていた。


 降りながら考えていたことだが、どうやら俺があの時誤って踏んでしまった大きな石。あれが、秘密の実験場の入り口を開けるために必要な鍵だったのかもしれない。あの後、井戸の内部を覗き込んでみると、不思議なことに狭かった入り口が大きく開き、中から階段が顔をのぞかせたいたのだ。


原理は頭の悪い俺には全く理解できない。だから、そう言った事を起こすためのスイッチだと認識しておくことにした。何度考えても、答えが出なかったので仕方なしにだけど。恐らく、誰かの天恵が絡んでいるんだろうな、とか思考停止の考えを彷彿する時点で、もうこのことについては考えない方がいいみたいだ。


 階段は思ったより下まで続いていた。だが、キリの村の冒険の時みたいに光源が限られているわけではなかった。壁に沿って、明らかに人の手が介入している松明が火を帯びて、ゆらめきながらも足元を照らしてくれている。だが・・・、


「この松明——まだ火がつけられて時間が経っていないんだよな〜。これって、どういうことなんだろ?」


松明として使われている木材は、まだ上の部分しか燃えていない。加えて、この井戸の中は湿気がものすごく高い。それもそのはず、この最深部には常に地下水が流れており、それが原因となっているのだ。だが、今火を灯しているこの木材は一切湿気っていない。カラカラでまさに先ほど木材を保管していた場所から移してきたように・・・。


「分からないけど、進むしかないか」


分からないことばかりだ。だが、それもそのはず。この場所は隠された実験場なのだ。最も簡単に見破られるようでは、秘密が成り立たない。なぜなら、この集落は天才集団が英知を高め合いながら、日々研鑽してきたのだから。俺は、一歩また一歩と底面に近づくための歩速を着実に早める。そして、不自然なほど明るい光が漏れる場所を、俺の目はようやく捉えた。

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