X-40話 悲痛の叫び
「初めまして。コルルさん。僕の名前はユウシ。よろしくね」
暗闇に姿を溶け込ませていた彼の姿が、テント内の光源に照らされて、次第にその輪郭をあらわにしていく。ベットに寝転がっている時には分からなかったが、彼の優に175cmは超える高身長がやけに大きく見えた。そして、相変わらずの笑みを浮かべた表情を作ると、俺とコルルがいるテント内に堂々と何の躊躇いもなく侵入してくる。
「ユウシさん? ねえ、クーリエさん。この人は一体?」
コルルが半ば助けを求めるような顔をしながら俺の方をじっと見つめてくる。俺は彼女の肩を一度ポンと叩き、彼女の緊張が和らぐように努める。彼の登場で俺の頭で構築された話の手順は破綻していた。そして、彼はそんな俺とコルルの心境などを余所に遠慮なく話を進めていく。
「僕は先ほども言ったと思うけど、今回の集落が火でほぼ全焼するという事件、まぁ事故って言っても良いかも、まぁ、何にせよそれを引き起こした張本人。
そして、そこにいる彼の天恵からもたらされる攻撃によって、敢えなく意識を失って今さっき目覚めたこの集落が生み出した神童さ!」
思わず呆気に取られてしまうコルル。でも、彼を目の前にするとこうなるのは仕方がないとさえ俺は思っていた。だって、俺もそうなったんだから。テント内を赤く染め上げる光源の火がゆらゆらと揺れ動くのは彼女の今の心境を表しているかとさえ思った。
「後半部分はよく分からなかったんだけど、あなたがこの集落の全焼を引き起こしたのは本当なのかしら?」
「本当さ〜。当の本人が言っても信じてもらえないのなら、そこにいる彼に聞いてみたら。彼のことは信頼しているんでしょ?」
ユウシは笑顔を崩さない。笑顔が適さないシリアスな会話にも関わらず、不適切だとさえ思わせる彼の態度に少なからず俺は違和感を覚えた。だが、目の前の彼女の怒りのボルテージがゆっくりとでも着実に上がっているのを俺は見逃さない。いや、正直に言うと、彼の態度なんて気にもならないくらいに彼女の挙動に意識を向けていた。
「彼の言っていることは本当? クーリエさん」
尋ねる彼女に俺は真剣な顔を作って返した。
「あぁ。それは本当だ」
「ね? 言ったでしょ? さて、では次に話すことは——」
「あなたは、一体どういうツラを下げてここまできたというの!!!!」
彼女の悲痛な叫びがテントを通り越して、静かに夜の光を含む森に響き回った。彼は依然として表情を崩さない。だが、数秒後にはテント内外を通じて同時に静寂が包み込むのであった。
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