第2話 フィアンセと浮気相手
飄々と言うベートシュは悪びれる様子はなく、寧ろローザを馬鹿にしたような顔で見下ろしている。
「そうでございましたか。・・・ですが私の為に来てくださったのでしょう?でしたら私と・」
ローザが話し終わる間も無くベートシュは言葉を遮るように答えた。
「君はなんて酷い女なんだ。ヒメール嬢はパートナーがおられず恥ずかしいとまで悩んでおられたんだ。そんな彼女を1人でこのパーティーに参加させる事などこの僕にはできないよ。」
ローザは下を向いていた顔を反射的に上げた。
「それならば私も同じはず。私の婚約者が他の女の方をパートナーにしたとなれば、私も辛くてここにはいられません!」
辛そうに眉を顰めるローザを、ベートシュは愉快なものでも見るかのように笑った。
その横で、ベートシュに腕を組まれながら佇んでいたヒメールは、ニヤニヤ笑いながら勝ち誇った態度で扇子を広げた。
「私の気持ちを理解して下さり、ベートシュ様が私を選んで下さるなんて嬉しい限りでございますわ。」
ローザは諦めた表情の中に悲しみが込み上げてくるのを抑え、その場を立ち去ろうとした瞬間、ローザの後ろから、低くて艶のある男の声が静かに響いた。
「今宵は私がローザ様のパートナーになりましょう。ベートシュ様は思う存分そちらの女とお楽しみ下さい。場も弁えられぬ浮気者の騎士として笑い者になるのも一興だろうからな。」
ローザが振り返ると、先程手を振り払った男が堂々とベートシュを見ながら立っていた。
ベートシュは、男の言葉で頭に血が上ってしまったようで、目の前に立っていたローザを雑に押し除け男の胸ぐらを掴んだ。
男は、よろけたローザを片手で受け止め、もう片手でベートシュが自分の胸ぐらを掴んでいる手首に手をおいた。
「自分の婚約者を突き飛ばすとはな。みんな見てるし、もう少しすれば国王もお越しになるだろう。騒ぎを起こして不利な立場になりたいのか?」
そう言われて、ベートシュも間はあったが状況を理解できたのか、ゆっくり掴みかけていた手を解いた。そして、男の片腕にすっぽり抱きしめられているローザの腕を手荒に引っ張った。
「行くぞ。ローザ。」
ローザを引っ張りながら中に入ろうとするベートシュに、ヒメールは驚いた表情で呼び止めた。
「お待ちになって下さいベートシュ様。今日のパートナーはこの私でございますわよね?!」
そんなヒメールに、ベートシュは目を逸らしながら手短に口を開いた。
「僕はこの国随一の聖剣の騎士だから、笑い者にされる訳にはいかないんだ。今度埋め合わせするから、今日は1人で過ごすなり帰るなり好きにして。」
自己保守に走ったベートシュに、ヒメールは怒りの表情を隠す事なく喚き散らした。
「そんな!酷いですわ!!私とは1ヶ月も前からこのパーティーに来るお約束をしておりましたのに!」
そんなヒメールの金切声にも、心を痛めたようなベートシュだったがそれ以上ヒメールに言葉は返さなかった。
ローザはその言葉に少なからずショックを受けていた。
「1ヶ月も前から・・・。」
ベートシュがローザの知らない所で浮気するのは一度や2度ではない。初めは平謝りで謝っていたベートシュも、回数を重ねるごとに浮気するのはローザのせいだと言わんばかりの態度に変わっていった。
ローザ自身も、自分のせいかもしれないと自分を責めた日もあった。
ローザはベートシュの事を愛していた。だから毎回ベートシュを責めて捨てられるくらいなら我慢しようと、毎回1人で泣いてやり過ごしてきた。
ベートシュの力が更に荒くローザの腕を掴む。きっとヒメールを怒らせた事に焦っているのだろう。
そんなローザを見ていた黒髪の男は、優しい声でローザを呼び止めた。
「ローザ王女。また近いうちにお会いできるだろう。その時は思いっきり笑わせてやる。」
そう言い残して男はホールを出て行った。
ローザは、初めこそ失礼な男だと思ったが、今助けてくれたのも、そして慰めてくれたのも事実。
ただ、見たことのない貴族など自分の中ではいないと思っていたのにまだ知らない貴族がいた事に驚いていた。
そして彼は誰だろう?という事の方が大きかった。
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