第30話 成り代わって
守り神様は、俺だけにピンポイントで”声”を投げつけ爆弾発言を投下すると、すぅと霞のように消えて行った。きっと眠りについたのだろう。今回、結界とかめっちゃ張ってくれてたみたいだしな。
残された俺の内心、くっそ荒ぶっておりますけどね??
え?? ヒサメって原作で超重要キャラじゃなかった? 主人公君とニコイチのパートナー的存在だったような?
まてまてまて。”ヒサメ”というキャラクターは、原作の方では龍神だったし、ヒトガタ形態も大人の女性だったじゃないか。ははは、そりゃあ名前が一致することくらい、あるよね。ウンウン、そうだよ。
……でもよく考えて見れば、ヒトガタ形態のパーツパーツがものすごい一致してるんだよなぁ……
よし、俺は何も知らないンダ。何モ気づいてないヨ、ナイノヨー。
守護神様のお名前はヒサメ、わぁ、雅な名前ダネェ↑↑
姿勢を正し、守り神様の消えた場所にオババと一緒にナムナム合唱していたら、今度はマイベストフレンド親友君が外面モード搭載で話しかけてきた。
「皇子様、先の刻はお守りしきることが出来ず、申し訳ございませんでした。そして、こんな不肖の私めなど矮小の命を尊い御手に救い上げて頂き、感謝してもしつくせませぬ。この御恩、必ずや返しとう存じます」
こちらが座っているからか、向こうも地に居直り、三つ指をついてきれいに土下座する。
うへ、相変わらず完璧な外面でやんの。今はパッパの前、素は出せないもんね。
というか、相変わらず顔がいいな。外面搭載時の親友のロイヤルスマイルの破壊力はエグい。すっごいさわやか。いつもの仏頂面を知ってるもんだから、ギャップで笑けてきちゃうんだよな。
「友が目の前で死にかけてるってのに何もしない奴があるか。それよりお前、楽な姿勢になれよな。
もう動いても平気なのか? しんどいなら無理せず寝てろよ。死にかけてたんだぞ、お前」
「では失礼して、胡坐でもかかせていただきましょうか。
―――主の門出などめでたき折に、寝呆けている臣下がどこに居りましょうか。……ええ、皇子様の迅速な処置により、この通り生きておりますよ。その節は重ね重ね、本当にありがとうございました」
ロイヤルスマイルを煌めかせながら笑う親友の姿に、こちらにもくつくつと笑いが込み上げてきた。
―――それと同時に、安堵も。
……よかった。元気そうだ。
親友の口から「生きてる」って聞けただけで、こんなにも安心するもんなんだな。
よかった。本当に良かった。
血反吐吐いて倒れた時は、もう何が何だかわからなくて、頭じゃなくて体が勝手に動いてた。頭は司令塔の役目を放棄して、フリーズしててさ。どこか現実味がなくて、自分を一歩外から眺めているような感じだった。目の前の光景を頭が完全に拒否してしまっていて、映画をスクリーンの外から見ているような、どこか無関心さの中にあったんだ。
コトを理解してしまうことを恐れた心が、お前を認識することを拒絶してしまっていたんだよ。
……あれ、おかしいな。今になって手が震えてきたや。一度、お前が生きてることは、皆に経緯を説明していた時に確認したんだけどな。お前の声が聞けたことで、やっと染み入ったのかな。今頃になっていろいろ緩んできちゃったみたいだ。
目尻をそっと触手で拭えば、親友はさっと両拳を地に着け、パッパの方を仰ぎ見て言った。
「王よ、ここからは皇子様の友として振舞うことをお許しください」
「よかろう」
許可をとるや否や、親友はロイヤルスマイルをそぎ落とし、いつもの尊大な態度をむき出しにして言った。
「おい、ミコ。お前、先に化け物が何だとか言うておったが、もしも私が化け物になったとして、その時お前は私を殺そうとするのか」
「は? 何言ってんだお前、んなことするか。何でそんなことしなきゃいかんのだ」
いきなりの突拍子もない話題に眉を顰めれば、親友はその能面のように凝り固まった表情をふと緩めた。
「そういうことだ」
「はぁ?」
なぁに、ボクちん困惑~~殺すとかそんな物騒な話してた覚えないですぅ。
今の唐突なやり取りに涙も引っ込んだわ。鼻をすすって睨みつければ、鼻で笑われた。
ムキーッ! んだコイツ、相変わらずムカつく野郎だぜ!
てかお前ぇ、あの話聞いてたのかよ。恥ずかしいからぶり返すなよな。華麗にスルーされたんだぞあの質問。結局、今の回答もよく分んなかったし……
なにが「そういうこと」なんだ。わけがわからん。
気に食わないので触手の先端で鼻をつまんでやったら、べりりと引きはがされた。が、それはそのままその手に収められて放されることはなかった。
おうおう、そちもこの手触りの虜になったか。そうよのう、そうよのう。そんな真顔で取り繕っても、ムニムニ動く手指のおかげで誤魔化し切れていないぞ。
そのことを隠さずニヤニヤ笑ってやれば、仕返しのつもりか親友は仏頂面のままにまた語りだす。
その内容に、またこちらが一杯食わされることとなってしまった。
「あとお前、さっき私が言った恩を返したいという話だがな、これは本当に心より思うておることだ。
……分かるかミコよ。返すためには、お前が私の側に居らぬことには始まらぬのだ」
「おまえさぁ……ホントそういうとこだよな」
このツンデレめ! そんな言い回しなんかしちゃって、一見ツンツンしてるようにも感じるけどさ、お前の剣山マシュマロなんだよ。ふわっふわなんだよ。トゲはやしてても土台がふぁっふぁなんだよ! ハズカシイ奴め! なんだかこっちが恥ずかしくなって触手がショッキングピンクになってもうたがな! どうしてくれるよ!
皆みたいにもっと素直に言えよな、「俺と一緒にいたいんですぅ~」ってな。ばぁか。
とりあえず触手は没収だ!
……そんな残念そうな顔するほど気に入ったの、コレ。
「皇子様や、そろそろ
少し焦ったようなオババの言葉に、今の期間スサノオを全放置していたことに気が付いた。うっはやっべ……べ、べつに忘れてたのかそんなんじゃないし? でもまた怒らせたらまずいからね、速くいかなきゃ。
あーあ、でもなんか行きたくなくなっちゃったなぁ。まあ最初からあんまり行きたくなかったんだけどさ。……こんなにみんな、別れを惜しんでくれちゃって。
―――このままここに居たいなぁ。
なんて、そんな馬鹿なことを思ってしまうんだ。
「えーと、みんな、引き留めてくれてありがとう。俺、とっても嬉しかった。
……へへ、みんな優しいなぁ。俺、こんなのに成っちゃったってのにさぁ」
大蛇の姿になって暴れまわって、真っ黒な瘴気を噴き出して大規模環境破壊して……そんなのを目の前見たんだ、きっと怖かっただろう。怖くなかったわけがないんだ。それでも変わらず接してくれるっていうんだから、みんな心広すぎかよ菩薩かな? 全員解脱しておられた? この場の全員仏であられた??
「おいお前。私が言うたこと、本当に分かっているのだろうな」
ウワ親友君、ものすごい疑いの目だねぇ。心の底から信じて無いって顔してる。
「……そうだねぇ、じゃあさ、約束しようか」
「やくそく?」
小指を突き出して見せれば、親友は首をかしげながらも、俺の真似をして小指を差し出してきた。
そのおずおずとした動作を微笑ましく思いながらも、その指を俺ので絡めとる。
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたら、はーりせーんぼーんの――ます、ゆーびきった!」
歌い終わって指を放せば、親友はいぶかしげな顔をしてこちらを見つめていた。ウワ、すっごい眉間のしわ。イケメン顔が台無しだね。
「んふふ、意味が分からないって顔してるね。んーとね、この歌の意味は、もしも約束を破ったら、指を切って拳で一万回殴って針を千本飲ませてやるぞーって言ってるんだよ」
「だれがそんな悪趣味なことをするかこの馬鹿者! この場に及んでまた妙なことを……」
「はっはっは、昔から約束事はこの歌と決まっているのさ。そんな痛いことされたい人はいないだろう? だから絶対に約束を守るってわけさ」
そこまで言ってから、しっかりと親友の顔と向き合った。すると何かを感じ取ったか、親友の方も何も言わずに姿勢を正して向かい合ってくれた。
なぁ、これは俺にできる、精一杯の誠意の証明ってものなんだよ。親友のお前だからこそ、どうしても示したかったんだよ。
『―――だから大丈夫。きっといつかまた会おうな、マタヒコ』
祈りを込めて、その名を紡いだ。
「ミコにいちゃん、ぜーったいに帰って来いよ!」
いよいよ出立ムードにあふれてきた時、再び子供たちが駆け寄ってきた。
あああ、豆チャンプ少年よ。口をかみしめすぎて血が出ちゃってるじゃないの!
「ああ、大丈夫さ。いまコイツと約束もしたかんな」
涙目にすがりついてくる少年の頭を撫でてやりながら言えば、納得してくれたのか渋々ながらに手を離してくれた。
ごめんねぇ、そろそろ本当に行かないと、あそこの怖い顔したオジサンが荒ぶり始めちゃうかもしれないからね。
最後にもう一撫でしてやってから立ち上がった。
周りを見渡せば、優しい表情をした面々がいる。それに何だか泣きたいような気持になって、でも込み上げてくるものはぐっと堪えた。
「じゃあ皆、ちょっくらいってくるね!」
手を挙げて告げれば、「行ってこい」だの「達者で」だの、皆思い思いの言葉で激励をくれた。
どうしようもなく暴れる心を押さえつけ、故郷に背を向け走り出した。
だめだ、泣くな泣くな。いつでも帰ってきていいって言われただろ。そうだ、帰る時には土産話をたくさん持っていってやろう。
さあさ、覚悟を決めて気持ちを切り替えるんだ。シャキッとしろよ、俺!
眩しい朝日に、決意新たに誓う。
成り代わっても俺は俺、ラスボスには死んでもならねぇ。
俺は俺のままに、優しい皆の生きるこの世界を生きてやる。
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