第26話 さらば地形よまた会う日まで

 やだやだやだコナイデェーッ!!

 体感米粒サイズの相手、けれど確実に俺の命を刈り取れるであろう相手が自分の方に向かって跳んで来たらどう思うだろうか。

 答えは簡単、「あ、俺死んだ」だ。




 突っ込んできたってことは反撃しても怒んないってことだよね? 出会った瞬間から向こうさん、既にブチキレてた気はするけどさ!


 そりゃ抵抗だってするよ! そもそも目視出来てないくらい小さく見えたって、相手はあのヤマタノオロチの首もスッパーン切り落とせるくらいのチートだからな。ヤマタノオロチの大きさって、八つの谷と八つの峰を覆うほどのデカさだよ? おそらく全長ではヤトノカミの方が勝ってるかもしれないけど、質量と大きさでは絶対向こうが上なんだよ?? ライフ8つある奴が滅されてるってのに、ライフ1しかない俺が敵うわけないぢゃん。


 ヤダヤダ死にとうない! おいおい自称神さんよぉ、健康長寿に命一杯まで生きれる約束だったろうがよぉ……祟り神の寿命とか知らんしそんなにはいらんけど、せめて一般的な人間の寿命分くらいは生きれるってな約束だったよなァ??

 あーもう絶対許さんわ、前から許すつもりなかったけど。死んだら何が何でも殴り込みにいこ~~~!!!




 でっかい気配の元に剣の嵐を飛ばしてみるけど、全然消滅する気配がない。まあそりゃそうだよね、公式チートスサノオだもんね(白目)。

 あ、でも足止めくらいは出来てるかもしれない……


 っと思っていた時期が俺にもありました。突然、剣の雨を降らせていた俺の瘴気の雲の中心がドカンと一発爆発したと思えば、全部雲散してしまわれましたのです。それはそれはキレーに消滅しました吹っ飛ばされてしまわれたのです~!

 渾身の策も全く通用しません! 物理でごり押されます! じゃあもうどうすりゃいいんだよぉ……


 ってギャー!! 気配がくるぅ! アッ姿が目視出来たッ! 砂粒のようだって近い近いヤバイまってミィエエエェエエエ!!






 首を振って体くねらせ、迫る攻撃を全力回避。向こうの巨大な斬撃躱し、鱗で感じる殺意はMAX。

 空には暗雲立ち込め、溢れ出るスサノオの神気に嵐が巻き起こされる。


 俺の瘴気とあちらのキチった威力の攻撃で、地形が見る間に変わる変わる。どちらかが動くたびに大地は震え、さっきまで山だったところが盆地に早変わり☆ 平地は谷に、谷は平然と埋め立てられてゆく。

 ……大災害だなァ、おい!


 空中に即席で創製した巨大な剣を、口に咥えて斬撃に応じる。小さい剣を操っていたようなサイコキネシス的な念だけで動かすよりも、加えて自分の筋力で押した方がより安定した。

 迫る斬撃は向こうの神気の塊だが、その密度は異常に高い。まともに受ければ、重すぎる攻撃に脳震盪が起きるのか視界に星が散る。なるべく回避しつつ、どうしてもやられそうなときだけ、受け流すように応戦する。




 そうやって瘴気をまき散らし、無いよりはましの剣の雨を創り続けて大規模災害を引き起こしつつも、ただ「死にたくない」の一心で大剣をブン回して戦い続けていた時のこと。ついに痺れを切らしたらしい向こうの神気が、今までとはケタ外れに、異様なほど高まってゆくのを感じた。

 その只ならぬ雰囲気に、思わず笑ってしまいそうになる。


 おぉっとー? それはちょぉっとヤバいのではないだろうか? ブッ放せば辺り一帯が吹き飛ぶのではなかろうか??

 おおおお落ち着けどうどう、短気は損気だぞ!




 絶望を通り越して、この状況は最早ギャグではなかろうかと、情緒も擦り切れそうになっていた時のことである。ラスボス印のハイスペック第六感が、更にどん底へ叩き落してくれる情報を持ってきてくれやがった。


 ……ナァちょっと待チィや。近くでなんか覚えのある気配がすんねん。


 迸る嫌な予感に振り返れば、結界に覆われた村が見えた。

 どう見ても故郷の村ですよ、ありがとうございません!! 思い出したよこの気配、きっと守り神様のだな。通りで覚えがあると。 


 ちょっと待てよ。今スサノオがこのクソ威力攻撃を放って、もしもそれを俺が避けたとしたらですよ。

 ……きっと射程に入ってるであろうあの村、もしかして巻き添えで消滅するんじゃね?




 オイイイイィ! そりゃねえだろ汚ったねぇぞ!

 あ、まってアレたぶん気づいてないんだ。バトルモード入っちゃって気づいてないだけだ。


 ……だけ・・じゃねぇんだよ、シャレになんねぇんだよそれェ!

 嘘だろ、神様ってこんなのばっかなの? ドジっ子属性テヘペロ☆ で済まねぇんだよ、アンタたちがやらかすことはァ! 一つやらかすたびにこっちの被害はえげつないんだよぉ!


 急いで”声”を張り上げ、待ったをかけた。


『待たれよ! このままそれを放てば、数多の人間が巻き添えとなるぞ!』


『ヌゥオオオオォオオオオ!!』


 おい待てよ待てっつってんだろ聞いてねぇなコイツおいぃ!! バーサーカーはお呼びじゃねぇんだよ! 雄たけび何ぞ上げてないで、聞けよヒトの話をよぉ!


 ……「数多の人間が巻き添えになる」とか言ったけど、実はもう既に山の獣とか妖怪さんたちとか、俺の村以外の人間がすんごい犠牲になっちゃってることには目をつむっておきましょう!


 ねぇちがうんだって! なるべく村は避けてたけど、ちょっとぷちっとやっちゃったりするじゃん! だって攻撃避けるのにいっぱいいっぱいなんだもん!

 というか、直接村を潰した回数は多分スサノオの方が多いぞ! マジで見境なんてねぇ。大体、向こうがケンカ吹っ掛けてこなかったらこんなことにはなってないのだよ。オレワルクナイ、ワルクナイモン……




 ってヤバイヤバイヤバイ、エネルギー充填もうすぐ完了しそうやんけ! はぁ!? あのパワー密度何なん? 最早必殺技ですよね?? 確実にここら一帯吹っ飛ばしにかかってますよねヴァアアアン!!

 アッアッアッとりあえず村守んなきゃ皆死んじゃうあばばば。


 とりあえず瘴気を消し去って、触手の色が赤でなくなったのを横目に確認しつつ、全速力で村に向かって這い、たどり着いた瞬間そのまま村を覆ってとぐろを巻いた。触手の色が変わると同時に、瘴気の他に生み出した全ての剣が雲散した。


 触手の色は焦りでぐるぐる変わってる。

 だって怖いもんねぇ! 皆を守るためには、アレを俺が盾になって受け止めなきゃだもんねぇ! ひぃん怖いよ逃げたいよぉ……でも逃げたらみんなが蒸発しちゃうぅ……でも俺もこのままだと蒸発しちゃうかもしんないよぉ! ぴえん越えてぱおん。


 うおお! 泣くな、俺!! 術は精神ってわかっただろ! 今こそあの日本一熱いテニスプレーヤーの精神を憑依させる時だッ!


 ―――諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!!

 もっと熱くなれよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!


 SO、怒りのパワーがなくたって、きっと術は使えるはず……俺は俺を信じてる! 覚悟は決まったァ! どんな攻撃だろうが、受け止めきってやんよコノヤロー!


 さあいくぞ!

 COME ON BABY !! 剣、召☆喚!!






 あのでっかい剣がもう一度出てくるように最大級に念じれば、ちょっとした疲労感を感じたのと同時に、目の前に虹の輝きを持つ巨大な剣が出現した。

 疲労感なんて、触手が赤く輝いていた時には感じたことのなかった感覚だ。刀身も赤じゃない。触手も刀身と同じ、きれいな虹のグラデーションに染まって光っている。恐怖状態で入り乱れていた色が、その有り様を定めたかのようにカッチリきまってら。


 多分、祟り神ぱぅわとは別の何かしらのエネルギーを原料にして生み出されたものなのだろうが、今はそんなことはどうでもいい。今この場で関係あるのは、今から発射されるであろうクソ威力攻撃に、この剣が対抗できるかどうかという話なのだ。

 ああ、てもまずは―――


 うっしゃあ、成功したァ!!

 剣を作り出すことに成功した安心感に一時浸る。よくやった、よくやったよ俺! 腹の下のみんなを傷つけることなく術が出せたよ! やったね!

 まあまだ出せただけだけどね! これから攻撃が来るって時に、実証のされてない即席の防御手段が出ただけなんだけどね! ハイ、ハッピータイム終了!


 すぐに気持ちを切り替え、緊張を取り戻す。


 だけど、こんな剣一つで防ぎきれる気が全くしない。

 ならば数だと、とりあえず同じ形状の剣を出せるだけ出して面積が増えないか試してみたところ、柄部分を合わせてみれば、同じ力の源から発生しているソレは自然と癒着し、立派な扇形の盾が完成した。


 何か知らんが完成した盾に焦りながらも喜びつつ、村を覆ってしっかりと隙間なくとぐろを巻き、完全防御態勢に入る。最後に頭でてっぺんにフタをすれば、とぐろ山要塞の感性である。材料はこの俺! 原作の最終決戦時でも、ほとんどのキャラの必殺技でもかすり傷一つ付けられなかった、鉄壁の鱗によるガードでございます!


 あーあ、これでスサノオの攻撃も効かなきゃいいんだけどさァ。さっき尻尾切断されちゃってるし、絶対通ることは間違いないんだよナァ。うーわ、なるべく姿勢を低く取り持って面積減らしとこ。




 完璧な防御態勢が取れたところで再び意識をあちらに向ければ、スサノオもついに攻撃のモーションに入り始めていた。

 アッ! ねぇねぇ待って思いつく限りに防御は固めたけど、俺の心の準備ってもんがまだなんですねぇえ……まってまってよ待てっつってんだろうがよおおぉおぉぉおお!?


 願い空しく、ついにその攻撃が解き放たれた。






 迫る迫る迫る圧倒的な力力力。




 剣の扇を握りしめ、瞼のない目をしっかと見開き、見る間に近づく光の束を、体崩れるその時まで見据えた。


 剣の扇は端から溶けて崩れ、盾を越え溢れ出た光の波にそのまま頭が包みこまれてゆく。スローモーションに見える世界が、目の前で薄れ霞みゆく。何もかもが真っ白になって、何もわからなくなって、それで、それで―――

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