第4話 ブラック戦士が行く!

 防衛線では、村の周りに張り巡らされた柵の内側からちくちく刺すお仕事がメインとなる。


 チキン結構、作戦名は”いのちだいじに”だ。どこのボジションにいようが、武功さえ立てられれば文句は言われねぇ。

 弓矢を扱わせりゃ、100発99中くらいの俺の親友兼部下様直々に教わったからな。これでも結構命中率はいい方なんだ。


 的が生きてる人間って時点で激萎えだけれど、防衛線の場合、そこで止められないと敵国に侵略されて、自国の民が原材料の血の海が出来上がってしまうのだからしょうがない。




 そう、あれは初陣を迎えてから少し経った頃。本国の村から少し離れた村に、援軍として派遣されたことがあった。


 その日は悪天候のせいで、到着するのが遅れてしまっていた。

 味方が持ちこたえていることを願って必死で馬を飛ばし、ようやく村が遠目に見えたと安堵した時のこと。あと少しというところで、目の前で防衛ラインが突破されてしまったのだ。


 そんでもって、村の中にいた老人女子供が惨殺されるというRG-18映像をリアルガチの嬉しくない生中継で目撃してしまい、内心SAN値チェック待ったなしだったけど、死ぬ気で敵さんを叩き潰したという経歴がある。



  

 それからは戦の時はもう無心で射っている。だって、本国のみんながあんなことになったら死んじゃうもん。

 それに俺だって死にたくない。第二の人生でも夢は変わらず、健康長寿で天寿一杯まで生きて家族に見守られながら大往生することなんだかんな。


 攻めてくる方が悪いんだし。俺ワルクナイ! 正当防衛だもん! バーカバーカ、ホント来んなバ―――カ!

 俺なんてビビリは後方で防衛に徹するのが性に合ってんだ。


 いや、弓矢の戦士が小心者って言ってんじゃないのよ。ここの奴らだって随分血気盛んでバイオレンスな思考してる。

 "今日は何人射った"だとかいう武勇伝が酒の肴の定番メニューなんだけれども、その度正直ヒェってなってる。




 こわ……古墳ピーポーほんとこわ……

 最終的に俺のことヨイショしてくるけど、この時ばかりはなんも嬉しくない。


 だって、「オレはピー人殺しましたが、このお方はそのウン倍抹殺したんスよォ!」なんて部下に自慢げにみんなの前で暴露されるんだぞ! まるで俺がやばい人みたいじゃないか!


 まあ数字に関しては事実なんだけども!!




 そして多分、俺は前線にて致命傷の攻撃を受けたとしても、転生特典があるから死にやしないのだろう。

 実際何度も矢を受けたり、刀傷をくらったこともあるけど、ありえないスピードで治ってしまった。多分、怪我が元で死ぬのを防ぐために転生特典が働いたんじゃないかと思う。


 きっとやりようによっては、切られても起き上がって絶対敵殺すマンのゾンビプレイができるんだろう。でも死なないからって好んで切られに突っ込む気はない。

 だって怖いやん。痛いのも断固拒否の姿勢でごじゃる~~~!


 ――それに本当にそんなことをやってしまったら、ただの化け物でしかないわ。たとえここが異世界だろうが、そんなの化け物以外の何物でもない。






 そうしてプリンス家業を続けし俺、現在十七歳! 今日も元気に戦に駆り出されてます。


 ここのところ、結構な割合で小競り合いが発生しているんだ。いや~乱世乱世。――あ、流れ矢が飛んできたよアブネっ!


 部下の脳天目掛けて真っ直線に飛んできた矢を叩き切ったら、土下座込みで盛大に礼を言われた。

 いや~、どうもどうも! こうやっておだてられると悪い気はしないよね!




 しっかし、古墳基準では十七歳はそろそろ嫁さんもらって所帯持ったり、子供こさえててもいいオトシゴロなのに、あんまりにも戦続きでそんな話が一切出ない。あるのはむさ苦しいおっさん共の気配のみである。ハハッおっかしいな~??


 しかもこの間久しぶりに本国の村にかえったら、一つ下の弟に嫁さん出来てたんだ。こっちが同盟国間での諍いに、たらい回しにブラックハードワークブチかまされてる間にな!!


 二人そろってイチャコラ花飛ばしながら結婚報告してきた時は、麻布噛みしめてギリィしたよね。平和に暮らしやがってお幸せにな!!

 なんか俺だけ仕事量がおかしい気がすんのは、きっと気のせいだって信じてる!




 ――そう。パッパがご隠居して第一王子が就任してから、俺に回される仕事量がどう考えてもおかしくなったのだ。


 パッパが兄弟たちの子供に囲まれ、孫可愛やとじいじムーブかましてる間に、俺はあっちで戦闘こっちで戦闘、弓矢で応戦できなくなったら剣で応戦、返り血を川でみそぎをして落としたら、一度本国へとんぼ返りしてすぐさま別の戦場へ。


 アッこれイジメかな?? 気のせいじゃないねコレ!! あいつ、一の兄上め……前はもうちょい優しかったやん……全くもって遺憾の意!!


 兄上のことは、自称神と一緒に盛大に呪っておくことにする。

 あいつらハゲろ! 小指固いもんにぶつけて悶絶しろ! 加齢臭に纏わりつかれろ! バーカ!!




 そんなことを考えながらも手元は動かし戦闘を終え、只今次なる指令に沿って、馬で原っぱを爆走中!!


 やっとこ戦闘にキリが付いたと思ったその瞬間、伝令がやってきて次に向かう場所を吐きやがったんだ。

 いや、伝令くんが悪いわけじゃないんだけどね? 悪いのは全部一の兄上なんですけども。


 Q: 王様の命令は?

 A: ゼッターイ!!


 休息ゼロだよ、いくらなんでもひどすぎでは。俺もかわいそうだけど、付き合わされる俺の部下たちもかわいそう。日に日に憔悴してってるのが見て取れる。ついでに伝令達もかわいそう。


 兄上があまりにも頻繁に伝令をよこすもんだから、何人かいる伝令達とも全員顔見知りになってしまった。

 今回の人に顔なじみのよしみとして、敵から強奪したお結びをやったら、おっさんのガチ泣きを目撃してマジでビビった。


 おっさんの泣き顔なんてなんも嬉しくなかったけど、泣いてるのをそのまま放置はどうかと思ったから軽くヨシヨシしたらもっと泣き出したから戸惑った。

 そのまま少しお悩み相談教室を開いてから帰したのだが、あいつらも大変だよな。大のおっさんが泣くほどキツいって、相当なブラック稼業だよ。まあ俺らの方が被った被害は絶対上回ってるけどな!!!


 これ現代ブラック企業とタイマン張れるわ。それぞれ肉体部門と精神部門で。


 部下との会話でも、一の兄上ディスりネタは尽きるところを知らないけど、だからって俺が政権とって動かしたいってな欲はないんだよな。だって、まず政権取るための第一歩として、兄上の首を取らないといけないし。やってられっかよ。


 血で汚れた王座なんて御免だね。なんか呪われそうじゃん。




 はー、荒んだ心にアニマルセラピー。馬って絶対癒しのオーラでてる。いつからマイナスイオン生成は植物だけの特権と錯覚していた?

 思わず相棒の首筋に抱き着けば、走りながらも高く応えてくれた。は? 俺の馬かわいすぎでわ??


 こいつも俺につき合わされて、毎日毎日かなりの距離を走らされている。動物虐待やぞ。愛護団体に抹殺されるぞ兄上ゴラ。いいぞ、殺ってしまえ。


 この時代、馬は外国から伝わったばかりの最新トレンドだ。馬を持っている村とそうでない村で戦力は全然違う。

 うちの村は連合国の中枢ってこともあり、数十頭の馬を飼育している。そこからほとんど常時駆り出してでも、一の兄上は俺を村へ戻したくないらしい。


 なによ、俺そんなに嫌われることした? 政には興味がないって前々から、そりゃもう五歳の時から、表でもずっと公言してきてるってのに。兄上の心中御察しできなさすぎて困惑するわ。






 馬の脚で、夜をはさんで一日中走り続ける。

 何も遮るもののない見通しのいい原っぱを、馬と一体になって爆走するのは気持ちがいい。戦で荒んだ胸の内も、この時ばかりは幾分かマシになる。――ああ、でも。




 風に乗って、遠く争乱の音が聞こえる。

 金属の撃ち合う高い音。人々の怒声、わめき声。


 平らな原っぱの突き当り。これより先に道はない。

 ぽっかりと現れた谷。目下に巨大な集落が現れた。


 高地より合戦の地を見下ろせば、至るところで人々が争い合っている。


 剣を突き立て、矢で刺して。

 倒れた人影の麻で織られた白い衣は、鮮やかな紅の色に染まり、土煙立ち上る戦場を華やかに彩る。


 やや奥を見やれば、溝に囲われた集落がある。そのさらに内側には背の高い柵が巡らされており、二重の盾のそのまた内に、身を寄せ合って震える人々の姿があった。




 ――戦だ。


 侵略者共はかなりの人数で押しかけてきていた。騎馬の数もそこそこある。


 地面に倒れ伏す赤い人影の散らばりようから推測するに、戦闘が開始されたのはもっと集落から離れた先であったのだろう。それがどんどん押されて、こんな目前まで後退してきたというところか。


 状勢は、集落側が押され気味、と。

 馬と共にあったことで高揚していた気分が、すうと冷めて行く。


 ここから先は、殺し合いだ。




 目をつむり一つ、息を吐く。

 瞼を再び開けたときには、既に覚悟は定まっている。


 さあ区別しよう。

 どれも同じに見える人間たちの中から、敵であるのかそうでないのかを。

 同じ人間を、仕分けるのだ。

 命の価値を、見定めるのだ。


 縺れ重なる人々の群れ。絡み合っては、どれがどれだか見分けがつかない。

 味方の印、腰につけた赤い帯。

 弓に矢を番え、それだけを頼りに標準を絞れば――




 ああ、嫌だな。


 思わず"笑み"が漏れた。

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