桜の季節。

 息が苦しくなるような若菜の薫りと、アスファルトから滲み出る微熱。眩しい光に導かれながら一定のリズムを靴音で刻んでいると門が見えてきた。


 僕と新たな世界を隔てる境界線。すらっと伸びた影に続いてそれを通過する。心拍が気持ちよく加速するのを感じた。


 白い校舎、青い空。アスファルト、制服の人の群れ。風で揺れる緑の大木。

 目に映るものすべてが単純だった。


 何度目のリセットだろうか、と思ったが、かぶりを振る。機会を無駄にし、私が同じことを繰り返してきたのだ。


 変わろうとした。できなかった。変わりたかった。できなかった。

 そして、再び桜の季節。


 花びらが舞う通学路で、私は震えるこぶしを握りしめた。

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