優しい男の異世界建国記

北畠義顕

第一章 天地開闢

第1話 終わりの始まり

午後5時半。久しぶりに定時で仕事が終わった。


「ふぅ~。終わった~。早く帰れるのは本当に久しぶりだ~。うれしぃ~。」


 俺は沢村翔。29歳のしがないエンジニアだ。

ここのところ凄く忙しく連日終電ギリギリまで仕事をしていた。徹夜も何日かあったな。おかげでもうヘトヘトだ。


「沢ちゃん飲みにいかね?」

「先輩行きましょうよ~。」

同僚や後輩からのお誘いがあった。


「ごめん。今日は早く帰って家でゆっくりするよ。」

「沢ちゃん もしかして家で待ってる人が?」

「先輩。彼女できたんですか?」

「なわけないだろ。じゃあな。」

俺は誘惑を振り切り帰途についた。


 駅からでた俺は酒と食材を買うため駅前のスーパーに向かう。

酒のあて、何にしようか。やっぱ刺身ははずせないよな。

なんて考えながらスーパーに入る直前だった。


「きゃあああああ~。」

ん?悲鳴なのか?


悲鳴のした方向に視線を移すとスイッチブレードナイフを振り回す男と倒れてる男性、逃げ惑う人々がいた。


おいおい、やばいよ。誰か警察と救急車は呼んだのかな。

「来いよ!みんな殺してやる。殺してやるよ。」

こいつ薬でもやってるのか?酔っぱらいのようにふらつきながらナイフを振り回している。

事件発生から間もないのか店員などは出てきていないな。

俺から犯人まで100mぐらいの距離はある。関わりあいにないたくないな。でも野次馬根性でしばらく様子はみてしまう。


そんな時スーパーの自動ドアが開き中から女性二人出てきた。一人は三十代半ばぐらい一人は女子高生いや中学生かな?母娘だろうか?二人とも清楚な美人だ。あんな可愛い女性これまでの人生で見た事ない。


俺は無意識にその母娘らしき女性に向かい近づいていた。

ナイフを振り回す男も入り口の方に向かっていたので母娘に気が付いたようだ。


「死ねえ~~~~~~!」

母娘は訳わからずなのか恐怖でか動けずにいる。

母親は娘に覆いかぶさりかばうのが精一杯だ。

血の付いたナイフが振り上げられる。


「いやあああああああ!」

ナイフが母娘めがけて振り下ろされようしたしたその瞬間。

「誰だ?手をはなせ!」

間に合った。俺はナイフ魔の手首をつかんでいた。

あれ?こんなことしようと思ってなかったのに。

でも今更手を放すわけにはいかな。

「早く逃げて。」

「はい。すいません。」

二人は安全な所まで離れた。出てきた店員さんが保護してくれたようだ。


「早く警察呼んでください。」

「すでに呼んでるんだけど。」

「誰か一緒にこいつ抑え込んでください。」

「・・・・・・」

誰も協力してくれない。遠巻きに見てるだけだ。

怪我したら損てなことだろう。

何度か頼んだが反応は同じだ。

仕方ない。解るよ。ほんの数分前まで俺も同じだったからさ。

しかしこいつめっちゃ力強い。負けそうだ。

俺は体を鍛えてはいない。力は弱いほうだろう。死にたくない一心でナイフ魔を抑えているが、そろそろ限界だろうか。ナイフが何度か俺の皮膚をかすめる。


俺の体に大きな衝撃が走った。刺されたか?痛みは・・・・無いな。ナイフ魔の胸に赤いのがついてるよ。俺の血?

血なのか?


警官らしき人が何人かナイフ魔を抑え込んだようだ。よかった。終わった。と思ったら激痛が走った。腹が痛い。足元がぐらつく。立っていられず俺は膝をつきそして倒れた。


俺の周りを何人か取り囲み何か言っているが何も聞こえない。

俺は死んじゃうのか?俺の人生は終わりか?

恋人もできなかったし大した人生じゃなかったな。

美人さん二人助けたからいっか。お人好しか俺はw


頬に何か冷たい物があたった。雨か。


俺は瞼を閉じた。どしゃ降りの雨の中。

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