1 主任研究者輸送計画

 ――此処は国際魔法研究機構、通称【IMRO(インロー)】とよばれる魔法科学研究の粋が集められた場所である。

 そこには世界各国から魔法科学研究を専門とする研究者が集い、日夜新たな技術の開発が行われている。

 これは【IMRO】史上最大の、命題とも言える研究に挑んだ科学者達の物語である。


 ――西暦2666年8月某日、【Dimensional(ディメンショナル)excavation(エクスカーヴェイション)・次元発掘じげんはっくつ】(以下DE)と銘打たれた研究に挑む主任研究者チーフリサーチャーティエラ・ディ・ヨングスは、中央棟メインホールの喫茶スペースで1人ぼやいていた。


「はぁ……結局は出力が足んないのかしら……でも上げ過ぎても結局それに耐え切る方法は無いし……観測する前に試験室テストルーム、いえ、第3試験棟自体が消滅しちゃうわよね。そんなことしたらあの計画・・・・となんも変わらないし……本当に困ったわね」


 ――現在時刻14時23分、ティエラは研究に行き詰まり、ただただ途方に暮れていた。否、平たく言えばサボっていた。


 ――コツコツコツコツ


 エレメンタラード社の新作、ゴレニウムシューズは大魔理石だいまりせき製の廊下によく響いた。


「またここか……皆お前を待っている。早く戻れ」

「……イヤよ、戻ったってどうせ結果は変わらないわ」

「そういう問題ではない、お前の権限無しでは魔粒子増幅装置エーテルコアブースターが使用できん。今回の試験テストで区切りだろう。さあ、早く戻れ」


 魔操作技士エーテルコントローラー班長エドワード・エインハースは、少々サボり癖のある上司、ティエラに対し、常日頃から諫言かんげんを呈する人物の1人である。


 「だから何? 試験テストなんか何度やっても変わらないのよ。無駄無駄」

試験テストを重ねることは無駄ではない、少なくとも示すデータは毎回僅かだが違う」

「はぁ……エド、あんたってどこまで堅物なのかしら」

「家でケムが待っている。テストを終えなければ帰れない」 

 

 ティエラがサボり、エドワードが連れ戻す。これは【DE】研究チーム結成後からの慣例となっている。


「あんたんとこの犬なんか知らないわよ」

「そうか……わかった。ならばこうしよう」

「な、あんたちょっとやめなさいよ! 放しなさいってば!」


 エドワードはティエラを肩に担ぎ上げ、足をバタつかせて抵抗する彼女に1つ溜め息を吐く、エドワードはやれやれと首を振ると、再び今来た道を戻り始めた。


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