それでも、画面の中のぼくは叫ぶ

御厨カイト

午後8時30分


僕はパソコンの前に座り、配信の準備を始める。


毎日、きっかりこの時間から準備を始めているから、時間になるとここに座るように体にインプットされるようになった。

さっき作った待機所を覗いてみると、もう1000人以上の人が待機している。



「待機~」

「今日もイケボ楽しみにしています」

「今日はどんなゲームをするのかな?」

「たいき」

「まだかなー」



そして、チャット欄にはたくさんのコメントが流れている。


だが、ここにいる皆は僕のことを待っているわけではない。

チャンネル登録者50万人越えのヴァーチャルユーチューバーの「西園寺レオ」を待っているのだ。

この「西園寺レオ」というのは「僕」であって僕じゃない。

僕という自信のない男が被っている偽りの姿だ。


だが、この時間だけは僕は別の存在になることが出来る。


そんなことを思いながら、配信の準備をしようとブラウザを開くとあるネットニュースが流れてくる。

見出しとしては「有名Vチューバーがまた失踪!これで6人目か!」


これは最近、テレビのニュースでも取り上げられるようになったニュースだ。


ここ半年ぐらい前から、ネットの中で結構話題になっている。

始まりは今から半年ぐらい前、チャンネル登録者数80万人越えの人気Vチューバーの「東雲ユウキ」が急に失踪した。

ある日を境に配信も無くなり、ツイッターなどの投稿が止まってしまう。


そういうことに機敏なネットの中の住人たちはすぐに「失踪した」とか「神隠し」だとかで騒ぎまくった。

まあ、こういうことはあることではあるのですぐに鎮火するだろうと思っていたが、実際に中の人の捜索届が出されたと言うのがネットの片隅から流れてきてから尚更騒ぎが大きくなった。

そしてそれからというもの、何人ものVチューバーがこの半年間に失踪することになる。

ほとんどのVチューバーがチャンネル登録者数50万人越えの人気な人ばかりでそのせいもあってかネットの中でもスレが立ったりしてとても話題になった。

今でもその失踪した人は戻ってきてないからこの騒ぎがまだ加速を続けているのも無理がないだろう。


そんな流れてきたこのニュースのことをふと考えながら、僕は配信の準備の続きをする。

黙々と配信の準備をしているともう配信の時間になる。


気を引き締め、1回深呼吸をして、いつも通り「西園寺レオ」という皮を被って配信をスタートさせる。

リスナーが作ってくれたオープニングを流して、「こんばんわー!」というをいつも通りのあいさつをしようとしたその時、いきなり画面からさんざめくほどの光が僕の目を直撃する。










*********






どれくらいの時間が過ぎただろうか。

僕はいつの間にか気を失っていたらしい。

何故かところどころが痛い。

そしてなぜかさっきまで座っていたはずなのに立っている。


そう思い、目を開け、あたりを見回してみると



ど、どこだここは。



そこにあったのは見慣れたオタクグッズばかりの自分の部屋ではなく、たくさんのビルが立ち並ぶ「街」の風景だった。

いつの間にこんなところに来たのだろうか。

心当たりは何となくある。

多分、さっき僕を襲ったあの光だろう。


だが、そんなラノベのようなことはあるのだろうか。


だが、一先ずここが日本のどこなのか確認をしなければ。

そう思ってあたりに手がかりがないか目で探す。


「すいません。」


ビクッ


いきなり、誰かから声を掛けられた。

いつの間にか僕の後ろには1人の女性が立っていた。


「あ、脅かしてしまってすいません、あなたのようなイケメンな人がここにボーっと立っていたので心配になって声を掛けたんです。」


なるほど、そういうことか。

というかイケメンか。

この人の目は腐っているんじゃないのか。


こちとら、顔は痩せこけ、目の下に隈があるような典型的なニート顔だぞ。

そんな顔をイケメンと呼ぶなんておべっかが過ぎる。


何だったら、彼女こそ自分の顔を鏡で見た方が良いのではないか?

美人で清楚そうな顔、ツヤのある黒髪に綺麗の整った目、そしてナイスバディ―。

こんな女性がいたら世の男性は放っておかないだろう。


だが、何故か僕はこの顔を見たことがある。

どこで見たのだろうか、こんな美人の顔だったら絶対に覚えているはずなのに。


そんなことを1人、考えていると彼女は僕が警戒していると思ったのか話を続ける。


「ところでお兄さんはこんなところでどうしたんですか?誰かと待ち合わせでも?」


そう尋ねられて僕は少し考える。

ここに来るまではただ配信の準備をしていただけ。

そもそも、僕には待ち合わせるような友人も知り合いもいない。


「うーんと・・・、そもそもここは一体どこなのでしょうか?僕、気が付いたらここに立っていて、何が何だか分からないんです。」


僕がそう答えると彼女は「なるほど・・・」と呟く。

よくもまあ、こんな滅茶苦茶怪しい発言を疑わないな。


僕だったら今頃、110番しているところだろう。


「まぁ見たところ君Vチューバーの子だよね。良ければそれっぽい所まで案内しようか?」


「え、良いんですか。じゃあ、お願いします。」


「うん、私の後ついてきて。」


そう言うと彼女はその場所に向かって歩き始まる。


なんて優しい女性だろうか。

こんな美人な人が道案内までしてくれるなんて、僕の人生もまだまだ捨てたもんじゃないな。



ん?


ちょっと待てよ。

いま彼女なんて言った?


僕は今の彼女との会話を思い出す。


『まぁ見たところ君Vチューバーの子だよね?』


彼女はさっきそう僕に向かって言った。


一体どういうことだ。

なぜ彼女が僕の正体について知っている?

これは聞いてみないと。



「ちょっと待ってください。」


「うん?どうかした?」


「あなた、さっき僕のことをVチューバーの子だよねって言いましたよね?」


「ええ、だって綺麗な金髪だし、服装もどこかの王子さまって感じだし、ちょっと根暗そうだけど。そんな見た目をしている子なんてVチューバーしかありえないでしょう。」



最後の根暗そうと言うのはあとで言い間違いか何かかどうか問いただすとして。

一体どういうことだ。

綺麗な金髪をしていて、服装もどこかの王子様のような感じ?

それってつまり・・・


「すいません、鏡か何か持っていませんか!?」


「え、ええ、持っているけれど。」


「貸してください!」


「は、はいどうぞ。」


突然僕が出した大声に圧倒されながらも彼女は僕に手鏡を手渡す。


まさか、そんなことがないと考えながらも僕は鏡を覗き込む。


反射された自分の姿。

覗き込んだ先にいたのは・・・



「うそ、だろ・・・」



そこには「僕」、つまり「西園寺レオ」が映っていた


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